第73話 帰宅の前に登城せよ配信

 ドラゴンについて知れた私は、早速ベータちゃんと家路に着こうとしたのだが----


「すみませんが、シガラキ代表から許可を得ていませんので、残念ながら飛べませんね」

「そっ、そんなぁ……」


 無理だと、パイロットさんに断られてしまった。

 残念ながら、そう簡単に帰れないようである。


 シュンカトウ共和国から、私の住む辺境イスウッドまでは、ドラゴンでの遊覧飛行で3時間半近くかかっている。

 のんびりとした空の旅ではあったが、それでも3時間半もかかったのは事実であり、乗り物がなければ帰る事は難しいだろう。


「恐らく、歩きですと山を越えるので2日はかかるかと」

「それは無理だね」


 ベータちゃんの分析で2日もかかると言われているため、ここは行きと同じく送ってもらうのが良いでしょうね。


「もし帰るのでしたら、代表から許可を貰うか。あるいは、相応の金額を貰いませんといけませんね。ドラゴン輸送は高額ですため」


 そう言って、パイロットさんが提示された金額は、めちゃくちゃ大金。

 私は成果報酬として2000万をもらったが、それを踏まえても足りないほどの高額である。


 シガラキ代表に話を通せば無料になるのだから、彼女に話を通して早く帰してもらうように頼むとしましょう。




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 そうして、シガラキ代表に話を通した結果----。



「なんで、こうなるんだろう……?」

「マスター、諦めましょう。来てしまったから、仕方ないです」



 私とベータちゃんの2人は、シガラキ代表と盟主が住まう城【シュンカトウ城】に来ていた。

 そう、家路に着く前に、なぜか盟主の城にやって来ていた。


「すいませんね。このゴーレムを、我が盟主様に披露したいと思いまして」

「ラーメン伝説が始まるアルよ! ススリア代表!」


 城に行く理由は、シガラキ代表に納品したコック型ゴーレムのジュールである。


 そもそもドラスト商会は盟主様のための御用商人であり、ジュールの話を通信して話した結果、興味を示したため持って来てほしいという事である。

 それならばジュールだけで良いと思ったんだけど、フランシアさんの事もあって一度顔を合わせて話したいとの事だそう。


 ----私としては、すぐさま帰りたいんだけど。


「大丈夫です。今日お会いするのは盟主様ではなく、フランシアさんのお兄様とお姉様ですから」


 シガラキ代表はそう言うが、どちらにせよ気になるのは確かである。

 いきなり盟主様自らが会うと、私が困惑するからと、今日会うのはフランシアさんの兄と姉、つまりはこの国の王子様とお姫様だけだそう。


「今日会うのは第一継承権保持者の【シセン】王子と、第二継承権保持者の【シミット】王女です。どちらもフランシア姫様とは違い、商売が大好きな方であると同時に、礼節を弁えている方ですので大丈夫かと」

「本当に……?」


 シガラキ代表にそう聞くと、サッと目線を逸らされてしまった。

 ……おい、なんで逸らすんですか? 不安でしかないだろう。


「まぁ、今回はススリアさんの顔合わせ、それにジュールの性能披露という感じでしょう。文字通り、『謁見』です」


 だいたい30分程度で終わる話し合いであり、私とベータちゃんも名前を言った後に、「よろしくお願いします」の一言で終わる話し合いなのだそうだ。

 その後に、「フランシア姫様をいつもありがとう」と言われて終了。長引いても2つか、3つくらい質問をされるくらいだろうだ。


「ススリアさん、偉い人の会議というモノはだいたい『始まる前からの段取りがしっかり決まっている』のです。その会議でどんな質問をするというのが、予め文面にて渡されており、その場で文字通りの『質疑応答』というのはあまりないです」

「なら、安心なんだけど……」


 なんだろう、なにかのフラグのように思えてしまうんだが。

 ここまで念押しされると、逆に質疑応答ばかりされそうな未来が見える。


「大丈夫ですよ、マスター! いざとなれば、私がマスターを守ります!」

「えぇ、ススリア代表! いざとなれば、私も守らせていただくアル!」


 ベータちゃんはフライパンを、そしてジュールはどんぶりを構えながら、そう言ってくれる。

 守って貰えるのはありがたいんだけれども、ジュールはそのどんぶりでどう守ってくれるつもりだ?

 いや、ベータちゃんのフライパンも、武器としては心許ないけれども。


「まぁ、いざとなればシガラキ代表に全部、任せますので」

「えぇ! 普段から盟主様達とお話させていただいております、この私にお任せください! 文字通り、『泥船に乗ったつもりで』!」


 ----それって、沈むダメなヤツじゃない?


 まぁ、シガラキ代表にお任せするとして、私は謁見に向かうのであった。




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




「という訳で俺には、商人同士の交流を円滑に進めるための魔道具を!」

「わたくしめには、お客様との交渉を円満に進めるための魔道具を!」


「「是非、納品してください!!」」


 ……おい、タヌキ。

 フラグ通り、王子とお姫様の2人に詰め寄られてるんだが?


 目を合わせろ、早く代わりに対応してくれよ。

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