第63話 共和国に着くまで、ジェンガで時間を潰そう配信

 シュンカトウ共和国のドラスト商会にて、ドラゴンの卵の孵化ふか方法を聞くことにした私。

 盟主の娘であるフランシア姫様の里帰りも兼ねて、商会のドラゴン運送業を使ったのだけど……なんか、いつものスコティッシュさんとは別の商人さんが来たので変だなーと思いつつ、私、ベータ、そしてフランシアさんの3人はドラゴン運送を使ったのであった。


 超巨大なドラゴンの上に背負うように建てられた旅館『龍之慰安リューイアン』、そこで目的地まで私達は自由に過ごして良いそうだ。

 シュンカトウ共和国随一の超一流のスタッフによる、食にまでこだわった超一流のおもてなし……ほんと、無料ただなのが申し訳ないくらいだ。


 こうして、シュンカトウ共和国への空の旅が、始まったのである。

 シュンカトウ共和国への3時間半近く、優雅な旅行。


 空の旅は最初こそ、美味しい食事、さらには素晴らしい景色と至れり尽くせりで嬉しかった。

 しかしながら、『過ぎたるはなお及ばざるが如し』----何事も度が過ぎると、逆に物足りなく感じてしまうという事で、旅館側からのおもてなしがあまりに一流すぎるからこそ、場違い感が半端じゃない。

 "本当にここにて良いんだろうか?"と思ってしまい、結果として、なんか心の底から休めないんだよね……。


 貧乏人根性と言われても仕方ないかもだけど、みんなだって、めちゃくちゃ高い所に無料だっていわれても、『申し訳ない』とか、『なんか裏があるんじゃないか?』って思わない?

 詐欺だとか、なにか夢じゃないかと思うのは、当然じゃない?

 ----薄情かもしれないけど、人間、そんなものなんですよ。うん。




「----はいっ、という訳で今日はベータちゃんと一緒に~」

「ジェンガ対決をしたいと思います」


(※)『おっはろ~』『あっ! あるけみぃさんだ!』『久しぶりの動画出演、お疲れ~』『おひさぁ! やったれぇ!』『あるけみぃ&ベータ!』『久々のコンビだなぁ』



 てなわけで、時間つぶしとして、久しぶりにベータちゃんと一緒に、配信をやっていきたいと思います。

 今回の配信は、2人でジェンガという遊びをしようという事である。


 ジェンガとは、54本の直方体の棒を縦横3つずつ、合計18段重ねたタワーから、1本1本引き抜いて行って、自分以外のタイミングでタワーを崩させたら勝ちというゲーム。

 今日はそんなジェンガを、私とベータちゃんの2人で遊び、その仲良い様子を見せようという配信である。



「それじゃあ、まずは私から抜きましょうかねぇ!」


 と、まず私は1個、ジェンガを引き抜く。

 そして引き抜いたジェンガをそのまま、ジェンガタワーの上に載せる。


「はいっ、続いてベータちゃんの番ですよ~」


(※)『あれ? 普通?』『抜いた積み木に罰ゲームとか書いてるかと思っていたのに……』『普通に抜いて、載せるだけ?!』『背景の空は、めちゃくちゃ美しいのになぁ』『てか、ここどこ?!』『いつもの場所じゃないような……?』


 いやいや、罰ゲームって何? これは普通のジェンガだよ?

 確かに、引き抜いたジェンガに書いてある罰ゲーム、その罰ゲームをするというタイプのジェンガ。

 そういうジェンガがある事もしっているけれども、今回はそういうのは関係ないですよ!


 今回はごく普通の、2人でただのジェンガをして遊ぼうというだけの配信なので。


「という訳で、次はベータちゃんの番! 張り切っていきましょう!」

「はいっ! 勝って、ご主人を良い子良い子するのです」


 なんか目をキラキラと光り輝かせながら、ジェンガを見つめるベータちゃん。

 ……おやぁ? それ、私知らないんだけどなぁ?


「ていっ!」

「あっ、引くの早っ。これ、そういうゲームじゃないんだけど」


 むしろ、いつ倒れるかという緊張感を味わうのが醍醐味だいごみというか?

 ……って、ベータちゃん? なんですか、その砂時計?


「こちら、30秒砂時計。マスターが昔作った、失敗作の魔道具。30秒しか作れない魔道具です」

「まさか、その砂時計の砂が落ちきる前に、置くという?」


(※)『ただジェンガを引き抜くゲームが、30秒砂時計によって緊張感が増した!』『罰ゲーム系のジェンガも良いけど、これも別の楽しみ方が出来そうだな!』『おおっ、俺達もやってみようぜ !』『とりあえず将棋とかに取り入れてみるのはどうだろう!? 一手30秒とか!』


 えっと、これは出来る限り長くジェンガをやって、シュンカトウ共和国に辿り着くまでの時間を潰そう!

 そういう配信なのであって、そんなスピードは求めてないんだけれど……。


「ほら、マスター。もう後、半分くらいしか残ってませんよ?」

「んぐっ?! ----えっ?! 早くない?!」


 その後も、砂時計を使ってのスピードジェンガを2人で楽しむのであった。




 ……ちなみに、的確な動作をするベータちゃんにはなかなか勝てず、負ける度に私はベータちゃんに良い子良い子と、頭を撫でられたのであった。


(※)『うわぁ、ベータちゃんってば、めちゃくちゃ良い顔してる~』『あぁ~! 久々のベタある、最高ですわぁ!』『ベタある! ベタあるぅ!!』『最高! 最高!』


 ちなみに、視聴者リスナーの反応は上々であって、この配信は第2弾、第3弾と求められることになるのだが、それはまた後の話である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る