第20話 おいおい女騎士は実はお姫様だったんだが配信

「----この方は、シュンカトウ共和国の盟主様の娘、【フランシア】様でございますです、ニャア」

「そんなに緊張なさらずとも良いので、気軽にフランシアと、お呼びくださいませ」


 ぺこりっと、ゾックスさん----いや、改めフランシアさんは丁寧な所作にて、私に頭を下げる。


 いま、この応接室には私とベータちゃん、そして共和国のお姫様だと分かった女騎士のフランシアさんと、盟主様から行って来いと言われてきたスコティッシュさんの4人が居る。

 ちなみに、タラタちゃんには、錬金術の難しめの課題を出しておいた。チーズハンバーグの恨みは忘れてねぇからな。


 突如ドラゴンに乗って登場したスコティッシュさんによると、彼女はシュンカトウ共和国盟主の三女、私達の王国風に言えば王位継承権第五位の人物であり、立派な王族なのだそうだ。

 彼女の上には4人のお兄さんとお姉さんが居るらしく、その4人とも非常に優秀な人物らしいので、次の盟主になる可能性は限りなく低いらしいのだが、それでも気軽に接して良い人物ではない事は確かである。


 そんなお姫様がなんで女騎士を名乗って、この場に居るかというと。


 どうも、このフランシアなるお姫様、スコティッシュさんが私との契約の際にやったメンバー限定配信を見ていたらしい。

 そりゃあシュンカトウ共和国民なら誰でも見れるように撮ったし、盟主の娘なら見る機会もあるか……。


「とりあえずベータちゃんは、彼女とスコティッシュさんにドリンク出して。その後はなんか重要そうな話をするから、部屋の中に誰も通さないでね」

「了解しました、マスター」


 私の命令を受けたベータちゃんはすぐさま台所から、ホットミルクを2杯取ってきて、2人の前に差し出す。

 そして部屋から出て行ったのを確認した後、フランシアさんは話し出した。




「私、普段から女騎士として、ダンジョンに潜ったりしてるんです」

「いや、なんで?!」


 なんで守らなければならない王族のお姫様が、率先して危ないお仕事に手を出してんの?!


「凄い行動力、ニャアでしょ、ススリアさん」

「確かに凄いなぁ」


 スコティッシュさんの言葉も、なかなか凄いと思うけどね。

 なんだよ、『凄い行動力、ニャアでしょ』って。

 あと、やっぱりホットミルクは熱かったようで、ふーふーしながら飲んでる。どう見ても猫舌だもんね、スコティッシュさん。


「普段から率先して、ダンジョンで高価なものを取って来る行動力……! まさに、王族の鑑なんです……」

「あっ、そっち?!」


 あぁ、そうか。

 シュンカトウ共和国って、商売第一の国家だもんね……。


 ダンジョンという高価な品物がジャンジャン出てくる場所に率先して行くなら、かの共和国の考えからして見れば、『自ら危険な場所に行って、高価な品物を仕入れて来る商人』という感じになって、感動ものかぁ……。

 これもお国柄の違い、というヤツだろう。


「それでその髪も、王族の特徴ってヤツですか?」


 私はそう言って、フランシアさんの髪----獅子のような形で動く、異形の髪を指差す。

 頭の上で、髪で出来た獅子が口を大きく開けて、獲物を威嚇する様は、どう考えても普通ではない。


「それは……」

「良いの、スコティッシュ。そこからは私が話します」


 明らかに言いよどむスコティッシュさんを止め、覚悟を決めたかの様子のフランシアさんが話す。


「これは、わが国では『呪いのビギナーズラック』と呼ばれています」

「呪いの……え? 何て?」

「『呪いのビギナーズラック』です、お師匠様」


 誰が師匠やねん! 私はそんなもの、認知した覚えはないんだけれども!


「----順を追って説明します」


 順を追う前に、師匠と呼んだ経緯を話してくださいよ!!




「私は王族でありながら女騎士として、人々の暮らしの安全と安心を守りつつ、ダンジョンから入手した品物を売り捌いてガッポガッポ稼ぎながら、経済を回しておりました」


 うん、『ダンジョンから~』以降の話は言わなくて良かったね。

 共和国民らしい感覚だとは思うけど、人から聞いたらやべぇ商人としか思えないよ。


「この髪は以前、冒険者同士でパーティーを組んだ時の、"蘇生術のビギナーズラック"です。知っておりますか、"蘇生術のビギナーズラック"って」

「噂程度には聞いたことがあるね。私の通っていた学校は優秀な人が多かったから、あくまでも人伝だったけど」



 蘇生術----それはダンジョン内でしか使えない、なおかつもっとも扱いが難しい術の1つである。

 普通、生物が死ぬと肉体から魂が離れてそのまま死んでしまうのだが、魔王ユギーの力によって異空間化しているダンジョン内では死んだ後も魂がダンジョン内で留まってしまうのだそうだ。

