第19話 うるさい女騎士を分からせるんだが配信
----次の日。
私の家の前で、私と女騎士ゾックスのご指導対決が始まった。
「----今日は、よろしくお願いします。ススリアさん」
「……よろしくね」
私の指導を受けられて嬉しそうなゾックスさんとは対照的に、私の心はどこまでも冷え切っていた。
なにせ、あの後、ベータちゃんを必死に説得したんだけど、夕食が1品、私の分だけ少なくなっていたから。
しかも、ハンバーグ。
基本的にみんな大好き目線で、私がベータちゃんに調理工程を
弟子であるタラタちゃんが美味しそうに食べている中、その横で動物みたいにむしゃむしゃとサラダを食べることになった私の気持ち、分かるか? 分かるだろう?
「あわわっ、師匠ススリアが怒っているであります……!!」
当たり前だろ、タラタちゃんよ。
なんで師匠がサラダを食っている横で、美味しそうにハンバーグを食って許されると思う?
弟子ならそれくらい、普通に察するべきだが?
「(この訓練が終わったら、タラタちゃんにはいっぱい指導してやろう)」
まぁ、訓練ではなく、ただの私の八つ当たり、になってしまうかもしれないが!
「----ルールについては、昨日話した通り、で良いんだよね?」
「はい、そちらでお願いできればと思っておりますので」
ルールというのは、ゾックスさんとのこの指導についての取り決めの事である。
ひとつ、一番最初に攻めるのはゾックスさんに譲る。
ふたつ、お互いに相手を殺さないように木刀など殺傷性の低い武具を用いる。
みっつ、ゾックスさんが一本当てるか、私がゾックスさんを気絶させるまで指導は続く事とする。
まぁ、大前提クラスの、特に面白みもなんともない取り決めである。
ちなみにこの取り決めが行われたのは件の夕食時にであり、しかも(私にとっては)大戦犯であるゾックスさんはチーズ入りハンバーグを出されるという始末……!!
「良いぜ、かかって来なさい……」
「はっ、迫力が凄すぎです! それだけこのご指導を真剣に受け止めてくれて、嬉しいです!」
ご指導を真剣に……?
いいや、単なる----食べられなかったお返し、だよ!!
こうして、私とゾックスさんの試合は、かなり不穏な気配を私が漂わせながら、スタートするのであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「----参ります」
ゾックスさんはそう言うと、木刀を左手で持つと、それを肩に担ぐというかなり独特なポーズを取った。
そして、地面を強く蹴ると、釣竿のルアーを遠くまで飛ばすかのように、大きく振りかぶって斬りかかって来る。
「(話し方とは違って、彼女の剣はかなり荒っぽいな)」
丁寧な所作とは対照的に、彼女の剣筋はかなり荒っぽい。
レイピアのように、木刀を真正面から捉えて斬るのとばかり思っていたが、大振りな所から見るに、人との対決よりも、魔物との対決を意識した剣術っぽい。
「----はっ!!」
そうと分かっていれば、対策も簡単だ。
魔物相手の剣術というのは、大きく分けて2種類に分けられる。
一撃離脱か、あるいは相手を一気に叩くために力を込めるか。
どちらにせよ、一撃が大事なのには違いない。
「そうとさえ分かっていればっ!!」
私は大きく振りかぶって斬りかかると分かっていれば、あとはそこだけ気を付ければ良いだけだ。
私は錬金術で左手に強化の術式を施すと、その強化した腕で彼女の腕を受け止める。
----カンッ!!
腕に木刀を叩きつけたに関わらず、まるで硬い金属に打ち付けたかのような音がしたのと同時に、私は右手で持っていた木刀で彼女の左手を叩く。
「----っ!!」
木刀で思いっきり手を叩いたことにより、痛みに耐えきれなかったのか、ゾックスさんは木刀を手から放してしまう。
慌てて拾い上げようとしたところ、私は木刀を彼女の顔に突きつける。
「チェックメイト、で良いよね?」
「----っ!!」
左手で強化して硬くした腕で受け止めて、相手の勢いを消す。
そして相手の手を叩いて剣を落とさせる。
魔物相手なら絶対に使えない戦い方だが、こと対人戦に限って言えばこれが正解だ。
得物を持っている者と持っていない者、どちらが有利なのかは火を見るよりも明らかである。
「ご指導というか、その戦い方だと隙が多い。魔物相手だとしても、もう少し大振りを避ければいいんじゃない?」
いや、私は武の道にはもう興味ないから、これくらいしか言えないけどね。
さぁ、指導は終了! あとは残った怒りをタラタちゃんにぶつけてーっと!
「……まだ、です」
ざっ、と兜が地面から落ちる音が聞こえて来た。
そして、こちらに向かって、先程よりも勢いよく迫って来る音も。
「殺気出すぎ----っ?!」
「まだです」と言ったタイミングから、なんかこちらに攻めてくるのは殺気がびんびんにぶつけられていたから分かっていた。
だからこそ、狙いすませたタイミングで、木刀を叩きつけようと、後ろ斬りを披露したのだが----
----ガブッ!!
「なっ……?!」
私は、木刀を受けて気絶しつつも、その木刀を食べる彼女の姿に驚いていた。
……いや、木刀を食べているのは、彼女であって、彼女ではない。
私の木刀を食べていたのは、彼女の兜の下にあった金色の髪----それが、まるで生き物のように動いて、獅子のような顔を作り出し、私の木刀を食べていたのである。
生きる獅子の髪----なんだ、これ?
「ちょっと待って欲しいんだ、ニャアあああああ!!」
調査のために、剣に持ち替えて斬って採取しようとしたその時である。
ドラゴンに乗ったスコティッシュさんが、全力の大声でこちらを止めて----
「その方は、うちの盟主様の娘様でございます、ニャア! 一刻も早く、剣を
----そんな事を言い出したのである。
え? つまり、共和国のお姫様?
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