第8話 メイド服文化は私が切り開くよ配信

 この世界、シアースは一度滅びた世界である。



 数百年前、この世界には前世の地球とほぼ同等くらいの、娯楽文化が存在していた。

 超古代技術オーバーテクノロジーとなっている配信技術も、その時代の産物を流用している。

 

 しかし、そんなシアースを滅ぼす魔王がいた。

 魔王の名は【ユギー】。娯楽と堕落を権能として司る魔王であり、人々を自らと同じ堕落の底に落とし、結果的にその世界の半分以上を自らの眷属、支配領域と化した恐ろしい魔王である。

 そんなユギーを倒すため、その当時の人達はユギーが関心を寄せる娯楽文化を一カ所に纏め、ユギーをとある場所へと誘導した後に爆破。

 目の前で娯楽が木っ端みじんに消し飛ばすのを見て呆然とするユギーを、見事、封印する事に成功したのだ。


 その際、当時あった娯楽はユギーを誘い込むため全て使い、なおかつユギーの恐怖からかおよそ100年くらいは娯楽という文化は禁忌扱いされてきた。

 いまもなお、その当時から生きているかもしれない長命種たるエルフ達の中からは、ユギーを恐れ、配信文化に警鐘を鳴らす者も少なくない。



 そう、この世界の娯楽は、一度全て、魔王を倒すために爆破された。

 当然ながら爆破なので、服系統----つまり、前世で言う所の服飾などの文化は、全て失われたと言って良い。


「(なので、これからするメイド服は、この世界にはない新たな文化である!)」


 この世界には奴隷制という制度が存在する。

 だがしかし、それはあくまでも娯楽とはまったく関係ない、魔物と戦うための戦闘用バトルタイプ、もしくは家事などを任せる家庭用メイドタイプの二種類しかなく、家庭用の奴隷メイドが着ている服装も最低限奉仕するための、ぼろ衣に過ぎない。


 私が今から作るメイド服は、前世の日本、秋葉原で良く見られた、人々を興奮させるためだけの代物。

 そう、ただの趣味の産物----美しく見せるためだけの服である!


「という訳で、メイド服を作っていきますよ~!」


(※)『おい、そもそも説明しろ』『ベータちゃんにあんなぼろ衣を着せる気か!!』『いや、この気迫、私にはわかる。コイツ、なにか面白いモノを作る気だな』『分かるのか、←の人?!』


 まぁ、そういう反応になるのも分かってるので、サクサク作っていきますね~。


 まず、ベータちゃんを作成した時に作った設計図から、服の型紙を作成。

 その後、フリルの部分に印、あぁ、あとベータちゃんのトレードマークたる巨乳を見せつけるための乳袋とかも書き込んで----


(※)『なんか書き込んでるぞ、あるけみぃ』『書き込みだけでは分からんww』『本職であるはずの俺も、わかりませーん』『いや、アレはもしや……』『知ってるのか、本職の人?!』『ぼろ衣ではないようで、なにより』


「最後に服の元となる黒と白の布、あとは縫い合わせる糸を用意して、あとは錬成っ----!!」


 私が錬成術を発動すると、布が勝手に先程指示しておいた場所に切り分けられていき、布を縫い合わせるように糸が通っていく。

 ものの数十秒で、はい、出来上がりっ!!


「完成しました! これがご主人様を満足させる見た目を持った衣装、その名もメイド服です!」


 じゃじゃ~んっ、てね!

 私が見せたゴシックを意識した黒白の、オーソドックスなメイド服に、視聴者リスナーの反応も上々なようである。


「流石、マスター! 素晴らしいデザインです!」


(※)『ベータちゃん、嬉しそう』『てかこれ、本当にメイド服?! うちのメイドがこんなの着てたらヤバいぞ!』『あぁ、金が取れるな』『閃いた! メイド服を着せた者達で接客! メイドレストラン! これは流行るぞ!』『その服を作れる者が居たらな』『実はこれ、俺が最初ww こいつ、二番煎じww』


「そうだね、実はこの配信の前に、メイド服の特許申請を行っているため、作成には私の許可が必須となりまーす!」


 一応、王国では前世と同じく特許という制度があって、錬金術などで出来た物を申請して、それが通れば私の許可なく似たような物を作れなくなるんだよ。

 普段は特許申請とかあちらさんもお役所仕事だから面倒だから取らないんだけど、この間の商人さんが「初めての商品を配信で見せる場合、予め特許申請を行っておけば二番煎じという意見を否定できます」とアドバイスを受けて、今回は1週間ほど前に申請を行って受理した後に配信しています。


「(メイド服が増えるのは良いし、なによりそのメイド服で私好みに出来るのっては大きいよね!)」


 なにせ、この世界、美男美女揃いだもの!

 メイド服と一言でいっても千差万別……和風な袴姿のメイド服もあれば、騎士の鎧を前につけた変わり種のアーマー付きのメイド服などもある。

 チャイナ風も良いし、前世のバーガーショップなどを思わせるダイナー風もアリだよね。

 

 そう、この世界のメイド服文化は私が掌握する!


 可愛い服が増え、それを着る人を見られる。

 あぁ、これは新しい趣味が増えちゃいましたね!


「では、今回の配信はここまで!

 次回はなんと、このメイド服を着たベータちゃんをお見せするので、お楽しみに―――」


 まぁ、次回の期待を高める予告をして、今日の配信は終わりにしようかな?

 はい、それじゃあお疲れ----と、私が配信を止めるボタンに手をかけた、その時である。



「頼もーう! あるけみぃ様、私を弟子にしてくださーい!!」



「えっ?」


 ----ポチッ!


「あっ、配信切っちゃった!!」


 ボタンに手をかけた時に話しかけられた私は、そのままの勢いでボタンを押してしまっていた。

 うーむ、メイド服への期待で終わらせたかったのに……。


「あなた、誰? エルフさん?」

「はいっ! ……とっ、とりあえず、助け----」


 あっ、ベータちゃん!

 物凄い怪しい人だけど、ステイ! ステイ!

 首絞めて殺そうとしないでね、ねっ!!

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