第13話 デルタちゃん質問コーナーの裏で刀鍛冶配信

「それではこれから、製作非公開エリアになりますため、私が作成している間、デルタちゃんには皆さんの疑問を解決してもらうよう、お願いします」

「なっ?! 打ち合わせでは承諾しておりません?!」

「マスターからの命令! 皆の応対、任せたからね!」


(※)『なんか絶望した顔して草ww』『疑問解決のコーナーだ~』『てか、このゴーレム娘、明らかに応対向きではないだろ』『ベータちゃんは家事担当、この娘は戦闘担当と見た。オレの予想は当たるんだ』『じゃあ、質問コーナースタート!!』『お前が始めるんかいww』


 さて、配信はデルタちゃんに任せて、私は裏で作っておきますか。


 何故、デルタちゃんに任せて裏で作る、なんて事をしているかと言えば、モノ作りではこうするのが常識だからだ。


 モノ作りの世界において、製作方法の提示は、重要な意味を持つ。

 何故なら製作方法とは、自分の仕事の種、つまりは金になる方法だからだ。

 それは長年の経験によって辿り着いたモノであり、下手すれば数代単位でやっと今の製法に辿り着いたモノもある。


 いま私がやっているのは、『こうすればお金を稼げるものが作れますよ~!』というのを、無料で公開しているようなモノ。

 だから配信でモノ作りの技術を公開する際には、必ず秘匿する領域というのを作っておかなければならない。

 いわゆる『この部分は企業秘密だから見せられませんよ!』という部分であり、これは暗黙の了解として、誰が言い出したかは分からないが、皆守っている。


 ----まぁ、全部公開しているような馬鹿アホは、最初から居ないけどね。


 だから初めから、ここからの作業は配信では見せないようにするというのは、初めから決めていて、今日デルタちゃんに来てもらったのはそのためでもある。

 いわば、配信で見せられない時間の応対のため、という訳である。


 デルタちゃんに対応して貰って時間を稼ぐ中、私は刀造りを進めていく。 

 

 刀造りにおいて一番重要な部分、つまり企業秘密の部分は、刀造りには魔鉄が、実は2種類の硬さの違う魔鋼が必要だという事である。


 比較的柔らかくなるように作った魔鋼----専門用語的に言えば『心鉄』と、比較的硬くなるように作った魔鋼----こちらも専門用語的に言えば『皮鉄』。

 この2つの心鉄と皮鉄、その2つの硬度の差が大きければ大きいほど切れ味が良くなり、その分、壊れやすくなる。

 まぁ、この硬さの配合の差も、企業秘密といえばそうだね。


 比較的柔らかい方の魔鋼である心鉄を包むように、硬い鋼である魔鋼である皮鉄を巻き付け、熱して付ける。

 分かりやすく言うと、外側は硬く、中側は柔らかくなるようにするという事で、この工程を『造込つくりこみ』という専門用語で呼んだりもするけど、どうでも良いだろう。

 

 この造込みの目的は、刀を「よく切れるが、折れにくい」という刀独自の構造を実現するために必要な行為だったりする。

 ちなみに私は硬度の違う2種類の魔鋼を使う、いわば『甲伏こうぶせ』という一番主流のやり方を使っている。


 他の方法としては、"もう1種類別の『刃鉄はがね』と呼ばれる魔鋼を作ってその上に心鉄を乗せてその両側から皮鉄を挟み込む"3種類の魔鋼を使う『本三枚』と呼ばれる方法。

 さらには"この状態からさらに発展させ、心鉄と皮鉄の上に『棟鉄むねがね』と呼ばれる魔鋼を使って"4種類の魔鋼を使う『四方詰め』という方法もあるが、どうでも良い話だろう。


 甲伏せの方法にて、造込みを終えて刀身の構造を作り終えた私は、そのまま熱して少しずつ打ち伸ばしていく。

 こうして刀身の形へと近付けていくわけなのだが、ここまでで重要なのは一切錬金術を使わないという事だね。


 実はデルタちゃんに配信を任せて裏で作業しているこの時間中、私はほとんど錬金術を使っていない。

 使ったと言えば、造込みと、刀身の形に近付けるために伸ばす作業の際に、熱した事くらい、かな?


 造込みも、刀身の形にするのも、錬金術を使えば早く終わるし、楽だ。

 しかし錬金術を使って作ると、その分のリソースを裂かれるために、魔術付与に使える部分が少なくなる。

 

「あと、単純に良い出来だと、魔術付与が乗りやすいんですよね」


 まぁ、雑な作りのアイテムと、丁寧に作られたアイテムのどちらが良いかって言われると、当然、丁寧な方が良いに決まってるし、魔術付与もその理論でそうなってるのかな。

 検証をした人も、それを研究しようとした人も居ないから、分からないけど。


「さて、あとは魔術付与をして、皆を喜ばせて配信を終わりに----」


 そう思って、デルタちゃんの様子を見に来た訳なのだが----



「えぇ、デルタは昔からマスター大好きなゴーレムでした。私はあくまでも敬愛レベルであり、ガンマに至ってはお互い話すのが楽しいレベルでして―――」


(※)『知らないゴーレム出て来たんだけど?!』『ガンマ、その名前は初めて聞くなぁ』『こう見るとアルファだけまだ一度も出てない理由も気になる』『ねぇ、デルタちゃん? アルファっていうゴーレムは居ないの?』


「【アルファ】についてですか? それは、マスターから喋っても良いか許可を取らないと----あっ、マスター! アルファについては、話して良いですか?」

「……今日の配信は、これまでにさせてください」


 私はそう言って、配信を切る。

 あとで、突然切った事のお詫びはしておくべきだと感じつつ、


「デルタちゃん」

「……えっと、マスター? もしかして、怒髪天といった感じでしょうか? アルファについて話そうとしたのはですね」


 なんだか戸惑っている様子のデルタちゃんをなだめつつ、私は魔術付与をどうするか話し合うのであった。



 ----そう、アルファについては配信で話してはいけない。

 何故なら、アルファは私の企業秘密なのだから。

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