第41話 配信は決して娯楽だけじゃない配信
----リモート会議。
配信はどんなに距離を越えても、ほとんど時間的なラグなく、映像を届けることが出来る。
そんな配信技術を用いて、離れた距離にいる相手と会議することがリモート会議であり、スコティッシュさんと頻繁にやっているドラスト商会との契約内容を確認しているコラボ配信も、リモート会議の一種である。
今回、教会の人達に提案しているのは、そんなリモート会議をしようという事である。
会議内容は『研鑽の神アカデミア様は存在しているのか否か』、そして『そもそも研鑽の神アカデミア様とはなんなのか』。
教会の人達は私と話したいだけなのだから、総本山に集まるよりも、こうやって配信で話す方がよっぽど自然と言えよう。
「という訳で、どう? リモート会議配信だったら、私は何の問題もないんだけど」
「はい、これ」と、以前に作っておいた10個くらいの配信用キットを、タメリックに渡す私。
そのまま落とすという事は流石にしなかったが、明らかにタメリックは、嫌そうに配信キットを持っていた。
「配信で、ですか……?」
ガタガタと怯えながら、私にそう聞くタメリック。
その反応を見て、私は予想通りだなと思いつつ、頷いた。
教会に仕える聖職者としては、配信に嫌悪感を持つのは自然な反応である。
彼らにとって配信とは、娯楽を愛する魔王ユギーに繋がる監視対象物であり、自分達の方からその監視対象である配信をするという考えには至らないだろう。
「(だからこそ、これで教会とも縁が切れるというモノだ)」
私は別に、教会に対して、『研鑽の神アカデミア様についてどう思っているか』を話す義務はない。
私の意見はあの時、タメリックに言ったし、もしそれ以上に話したいのなら、自分達のホームである総本山ではなく、あなた達にとってはアウェーである配信内で語れば良いのだ。
「そもそも、なんで配信を毛嫌いするのか分からないよ、私には。色々と連絡もすぐに出来るし、便利でしょうに」
「だって、配信は娯楽だし……」
「『配信は娯楽である』という偏見から入っているから、そういう考えは良くないよ」
配信は、確かに娯楽という側面があるのは事実だ。
だがしかし、配信は娯楽だけではない。
「えーっと、確かここら辺に……あぁ、これこれ」
私は彼女に渡した配信キットの1つを操作して、とある配信を探す。
お目当ての配信を探し出すと、彼女にどうぞと、見せるようにして渡す。
「これは……『はじめての園芸』?」
「園芸初心者でも簡単に出来る知識を教えてくれる、教育系配信者ですね。彼女の配信の登録者数は私よりも上で、多くの人達が彼女の配信を見て園芸を学んでますよ」
彼女に見せたのは、園芸を教えてくれる配信者の中でも、かなり分かりやすい事で有名な配信者『がでりん』さんの動画である。
1つ1つ分かりやすい説明、初心者が陥りがちな失敗、種選びや植え方などを分かりやすく紹介してくれており、百合営業なんかで伸びた私よりも、はるかに多い
『がでりん』さんのような配信者を、私は教育系配信者と呼んでいる。
自分達の知識を分かりやすく紹介して、動画にしてみんなに教えている配信者さん達。
『新しくこれを始めたいけど、どこから始めれば良いか分からない』という初心者さんに大人気で、『がでりん』さん以外にも多くの分野で、教育系配信をしている人は大勢いる。
「確かに配信には娯楽の面もある。しかし、この配信者さんのように、教師のように教えてくれる配信動画だってあるんですよ」
そう、配信は何も娯楽だけではなく、『がでりん』さんのように皆を教えたいという想いで配信している配信者さんだっている。
『配信=魔王ユギーに繋がる娯楽』として、色眼鏡で見ているから、こういった活動もあるって事が分からないんですよ。
教会にとっては、研鑽し続ける事が正義みたいな見方をしているみたいだけど、私からして見たらそんな事はない。
研鑽も、ちゃんと正しい方法を知ってやった方が早く上達するに決まっている。
その方法の1つとして、配信を活用するというのは、決して悪い事ではないはずなのだ。
「その配信キットは差し上げます。もし、その動画を見ても、『配信だから娯楽』なんて判断が下せるんでしたら、この家から出て行ってくださいね」
私はそう言って、ベータちゃんのご飯が待つ食堂へと入って行く。
食堂に着くなり、ベータちゃんは配膳をしながら、
「あれで、教会が変わってくれると良いですね。マスター」
と、そう言ってくれる。
なるほど、ベータちゃんが彼女を家に迎え入れたのは、教会が変わってくれるのを期待して、か。
教会が変わってくれれば、私は教会を嫌いではなくなるという寸法ね。
「マスターの好き嫌いをなくす。それもまた、ベータちゃんの使命なんです」
「……食べ物の好き嫌いと、同じ扱いで直そうとしてる? ベータちゃん?」
あとで少し、ベータちゃんの設定を見直そうと思う私なのだった。
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