第42話 一夜明けたら、聖職者タメリックが覚醒してました配信

「----ススリア様! 私、教会全体にリモート会議を提案させていただきます!」


 次の日の朝、聖職者タメリックは私にそう提案してきた。

 というか、いま『ススリア"様"』って言わなかった? 言ったよね、今!




「嘘、でしょ……」


 私はその反応に、「冗談でしょ?」と聞き返した。


 なんとこの聖職者、私が「あなた達が嫌っている配信を使った会議とかなら、参加するよ~」と言ったのを、そのまま受理しちゃって、大司教とかの上司に報告しようというのだ。

 正気とは思えない……というか、アホなんじゃないか?


 私が教会の外の人間という立場で提案するのと、タメリックという教会内の人間という立場で提案するのとでは、全然違うでしょ。

 下手すると、魔女狩りみたいに、処刑されてもおかしくないぞ、これ。


「止めといた方が良いんじゃない? 提案した私が言うのも何だけど、絶対に受理されないと思うよ?」

「いえ、絶対に勝ち取って見せます! 任せてください!」


 いや、なんなのその根拠のない自信は……。

 止めてよ、下手したら提案した私自身も教会に恨まれちゃうじゃん。

 教会とは、出来ればと言うか、全然関わりたくないんだから、私。


「実はあの後、色々な配信を見ていました結果、私の神聖術が成長したんです! ご覧ください!」


 「ふんっ!!」と、タメリックが気合いを入れると、彼女の隣に半透明の麗しい美女が2人現れる。

 それも、天井近くに謎の神々しいゲートを作り出して、その中からふわっと降りて来た。


 背中に美しい一対の翼、中性的にして美しい美貌、豪華にして清潔なる衣服。

 頭にはふわふわと光りながら浮かぶ、光輪ヘイロゥ


 まっ、間違いない!

 この女、天使を降臨させやがった?!




「実は昨日、錬金術師ススリア様にいただいた配信キットにより、私は神聖術をもっと深く、知ることが出来ました! そして今朝、私は新たな神聖術を使えるようになったのです!」


『どうも、錬金術師ススリア。はじめまして、私は【サラダ】と申します。ご覧の通り、天使でございます』

『同じく、はじめまして。私は【ラード】と申します。数百年ぶりの降臨に、私、涙が止まらないです』


 彼女が降臨させた天使----サラダとラードの話を聞くと、どうやら彼女は高等神聖術『天使降臨』を使えるようになったらしい。


 教会の現在の頂点トップである法皇が使える高等神聖術は、『御神託』。

 教会が崇める神を自らの身に宿らせ、神としての意見を法皇の身体を借りて話すという神聖術だ。

 もっとも神を人間の身体に宿らせるのは短時間と言えども身体に大きな負担がかかるらしく、法皇も年に1回使うかどうかという神聖術だ。


 それでも、神の意見を直接届けることが出来るとして、法皇は教会のトップに居続けている。


 そんなトップの椅子を一瞬で覆してしまうのが、タメリックが本日披露している『天使降臨』である。

 これは神に仕える天使をこの世に降臨させる神聖術で、天使は神と直接やりとりが出来るため、『御神託』と同じように神様の言葉を直接人々に届ける事が出来る。

 その上、天使をこの世に降臨させて届けるため、自らの身体を通さない分、身体への影響は全くなく、何回でも使える神聖術なのだそうだ。



 年に1回使えるかどうか分からない神聖術『御神託』を使う、法皇。

 対して、天使を直接降臨させて神様の言葉を毎日のように届けさせることが出来る神聖術『天使降臨』が使えるようになった、聖職者タメリック。



 果たして、どちらが偉いのかなんて、想像に難くない。


「私は聖職者として失格でした! 相手の事を良く知りもせず、ただ言われるがまま悪しきモノとして決めつけるなど、聖職者失格です! そんな私を変えてくれたのが、錬金術師ススリア様! あなた様なのです!」

『私も、こうして人間と関われるようになり、喜びの感情を抑えきれません。神に仕える身として最大限の謝辞を送るのは我らが神を裏切る行為ではありますので出来ませんが、それに近いほどの賛辞をあなたに送りたいと思います』

『神もあなたが聖職者タメリックを変えてくれた人間として、大変興味と共に、賛辞を送りたいと言っております。あなたの言葉で、いま現在の教会を変えて欲しいと、神はおっしゃっておられます』


 いや、止めてよ!


 なんで私、教会を変える救世主みたいな扱いされてんの?!

 というか、私ったら転生する前に神様と会っていないのに、なんでこのタイミングで神様と会ってる感じになってるの?!

 いや、神様と直接ではなくて、天使越しではあるけど!


「聖職者タメリック! 神からの直々の命により、教会でのリモート会議配信を成功させるため、これより各協会に配信キットを届けに行きたいと思います!」

『私達の姿を見れば、それも簡単に叶うでしょう。是非とも、皆もあなたのように高等神聖術を使えるくらいに、なって欲しいモノですなぁ』

『えぇ、サラダの言う通り。私たちの他にも、人間と関わりたい天使は大勢いますので、皆様も使えるように、聖職者タメリック、この計画を成功させましょう』


 待って! なんで、リモート会議配信をすれば、みんなタメリックのように『天使降臨』が使えるようになると思ってるの?!

 違うからね! ガンマちゃんに調べてもらったけど、彼女は昨日の配信キットで、とある配信を見て、今のような感じになっただけだからね!


 『明日から変われる! 今から変われる! 今日からあなたも新しい自分へ!』という、自己啓発系の配信を見て、変わっただけだからね!

 私、直接は関係ないからね!


『では、聖職者タメリックよ。早速、配信成功のため、教会を回りましょう』

『まずは、法皇のいらっしゃる総本山に行きますか? それとも、あなたの所属する王都の教会まで行きましょうか?』

「法皇様に直接、お会いしましょう。王都の教会には私の直属の上司である大司教シナーモ様がいらっしゃいますが、まずは法皇様に天使様のお姿をいち早く、お見せしなくては!」


 ----てな感じで、聖職者タメリックは、サラダとラードという何とも油っぽい天使2人を連れて、早速向かって行ったのでした。




「マスター、お赤飯でも炊きます?」

「なにもお祝いする事ないから、止めようか。ベータちゃん」

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