第21話 お忍びでダンジョンボスと対決するんだが配信

 スコティッシュさんのドラゴンによる輸送便に乗りこんだ。

 メンバーは私とタラタちゃん、そして肝心要のフランシアさんの3人であり、ベータちゃんとデルタちゃんの2人にはお留守番をお願いしておいた。

 ……まぁ、留守番するのはいつも通りベータちゃん1人で、デルタちゃんは外で素材回収で家には居ないけど。


 山を越えて、2時間ちょっとの空の旅を行い、私達はシュンカトウ共和国にやって来た。

 あっ、ちなみに普通に不法入国ですね。はい。


 まぁ、お忍びの観光旅行と思って不法入国している気分ですよ。

 今から行くのは共和国の都ではなく、大怪我する可能性があるダンジョンなのですが。




 ダンジョン近くは、ドラゴンは降りられないらしく、私達はダンジョンから少し離れた場所に降り立つ。

 まぁ、現にお姫様の髪があんな事になっていたら、まともな生物なら近寄りたくはないよね~。

 現に私だって、出来れば近寄りたくないというか、もう帰りたいんだけども。


「ここですね」


 そんなこんなで、お姫様を現在進行形で苦しめている名持ちの悪魔が居るダンジョン前までやって来ました。


「----この20階層に、あの悪魔が、居るんです!」

「あっ、そう。では早速」


 私はそう言って、例の刀でざっくりと一刀両断!

 あっという間に、目的地である20階層に到着~っと。


「凄すぎるであります! 一気に目的地までショートカットできたであります!」

「私も、いつか頑張れば、この剣術が……!!」


 タラタちゃん、確かに一気にショートカットは出来るけど風情がないというか、色々と言われそうだからあまり使いたくないのよね。

 あと、フランシアさん? どんなに頑張ってもこんなショートカットなんて出来ないのよ、この刀の魔術付与のおかげだからね。


 そんな感じで、私達はダンジョンの中に入って行ったのだけれども。



「----はぁ? 風情がないんだが?」



 ----ぞぞぞっ!!


 ダンジョンに入るや否や、"そいつ"はダンジョンの奥から現れた。

 "そいつ"が件の悪魔であることは、すぐさま分かった。

 姿恰好がそうだからという話ではなく、雰囲気----"そいつ"が醸し出す負のオーラのようなモノですぐさま分かった。


 "そいつ"は、一見すると愛らしい少女のようであった。

 赤いベレー帽を被った黒いセーラー服姿をしているその少女は、『丸』という極東文字(前世で言う所の漢字みたいなモノ)が大きく書かれた数個の球体を宙に浮かせながら、こちらに現れる。


「いきなり無作法すぎるのだが? この私を、悪魔【シグレウマル】と知っての狼藉ですか」


 そう言って、シグレウマルと名乗るその悪魔は、"中にしいたけの傘に十字の切れ込みを入れたようになっている瞳"でこちらを見つめていた。


「「ひぃっ!! 目が人間なモノではない! 悪魔だ!」」

「……あぁ、そういう感じで表現されてるんだ。この世界の悪魔って」


 ガタガタブルブルと震える、タラタちゃんとフランシアさん。

 一方で私はというと、かの悪魔が、まさかアニメとかで見た『目がしいたけ』みたいなのになってるとは思わないじゃん。


 あんなん、ただ瞳の中に十字があるだけですよ。

 まぁ、負のオーラを纏っているけれども、あの瞳を恐れる必要なんて、なにもない。


 2人にとっては明らかに人外な姿に見えるが、私にとってはアニメとかで見慣れた姿であったため、けっこう平然と立っていられた。


「----へぇ? なかなか肝が据わっているんだね、そこのあなたは。お名前はなんだが?」

「ただの錬金術師、ススリアちゃんですよ。あなたがそこのお姫様にかけた呪いを、解除して貰いに来た」

「お姫様……? あぁ、そこのお姫様の事ですか」


 と、悪魔の眼が、震えながらも剣を向ける姫騎士こと、フランシアさんに向けられる。

 震えながら剣を向けるその姿を、悪魔シグレウマルは嬉しそうに恍惚こうこつの笑みを浮かべていた。


「あぁ、そちらのお嬢さんは私が以前関わらせてもらった同人誌さくひんですね」

同人誌さくひん?」


 「えぇ、そうだが?」と言いつつ、悪魔シグレウマルは高らかに語り出す。



「この世における全ての人間は、全員が主人公であり、なおかつ綴られる物語!

 私はそれを面白おかしく弄り回し、新しい同人誌さくひんへと変える!


 ----『共和国のお姫様として何不自由ない生活を送りつつも、満たされない。そんな欲求を満たすため、彼女は女騎士となり、冒険者となった』!

 あぁ、姫騎士! なんて素晴らしい響きの言葉! 守られる姫でありながら、守る騎士でもあるという、 そんな相反する2つの属性を持つなど最高なんだが?


 私はそれをさらに劇的にするために、演出イベントを加えただけだが?

 悪魔に敗れ、その結果として呪われし髪を持ちし姫騎士! 良い同人誌さくひんになった! それを実に、甘美だと、そうは思うのは当然だが?」



 ……何を言っているのか、意味が分からなかった。


 言葉は通じていた。

 しかしながら、その考え方については何も意味が分からなかった。

 

 やはり、悪魔。

 人間とはまるで違う完成の持ち主らしい。


「私の所に来たという事は、その演出イベントを"なかったこと・・・・・・"にするつもりですね。そうはさせないんだが?」


 語るだけ語った悪魔シグレウマルは、ふわりと重力などの法則を無視して浮かび上がると、周囲に浮かんでいた『丸』と書かれた球体を自身の身体の前に出す。


「邪魔するモノは容赦なく、排除するだけだが? ----『ウマルビーム』!!」


 彼女がそう告げると共に、球体の中心から大量の光線が、私達に向かって放たれたのであった。

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