 そんな状態の時のみに使える、死んだ者を蘇らせる術、それが蘇生術である。


 そんな特殊な状況でしか使えない蘇生術、当然ながら失敗する可能性もめちゃくちゃ高い。

 中でも初心者にありがちなのが、仮に成功して蘇生できたとしても、腕が3本になったり、あるいは指がくっついちゃったりと、なんらかの違和感を与えたまま蘇生させてしまう状況もある。

 そう言うのを含めて、"蘇生術のビギナーズラック"というのだそうだ。


 しかしながら、それはあくまでも、ちょっとした手術で治る程度の代物。

 こんな風に髪の毛が獅子の形で、しかも意思を持つというのは、確かに『呪い』と呼んでもおかしくない状況かも知れない。


「実はそのダンジョンで私は、ダンジョンボス----それも、名持ちの悪魔に、頭を粉砕されて死んでいるんです」

「名持ちの悪魔?!」


 魔物の中でも、悪魔というのは残忍な事で有名だ。

 そして魔物というのは名持ち、つまりは個体としての名前を持っている者は、他の個体よりも強い。

 悪魔、そして名持ち----あまり良い組み合わせとは思えない。


「その時のパーティー、唯一の蘇生術を持つ神官に対して、悪魔は取引をした。

 『見逃しても良いが? その代わりに今ここで、私が取り出した魔物の肉を使って蘇生せよ』と」

「その結果が、その髪という事ですね」


 なるほど、話が分かって来たぞ。

 つまりはその魔物の肉に、悪魔がなんらかの呪いをかけていたせいで、このような異形の髪になってしまった、と。


「この髪は近くにあるモノを食おうとする性質があり、普段は兜で抑えているのです、ニャア。そして神官などの調査によると、その悪魔を討伐しない限り、フランシア様の髪は元には戻らないと言われた、ニャア」

「それは、大変ですね」


 お姫様の髪が、呪われているだなんて、醜聞しゅうぶんも良い所だもんね。

 そう思っていると、フランシアさんがこちらに向かって、


「お願いします、お師匠様。私と共に、その悪魔を討伐していただけないでしょうか」


 ぺこりと、真剣みを帯びた態度で、土下座しながら頼み込むフランシアさん。

 ……いや、だからお師匠様じゃないんだけども。


「悪魔は狡猾こうかつで、残忍ざんにんで、そして欲深いです。被害が私だけで済めばそれで良いと思っておりましたが、今もなおその悪魔は私と同じような被害者を増やし続けています。

 私は待ち望んでおりました。この危機を覆すほどの、最強の武力の持ち主を! そして配信で見てあなただと直感したのです!」

「直感しないで欲しいなぁ」

「お願いします! なにとぞ、悪魔討伐に助力を!」


 ……いや、マジで嫌なんだけど。

 どうやって断ろうかなーと思っていたら、うちの弟子であるタラタちゃんがフランシアさんの前に座り込んだ。


 てか、いつ入って来たの?!

 課題はどうしたんだ、課題は。


「顔を上げてください、フランシアちゃん」

「タラタちゃん……」


 いや、なんでそこでウルウルとした瞳が出来んの?

 あんたら、昨日夕食を食べたのが初顔合わせくらいの間柄ですよね?


「師匠がそんな危機を、見逃すはずがありません!」


 見逃す気満々なんだけど?


「私も手伝います! だから師匠と3人で、一緒に悪魔を倒しましょう!」

「タラタちゃん……はいっ!!」


 いや、なんで私も手伝う流れに……。



「……すみません、フランシア様に頼まれまして撮らせていただきました、ニャア。商売としての信用も大事ですが盟主様には逆らえませんです、ニャア」

「断れない流れって訳ね。分かります」


 そういえば、スコティッシュさん----ドラスト商会は、シュンカトウ共和国の盟主様の一族には逆らえないんでしたよね。

 そしてフランシアさんは、その盟主の娘----つまりは、お姫様だから、命令されたら逆らえないから、断れないようにするために配信をしていた、と……なるほど、なるほど。


 とりあえず、次の商売の契約では2.5倍の金額で契約するから許してと、赤字覚悟の大サービスで手を打った。

 手を打ったというか、涙ながらに縋りつけられたら断れないよね。うん。


 「納得しないのでしたら、代案を出してください! 出来る限り叶えますので!」と言われては、納得せざるを得ないというか、これ以上追い詰めるのはめちゃくそ可哀想すぎて何も返せませんよ……。


 こうして、私は不本意ながら、その悪魔が居るという共和国のダンジョンに向かう事になったのでした。

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