第15話 彼女の才能がヤバすぎるぞ配信
不本意ながら、私ススリアは弟子を取る事になってしまった。
スコティッシュさんの契約配信と同じく、弟子を取る事は彼女の配信によって流れてしまっているため、もう弟子入りしないという判断は出来ないだろう。
「まぁ、とりあえず今はダンジョンだ。異世界に入るから、配信は切っておいてね」
「いえ、このまま続けさせてもらうであります!」
(※)『ふぁ?!』『おいおいおいおい』『ダンジョン内は配信が出来ないはずなのでは?』『というかいきなり始まった配信、なに配信?』『えっと【ダンジョン内配信】って書いてるな?』『ダンジョンって配信できないんじゃ……』
「コメント、凄い事になってるけど……」
「あっ、そうでしたであります! ポチッとな、であります!」
タラタちゃんがボタンを押すと共に、コメント画面が私の前から消える。
恐らくだけどコメントが見えない状況にしているのだろう。
私はあまりしたことがないけど、コメント返しを一切しない配信というのもあるし、タラタちゃんがやろうとしているのはそういう配信かな?
「私は錬金術を用いて、ダンジョン内の映像を配信するという方法を思いついたのであります! 今回は師匠のダンジョンに弟子として付いて行くのと同時に、テストをしようと思っております!」
「ほうほう。それは実に面白そうな試みだ」
詳しい仕組みについては、話すとこの間の刀鍛冶配信のように真似する人が出て来るかも知れないという事で、渡された簡単なメモで確認する。
「(なるほど、ルーターか)」
彼女の提案は、前世で言う所の
パソコンの電波が弱い時に電波を増幅して繋ぐルーターのように、タラタちゃんが試作した魔道具は配信に載せる電波を増幅してダンジョン内と外を強引に繋げるという考え方みたいだ。
確かにこのやり方なら、ダンジョン内でも配信できる----。
錬金術師の私から見て、魔力の質や大きさからみて、このダンジョンは恐らく10階層程度の小規模ダンジョン。
30階層以上の中規模ダンジョン以上ともなると、このメモ通りならまだ弱そうだが、この小規模ダンジョンなら、ちゃんと機能すれば、十分にルーターとしての役割を果たして、外と繋げることはできそうだ。
商品化しても良いくらいの、驚きの魔道具。
しかし、私がそれ以上に驚いたのは、この考え方を、前世の記憶がない彼女が試作の段階まで持ってこれた事。
私ですら、このメモを見て、なおかつ前世の記憶ありきで思いついたのを、タラタちゃんは何の知識もなしに、ここまで辿り着いたのだ。
錬金術師として、錬金術の才能だけではなく、こういう発想力まであるとなると、ますます私なんかの趣味人が師匠になる事が恐れ多いと言いますか。
「ちなみに私の目的は、ダンジョン内から撮った映像が、配信にリアルタイムで乗れば成功。10秒以上かかった場合は要検証というくらいであります」
「60秒以上にしておきなさい。いきなり目的が高すぎるよ……」
まず、配信に乗るかどうかも分からないし、前世のルーターでも数秒の遅れが出るモノだって普通にあった。
1回目の検証で10秒以内を目標にするのは、流石に向上心が強すぎるよ。
まぁ、良いや。とりあえず目的階層がないなら、私は6階層あたりでゴーレムの素材を集めたいし。
「それで、師匠はダンジョン内でなんの武器を? 私は剣ですが」
そう言いつつ、彼女は魔術付与がびっしり入った剣を私に見せて来る。
ちなみに錬金術師というのは、基本的に錬金術としての才能だけではなく、自身での素材集めも視野に入れているためになにかしらの武芸を持つのが普通だ。
錬金術に使う材料集めを含めて、全て1人でやるというのが、錬金術師のスタートだからね。
まぁ、私の場合はデルタちゃんというゴーレムを用いることで、面倒な素材集めを任せたりして、時間確保しているし、そういうやり方もあるっちゃあるけど。
「今日は、試し切りも兼ねてダンジョンに潜ろうかと」
私は今回のメインウエポン、あの時の鍛冶配信の際に作っておいた刀を、鞘から抜きつつ彼女に見せる。
私はデルタちゃんに武器を渡して、素材集めをさせてはいるが、それでも錬金術師としてのポリシーはある。
それは自分が作った武器の性能は、自身で確かめるという事。
自分で作った武器の性能くらい、自分で確かめるというのが、錬金術師として最低限守らなければならないラインであると思って、私はデルタちゃんの武器を作っている。
「今回は、いつもとは趣向を変えた魔術付与を行っているからね。製作者としてはこれがどのくらい強い武器なのか確かめつつ、ダンジョン内でしか手に入らない素材を集めようという算段だよ」
「綺麗……刃文が綺麗……」
うっとりした目で、刃に頬擦りしそうになっているタラタちゃん。
今のままだと頬を切ってしまいそうなので、刀を持ってない方の手で押して、刀を鞘へとしまう。
「あぁ、なにするんでありますか、師匠! もう少しで、私の頬を持って切れ味を確かめようとしただけでありますのに!」
「ヤバい人の発想だからね、それ」
いや、刀に浮き出る刃文は製作者目線から見ても、確かに美しいとは思うけど、それで頬擦りしたくは流石にならないよ。
……魅了効果とか、いっさい付けてないんだけどね、これ。
「さて、それではいつまでもダンジョン前で喋ってないで、入るとしますかね」
「はっ、はいであります! では、1階層から最速タイムで目的階層まで----」
「えいっ」
----ザクッ!!
鞘から抜き、私が刀でダンジョンの入り口を斬ると共に、いきなり目の前にダンジョンの空間が歪み、自然あふれるフロアが現れた。
「うん、ちゃんと"
私は壁にかかれた『Ⅵ』という、ローマ数字を見て、実験の成功を喜んだ。
ちなみにダンジョン内には今、何階層かを知らせるこのようなローマ数字のマークが普通に目撃されている。
ダンジョンに元からある機能で、恐らく娯楽を愛する魔王ユギーが、そういう風な親切設計にしてくれたんだろうが、なんでそんな事をしてるかまでは聞くなよな。うん。
「よし、行くぞ。タラタちゃん」
そのまま私はずんずんと、奥へと進んで行った。
「ちょっ?! 今の刀、もっと詳しく教えてくださいであります~~!!」
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