第10話 武芸者ゴーレム・デルタちゃん登場配信

 錬金術師の弟子入りで、もっともポピュラーな弟子入りの試験は、『自分の作った商品を買ってもらう』である。


 値段かかくは何円でも良い。

 利益もうけが出なくても良い。

 友人や家族、親戚などに買ってもらっても良い。


 ただ、自分の作った商品を、買ってもらう----それがモノ作りに携わる錬金術師としての度量を見る試験としては、ポピュラーな試練である。

 師匠である私はその試練の過程で、どのような商品を作り、なおかつどのような方法で売ったのかを判断すれば良い。


 しかし、王都セントールとは違い、このイスウッドは人口およそ80人ほどの小さな村。

 その上、たいていの村人たちはお金を使うくらいなら自分でやった方がマシという神経がこびりついており、この私ですら1つ目の商品を売るのに半年はかかった。


「(そんな試練を、なんか無理やり弟子入りしようとしてくるタラタちゃんに科してやったよ! しかも、期限は3か月!)」


 彼女、余裕綽々といった態度だったけど、あれから5日。

 村の人の反応を聞くに、なんか焦った様子のエルフがこちらに来て困っているという相談を受けている。

 まだ警戒されている段階ともなると、この試練を突破する以前に、1か月くらいで諦めて逃げ帰ってくれる可能性の方が高いでしょ。


 それがいつまで持つか見もの……



「ボス、悪い顔に変化してますよ」

「はっ……! そっ、そんな事ないよ、【デルタちゃん】!」


 「本当に~?」と怪訝な顔で見つめる、六本腕の武人ゴーレム。

 このゴーレムは私が作ったゴーレムの1体で、デルタちゃんという。

 

 家庭用の家事全般を得意とするように設計してあるベータちゃんとは違い、デルタちゃんは魔物と戦う事を想定して設計してある武闘派ゴーレム。

 他の人が配信している『武芸者の技を披露する配信』というビッグデータから、その状況にあった技で魔物を打ち負かすという設計になっており、私の錬金術に必要な材料を収集してもらうために、日夜活動して貰っている。


 何故、腕が6本もあるのかって?

 最初は2本だったんだけど、とある超一流の武芸者の技を再現するのには、残念ながら腕が2本では足りなかったため、六本腕になっているだけさ。


「……ボス?」


 じとーっと凛としたデルタちゃんの顔に見つめられている感じがして、私は慌てて「ごめんごめん」と言って彼女から距離を取った。

 武闘派に仕上げるためとはいえ、2m越えのゴーレムが覗き込んでくると、流石にちょっと怖いからね。


「で、頼んでいた素材は集まりそう?」

「その辺は抜かりなく、ベータちゃんに譲渡しておきましたので問題なく。ところで、疑問解決のために、相談を希望します」

「相談……?」


 珍しいな、デルタちゃんの方からとは。


 デルタちゃんは、元々この地域の魔物を倒しながら魔物の素材を集めさせる目的で作ったゴーレムだ。

 超古代技術オーバーテクノロジーである配信動画を参考に、対峙する魔物の情報を瞬時に検索して類似の魔物を確認しつつ、その魔物相手に有効な技を動画の中から探し出して発動する。

 いわば、配信動画というビッグデータによって支えられた、超武闘派。


 今までは文句の1つなく、ただ黙々と素材収集を行ってきた彼女が、ここに来て相談……?


「はっ、まさか……!?」


 ベータちゃんみたいに、プチ嫉妬表現みたいに人間らしい感情を見せてくれるとか?!


「何を誤解しているかはしりませんが、おそらく違うだろうと断言します」

「だよね~」

「……そこで瞬時納得されるのも、いささか不満ではありますが」


 いや、どうしろと……というか、今のって拗ねた?

 あれ、ゴーレムって『拗ねる』なんて感情、ないはず、なんだけどなぁ……。


「疑問解決のための質問、してもよろしいでしょうか?」


 ずずいっと、顔を近づけて来るデルタちゃんに、私は「うん」としか言い返すことが出来なかった。

 なんか、妙な圧を感じたからね。



「実は先日、ボスの所に来た錬金エルフがわたしのところに相談に来まして」


 錬金エルフ……あぁ、タラタちゃんの事ね。

 確かにタラタちゃんが好きそうなゴーレムだからね、デルタちゃんって。


 タラタちゃんの話を聞くと、彼女が好きなのは『付与』。

 武器に魔術的な付与を行い、超一流の武器を作りたいというのが彼女の夢なのだそうだ。


 一方でデルタちゃんは、私が思いつく限りの、最強の6本の刀を魔術付与した状態で渡してある。


 どんな傷からも徐々に治って行く『自動修復』。

 相手の防御を貫通して攻撃を通す『防御不能』。

 相手の魔術的な攻撃を吸収する『魔術吸収』。

 どんな魔物の弱点や急所を感知する『弱点看破』。

 与えた傷を修復させない『回復防止』。

 攻撃の距離を伸ばす『距離増加』。


 私が思い描く、どんな魔物であろうとも倒すことが出来そうな6本の刀を自在に扱い、その上、ゴーレムであるから人間と違ってスタミナ切れや集中力が切れたりすることがないのだ。

 そんな彼女の持つ刀、タラタちゃんにとっては喉から手が出るほど欲しいだろうな……。


「それで、なんだ? その6本の刀を奪われたとか?」


 まさかまさか。

 いくら、人様にむやみに危害を加えない設計にしているからとは言え、商売道具と言っても過言ではない刀を取られたりはしないだろうな~、うちのデルタちゃんに限って!



「いえ、6本全部、強奪されました」

「嘘っ?! まじで?!」

「その上、配信しようという勧誘まで受けました」

「どういう事、ねぇ、本当にどういう事なの?!」



 デルタちゃんの言っていることが、何一つとして分からない件についてっ!!

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