第9話 錬金エルフが弟子入りにやってきた配信

「初めまして、あるけみぃ様! わたくし、タラタと申しますです! エルフですっ!!」


 なんか、配信最後に突如として現れたエルフが、弟子入りを志願してるんだけど、どうすれば良い?


 はい、あまりの突然の事すぎて呆然としている『あるけみぃ』こと、ススリアです!



 突然押しかけて来たのは、王都セントールからやってきたタラタと名乗るエルフでした。

 彼女は私の配信を偶然見て、保存記録アーカイブなども見て、私の錬金術のファンになってしまったらしく、自ら弟子入りするために、このイスウッドまでやって来たんだそうだ。

 しかも、私が弟子入りを許可するかも分からないのに、王都セントールで働いていた職場を自ら退職してまで、だ。


「えっ、私、イスウッドに居るなんて言ってないのに……」

「第13回配信の時に、窓に飾ってあった花がこのイスウッドで咲く花だったので、やって来ました!」

「特定犯じゃん! 怖っ……!?」


 エルフと言えば、森の民というイメージがあるけど、今の彼女から感じるのは、前世のテレビとかで見たストーカーだよ! ストーカー、それ一択だよ!


 動画に映る花から、イスウッドであると特定する。

 なおかつ、東の辺境であるイスウッドまで、私がいるかも知れないという理由だけで突撃する。


 ……やべぇ、本物ものほんでガチでヤバい。


「エルフってことは、私よりも年上だったりするの?」

「いいえっ! タラタは今年15歳でありますです!」


 エルフというのは、非常に長命種な種族であり、外見からではほとんど年齢が判別できない。

 私の目に映るのは、10代半ばのセーラー服が似合いそうな、元気溌剌な女の子エルフ。

 肩まで伸びる銀髪が美しい彼女だが、エルフである以上、1000歳を越えてもだいたい姿はこの姿のまま若々しいので、本当に年齢詐欺な種族なのですよ。


 だから年上かも知れないって聞いたんだけど、15歳かぁ~。

 まぁ、本人が言ってるし、15歳で間違いな……えっ? 15歳?


 エルフの年齢って確か、10年から12年が、私達にとっての1歳、じゃなかったっけ?

 確か成人二十歳が、エルフだと200歳から240歳くらい、とかなんとか。


 だったら、今年15歳のエルフって……まだ1歳じゃん?!

 子供どころか、赤ちゃんの年齢じゃないですか!


「故郷には帰らないの?」

「私の年齢の事を心配しているのでありますか? それなら大丈夫! 私、錬金学校を飛び級で卒業してますであります!」


 そう言って、卒業証書を渡してくるタラタちゃん。

 ……ここに書いてある通りだと、12歳の頃に卒業ってあるよね?


「(凄すぎる逸材だよ、この娘)」


 エルフというのは、長い寿命をかけるからこそ、人間よりも遥かに卓越した技術を持つ種族。

 それなのに彼女は僅か15歳という年齢で、錬金術として一人前の技術を持っているという事になる。

 このまま普通に、錬金術という道を歩むだけで、彼女は歴史に名を刻む天才たる錬金エルフの称号を得る事になるだろう。


「えっと、そんな凄いのに、弟子入りしたいの? この私に?」

「さっきから、そう言ってるであります! 私は、師匠の錬金術に惚れこんでしまったのであります!」


 うわっ、なんか瞳をハートにして、こちらを見てくるんだけど、この娘タラタちゃん?!


「マスターをそういう目で見て良いのは、私だけです」

「ベータちゃん! 別に張り合わなくて良いから!」


 つけた覚えもない、瞳をハートにする機能をこちらに見せないでよ、ベータちゃん!



「……まぁ、とりあえずあなたがいかに素晴らしいか、っていうのはよーく分かったわ」


 卒業証書と一緒に渡された、前の職場での彼女の評価を見ても、彼女の実力の高さは折り紙付きである。

 

 錬金術師として大事な要素は、4つ。


 物質から必要となるモノだけを取り出す『抽出』。

 物質同士を結合させ、残したい性質を強く発揮させる『合金』。

 魔術的な文様を施すことで、魔術の性質を与える『付与』。

 作り上げた設計図通りに作成する『錬成』。


 その4つがいかに高いかによって錬金術師としての格が決まる。

 私の場合は4つとも平均か、ちょっと上くらいなんだけど、前世の知識によって上乗せしているから奥見えているだけ。

 一方で、タラタちゃんは全体的に平均値より上で、『錬成』だけちょっと他の3つよりも下、というくらいで十分に錬金術師としての格は高い。


 前世チートを使ってようやく一人前レベルな私と、これからどんどん成長していく一人前の彼女。

 どちらが凄いのかは、目に見えているのに……。


「(弟子入りなんて、冗談じゃない!)」


 私は、ただ面白おかしく、楽しくスローライフをしながら、錬金術をしたり、配信活動をしたいだけなのだ。

 弟子なんて面倒なモノ、こちらからお断りというのに……。


「(なにか、上手い断り方は……っと、"アレ・・"があった)」


 これなら、別になんらおかしくない提案だし、彼女も乗って来るはず。

 そして、それがこのイスウッドだとどれだけ難しいかも分かっていなくて、確実に失敗する。



「タラタちゃん、弟子入りを認めてほしかったら条件があります。

 ----あなたの錬金術で、この村の人達からお金を使って買ってもらう商品を作ってください」



 私は彼女に、弟子入りの条件を叩きつけるのでした。

 普通の街なら簡単に出来ても、このイスウッドなら難解すぎる、この条件を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る