第14話 ダンジョン前で弟子入り懇願配信

 ----刀造り配信から、3日後。


「ここが、ダンジョンか……」


 私はダンジョンに来ていた。

 

 ダンジョンというのは、魔王ユギーの力が働いて生まれた異空間。

 洞窟やら、遺跡やらとして、現れることが多く、私の目の前にあるのは山にいきなりポカッと空いた大穴----洞窟タイプでしょう。


 今から私は、この中に入って、ゴーレム達の素材回収をしようと思っている。


 ゴーレムは、大きく分けて2種類のゴーレムに分かれる。

 金属や土などを使った一般的なゴーレムと、動物の死体などの肉を使ったフレッシュゴーレムの2種類だ。

 今までベータちゃんやデルタちゃんは一般的なゴーレムとして、土や金属などで作って来たのだが、今回は素材自体から変えようと思い、ダンジョンの中に入るというのが目的である。


 デルタちゃんは構造上、異空間であるダンジョン内では足手まとい確定だから、こうして私自らがダンジョン内に入ろうという訳である。


「さぁ! 入りましょうです、師匠ススリア!」


 ----それなのに何故か、タラタちゃんとも一緒についてきた。

 ダンジョンに入ろうとしたら、何故かしれっと隣に陣取る彼女に、私はニコッと笑顔で話しかける。


「……タラタちゃん」

「はいっ! なんですか、師匠ススリア!」


 錬金術師の必需品、容量がいっぱい入るマジックバックを携帯する彼女。

 うん、入る準備はばっちし、みたい。


 まるで犬かなにかのように、頭を撫でてもらうべく、こちらに頭を差し出す彼女に、


「----てぇい!」


 私は遠慮なく、チョップを叩きこんだ。


「あぅっ!? 痛いです、師匠ススリア!」

「えぇい、黙りなさい! 誰がいつ、あなたの師匠になったんですか!」


 この押し掛け弟子、ススリアには、私の方から課題を出しており、その課題はまだ未達成。

 そんな状況なんで、まだ私はまだ彼女を弟子として認知してないんですが……なんで、その当人が、もう課題達成したみたいなノリでいるのかが、私にはさっぱり分かりません!


「タラタさん、あなたには課題を出していたはずです。あなたの錬金術で作ったモノで、この村人に商品を売れと言う課題は、まだ達成されていないと思いますが?」


 彼女の気概自体は、私も買っている。

 弟子志願でありながら、師匠であるこの私に商品を売り込むというのは、なかなか度胸があるとは思う。

 うちのデルタちゃんに出して来たサンプル品も、造り自体は悪くなかったし。


 だがしかし、結局あのサンプルは、デルタちゃんは買っていない。

 ただ貰っただけであり、そこに金銭的なやりとりは一切発生していない。


「私の課題は、錬金術の商品を売る事まで含めた試験内容。無料で配っても、課題クリアとは認める訳にはいきませんね」


 無料がオッケーだったら、駅前でティッシュを配るのと何も変わらない。

 そんなので弟子入りがオッケーだったら、弟子入りが物凄く簡単になってしまうではないか。

 

 1円だって良い、赤字でも構わない。

 ただ無料で配ったのを功績として、認める訳にはいかない。


「だからまだ、君の師匠になった訳ではないんだよ。タラタちゃん」

「いえ、私がデルタちゃんにサンプルを渡した際、私の弟子入りは成されたはずですっ!!」

「いや、だからね。商売として成立してないから」


 私、ちゃーんと説明したはずですよ?

 赤字でも良いから、ちゃんと商売として成立させなさい、って。


 だから今回のサンプルの件は、無効。

 そして村人さん達も別に彼女と取引したという話もないので、無効。

 未だ条件未達成なので、私達は師匠弟子の関係性ではないはずなのである。


「ふふふっ! 甘いですね、師匠ススリア!」

「なん、です、って……」


 なんかドヤ顔してるからノッて見たけど、ドヤ顔したところで、彼女が未達成なのは変わらない事実であって。


「師匠ススリア、私はデルタちゃんにサンプルを渡しました。あれは私の錬金術で作った製品です」

「それは、マスターとして聞いているんだけど……」

「その際っ! 私は担保を受け取っております!」


 担保というのは、高額な錬金術製品を依頼された際に、錬金術師が相手側に求めるモノである。

 作って置いて「知りませんでした~」とバックれられないために、相手が依頼してきた製品の金額の何割かを、担保として錬金術師は請求できる権利がある。

 勿論、バックれられなかったら、その担保は返却するんだけど。


「サンプル品に、担保……?」

「えぇ。デルタちゃんからは、その際にダンジョンから出て来た魔物のドロップアイテムである、この貝殻をいただいております!」


 ドンっと、私に貝殻を見せつけるタラタちゃん。


 ……うん、本当に貝殻だ。

 ダンジョン産だから貝殻の中では価値はあるけど、金属でないからそんな高度な錬金術には使えない、いわゆるガラクタ素材。


 それがどうしたと尋ねる私に、彼女はエルフ特有の長耳を触りながら答える。


「とあるエルフの集落では、金属のお金ではなく、物々交換をしている集落もあるであります」

「いや、私は商売を----」

「そして! 中には金貨や銀貨の代わりに、"貝殻"などで、商売が成立する圏もあるのであります! つまり、サンプルに対してこの貝殻を受け取った時点で、商売は成立! 私の弟子入りの試験はクリア、なのであります!」

「いやっ、そうはならんやろ」


 いくらエルフが長い間生きる、他の種族とは隔絶された生き方をしているとはいえ、貝殻をお金と見なすなんて考えを認める訳には----



(※)『認めてやったらどうや』



「----ん?」


 なんか聞き覚えのある音が聞こえて、ゆっくり顔を上げると、彼女の頭上には、精霊のように空を飛ぶ配信器材があって----


(※)『貝殻だってお金になる。そういう集落もあるさ』『私の場合、珍しい石でやったこともあるよ』『金属だけがお金ではない。真理だな』『というか、カワイイは正義だし、あるけみぃは師匠として受け入れるべき!!』


「なお、このやりとりは生配信中であります!」


 ----配信で、この流れで断る訳ないですよね?


 そういう声が聞こえてきそうな、タラタちゃんの無言の圧力に負け----



「----はい! 今日からタラタ! あるけみぃ様の弟子になります!!」



 ----結果、弟子が1人増えたのでした。

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