第40話 教会総本山には絶対に行かないぞ配信

 ----ふふっ、フランシアさんのおかげでストレス発散出来て最高! 最高!


「お帰りなさい、ススリアさん」


 ……はい、一瞬で発散したストレスが増えました~。



 冗談はともかくとして、家に帰るなり、会いたくない相手----タメリックに挨拶されてしまったススリアです。

 というか、ベータちゃんではなく、彼女が先に挨拶するってどうなの?


「今日こそは、返事して頂けませんか? ----我が教会の総本山にて、『研鑽の神アカデミア様が存在しない、そしてその正体』について」

「またその話ですか……」


 ここ数日、何度も打診されている内容に、私は嫌だと返答する。


 彼女が私の家に居るのは、先程の『総本山にまで来て欲しい』という打診されてるからだ。

 私の話にあった『研鑽の神アカデミア様が存在しない』というのを彼女が勤めている教会、その本部に通達したらしく、私の話を聞きたいために教会総本山まで来て欲しいと言われているのだ。

 中世の魔女裁判みたく、『神を疑う異端者め! 断罪してやる!』と処罰されそうだから、絶対に行きたくないと断り続けているんだけど。


「嫌だよ。というか、総本山って一部の人にしか教えないんじゃなかったでしたっけ……?」

「教会本部の判断としては、教えても良いので来て欲しい、との判断だそうです。ですので、是非とも!」

「いや、以前も言ったように、私の質問に答えてくれればそれで良いので」


 そう、以前も言ったように、その研鑽の神アカデミア様の姿形を教えてくれるだけで良いのだ。

 そう言うと、タメリックは途端に顔をすっと、伏せて視線を逸らす。


 彼女は、およそ100通近い『研鑽の神アカデミア様』の姿を見せてくれた。

 どうやら教会全域に『神の姿を描いた絵を書いて欲しい』と手紙で通達したみたいで、私の家には毎日のように、平均20通近い手紙が来ている。

 その手紙の中には教会各地に居る聖職者、つまりは教会関係者が描いたアカデミア様の絵が入っていたんだけど、それがまぁ、酷かった……。




 ヒト型が7割、獣型が2割、どちらでもない『そもそも人に見える姿ではない』というのが1割。

 腕があったり、顔が複数あったり、あるいは自らの肖像画を送って来る人も居た。

 この時点でタメリックも、私が言った『研鑽の神アカデミア様が居ない』というのが身に染みて分かったはずである。




 同じ教会に勤める者が一様に崇めている神の姿が、こんなにも多種多様な姿をしている訳がないのだから。


 せめて数パターンなら、地域の違いとかで説明できたけど、流石にこれだけバラッバラだとそうも言えないし。

 それであっても、なんらかの共通点----例えば額に宝石があるとか、そういう共通点があるはずなのに、それも見られない。


 昔調べて、研鑽の神アカデミア様が居ないと分かっていた私からしても、まさかここまで姿が伝わってないとは思ってもみなかったよ。

 ある程度想像していた『神様の姿は伝わっていない』という予想よりも、これは酷いね。うん。


「----あの姿絵から見ても、研鑽の神アカデミア様が居ないというのは説明がつかないの? 皆が崇めている神様なら、もう少し一般的な、分かりやすい姿形で伝わっているはずじゃないですか」

「でっ、ですので、この辺の人達が描かれている姿は一緒じゃないですか!」

「一緒ってか、この人たち同じ支部の人達だよね。近くにある同じ地域であるはずの、隣の支部の人達とは違うんだけど?」


 まぁ、教会で話を合わせて同じ姿を描いている支部もあったけど、それだったら全員で合わせるべきだったね。

 もっとも、配信を悪しき存在として嫌う教会が、短期間で意志を1つにまとめるなんてのが無理とは思ってたけど。


 ちなみに、この私の家に速達で送るのはシュンカトウ共和国のドラスト商会、つまりはスコティッシュさんの所がやってくれているので、ドラスト商会は郵送代でガッポガッポと儲けていると聞いている。

 ドラゴンで超特急で送る郵便って、めちゃくちゃ儲かるらしく、教会から沢山の仕事を貰えて嬉しいと言っていた。




「教会の総本山には絶対行かない。アカデミア様の話は、あなた達の方で解決してください」

「いま、教会本部は大変なことになってるんです! いままで知られていた神様が、存在しないかもしれないと告げられて、一部地域では暴動だって起きてるのに……」


 なんと、そこまで大きなお話に発展するなんて……。

 やっぱり宗教って怖いなぁ……今後も出来る限り、教会と関わらない生活を維持しよう。


「しかし、こうなると"例の計画"を進めるしかないかもしれない」

「"例の計画"……?」


 "例の計画"とは、うちのガンマちゃん発案の計画である。


 少し前、王都に居た頃に教会をどうしようか相談した際に、ガンマちゃんから提案してくれた計画がある。

 "例の計画"というくらい、本当は世に出したくなかった計画なんだけど、こうなったらこの計画でこの場を収めるしかないね。


「----よしっ、こうしよう。この計画に賛同してくれるのなら、教会と会話しても良いよ」

「ほっ、本当に?! 教会の総本山にまで、来てくれるんですか?!」

「教会と会話はするけど、総本山には行くつもりはないですよ」


 疑問符クエスチョンマークを浮かべるタメリックに、私は彼女に提案をする。




「----教会本部の人達を巻き込んで、リモート会議配信。

 あなた達の大嫌いな、魔王ユギーに関わる配信を使って、みんなで話そうじゃないですか」

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