第65話 何故その名前を知ってるんだ配信

「あぁああああ! 腰が、腰が軽くなるぅううううう!!」


 馬車を使ってドラスト商会に辿り着き、代表の部屋へと通された私とベータちゃん。

 部屋に入るなり、シガラキ代表はマッサージ器魔道具を使用した。


 その魔道具は以前の配信で作成した、振動する事によって腰への負担を和らげる、ベルト型のマッサージ器魔道具であり、スコティッシュさんが大量購入していったモノである。

 それを腰に巻いたシガラキ代表はというと、ボタンを押して----結果として、奇声をあげた。


「あぁ! すごく、すごくイイわぁああああ!! 身体が、身体が軽くなっちゃうわぁあああああ!」


 マッサージを受けて、嬉しそうにする姿を見ながら、私は作った甲斐があると思った。


 この世界、身体強化魔法や回復魔法などはあるが、どちらも全身を覆うモノだ。

 一方で、このマッサージ器魔道具は特定の気になる場所だけを揉みしだくのに特化しており、腰だけを揉みたいという今回のような場合に使われるのだ。

 また、特化しているだけあって、全身を覆う回復魔法などとは違い、ピンポイントで強烈に癒す、つまり回復魔法では治らない腰痛などもマッサージ器魔道具なら治せるのである。


「このマッサージ器魔道具、実に心地いい! 文字通り、『欣喜雀躍きんきじゃくやく』----非常に喜ばしい事ですよぉ!」

「喜んでくれて、なによりですよ……」

「えぇ ! スコティッシュが購入したこのマッサージ器魔道具は、ワッチだけではなく、ほぼすべての獣人族が持つ慢性的な腰痛を治してくれる素晴らしい魔道具なのです!」


 シガラキ代表が言うには、獣人族は腰痛になりやすい者が多い。

 四本足である獣の特徴を有する獣人族は、種族的に見て四本足で移動する方が身体が楽になるようになっているらしく、それを無理くり二本足になっていると身体が勘違いしているのだそう。

 という訳で、大多数の獣人は、腰痛持ちなのだそうだ。


 私が作ったマッサージ器魔道具は、そんな獣人族の悩みをバッチリ解決する魔道具。

 なにせ、魔法を使っても治らなかった腰痛を治せるし、魔法が使えない獣人でも使えるのだから、大ヒットなのだそうだ。


「あぁ、スコティッシュは本当にいい商品を仕入れてくれた! そして勿論、ススリアさん! この魔道具を作り出したあなたも、素晴らしい人でありますよ!」

「当然です! 分かってるじゃないですか、シガラキ代表さん!」

「ベータちゃん、いまそのマスター大好きモードは止めようか」


 「いやいや、そこのゴーレム、ベータさんの言う通りですよ!」と、何故かノリノリな様子のシガラキ代表。

 いや、なんでこの人煽って来るん? うちのベータちゃんをあんまりのせないで欲しい。


「ほら、ベータちゃん。君は外で待ってて。私はこの人とお話しておくから」

「……了解、です」


 ぷくーっと、明らかに納得してない様子だったが、ベータちゃんは部屋の外に出て行った。

 ふー、やれやれ。私の事を好きなのは良いが、暴走し過ぎは止めて欲しいモノだ。



 堂々と、気付いて欲しいと言わんばかりに置いてあるあの看板・・・・を見逃すくらいの暴走は。



「おやおや、どうやら気付いていたようですね。この旗、購入するのに苦労したんですよ。

 文字通り、『つわものどもが夢の跡』----既に滅んでしまった商会の看板を探すのは、なかなかに苦労しました」


 その看板には、【メガロ錬金工房】と書かれていた。


 ----メガロ錬金工房。

 かつて王都にあった錬金工房であり、私も働いていた工房アトリエである。


「----"今までにないビックな事をする錬金工房"。いやぁ~、発想自体は悪くないし、ワッチも好きだよ?

 そしてあの工房では、その御題目の通り、確かに色々と、斬新な魔道具があった。その中にはススリアさん、あなたの錬金術によって生み出したモノもあったんでしょう?」

「……えぇ、まぁ。全て、ではありませんが」


 メガロ錬金工房は、若い錬金術師たちが立ち上げた錬金工房。

 古い時代錯誤の魔道具だけではなく、今の時代にあった、人のためになる魔道具を作って、歴史に名を残そうという、かなりビッグな錬金工房だった。

 実際、私もその御題目に共感して入社して多くの魔道具を作り、同時に他の錬金術師達もまた『万能薬を病気や症状ごとに特化させて、副作用や遅効性を失くした錬金薬』だの、『鑑定効果のついたサングラス』だの、前世の記憶頼りの私なんかが思いつかない、斬新な魔道具を作る職人であった。


 そう、あの錬金工房は、すっごく優秀な錬金術師が集う、凄い場所だった。


「----そこで作り上げたんでしょう?」


 と、シガラキ代表は扉を、正確には扉の外で待っているであろうベータちゃんの方を見る。



「----【アルファ・ゴーレムサポートシステム】。錬金術師ススリアが生み出した、メガロ錬金工房では未発表の傑作。


 ゴーレムは術式を施すことで、出来る事が多くなる分、その術式を管理する頭、人間における脳の部分が大きくなる。ヒトと同じだけの機能をさせようと思うと、ヒトのおよそ10倍の大きさの頭が必要になると言われている。

 そこで、"全ての機能を配信機能を用いて送信・管理する、つまりは脳の役割をする"【設置型ゴーレム装置アルファ】を用い、他のゴーレム達はそのアルファが送信した情報を受信する受信機だけを取り付ける。

 全てのゴーレムが、たった1体の設置ゴーレムの力によって、二足歩行、ヒトと同じく考えて行動する力を使えるようになる究極の装置!


 是非、ワッチにも教えて欲しいですね。ススリアさん?」




(※)【アルファ・ゴーレムサポートシステム】

 錬金術師ススリアが、前世の記憶である【ネットワークシステム】を参考にして作り上げたサポートシステム

 1体の、情報集積型に特化させた設置型ゴーレム装置アルファに、脳の役割を担わせ、そのサポートシステムに接続できるようにするための受信機をゴーレムに取り付ける事で、脳に当たる頭の部分を大きくする事なく、二足歩行や様々な運動機能などの高度なことが出来るようになる

 ススリアはそれをメガロ錬金工房にて売り出そうとしていたが、先にメガロ錬金工房が潰れたため、現在は私用で使うに留まっている

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