第13話 エールとステーキ

―ラピスローズを求めた冒険から一年が経った。



 この日のギルドはざわついている。クエストボードに国からの調査依頼が貼られていたからだ。こんなことは初めてかもしれない。


「どうするの?割のいい依頼みたいだけど、その分危険も大きのかしら。」


 グレースは相変わらず好奇心が強い。

   

「は?こんなの受けるに決まってるだろ。

 アキラがビビッて嫌だってんなら考え直すけどな。」


「はあ。リュウは相変わらず口が悪いな。

 アキラがこんなことでビビるわけないじゃないか。」


 エマがため息をつく。


「うん。ビビらないよ。

 うちにはリュウがいるし、グレースやエマもいる。」


「は?なんだそりゃ。結局他人任せかよ。

 お前はこの1年間、少しも成長してないな。」


 リュウはこのごろ、少し機嫌が悪い。


 依頼の内容を整理すると、最近ヴァルディアの森のモンスターに異変があるようだ。頻繁に森から出てくるようになり、先日はとうとう近くの村を襲った。そんなモンスターの動向を調査してほしいということらしい。


 募集人数は、DランクとEランクの冒険者を合わせて20名程度。そこにCランクのオペレーションマスターが2人付く。調査期間は2週間。依頼報酬は1人につき金貨35枚(Eランクは25枚)。回収した素材の売却費なんかも考慮すると、なかなかの実入りになると思う。


 だから僕もこの依頼は受けるべきだと思う。それに、Eランクに昇格して半年、ここで大きな依頼をクリアしておくと一気にDランクに近づく。Dランクになれば、一応は1人前だ。そうなったら僕たちは【霧の結晶】を求めて、古代遺跡に旅立つことになっている。


「よし。じゃあ、この依頼を受けるってことでいいかな?」


「なんでお前が仕切ってるんだよ?」


「ごめんごめん。

 依頼の受注手続きは僕の仕事だからさ…。」


「ふん。まあいいや。とりあえずこの依頼は受注する。

 リーダーの決定だ。」


 最近リュウは何かとリーダーを名乗りたがる。誰がリーダーかなんて決めてなかったのにね。グレースやエマは何も言わないが、最近はリュウとの間に少し溝を感じている。


 僕は早速、クエストボードの依頼書を手に取り、エレナさんの後任のリディアの元に向かった。彼女は僕たちと同い年らしいけど、すごく落ち着いていて知識が豊富。しっかりとした対応がとれる娘だ。

 

 ダークブラウンの髪を束ね、眼鏡をかけている。実はエレナさんと同じくらい、冒険者にファンが多い。僕は彼女に話しかけ、依頼の受注手続きをしてもらった。


「さあ、受注手続きは完了だ。

 出発は3日後だけど、今、強化しておこう。

 みんな武器と防具を出してくれる?」


「ちぇっ。また得意のおまじないかよ。」


「うん。大切なメンバーに僕ができるのはこれくらいだからね。

 気休め程度だけど、是非やらせてよ。」


 僕は最近、武器や防具の強化ができるようになった。僕だってこの1年間、遊んでいたわけじゃないんだ。効果だって、実は自信がある。武器屋の親父が、「武器のランクが2つは跳ね上がってるよ」って驚いてたし、効果時間だって、1回かけたら一ヶ月は持続する。


「いつもありがとう。

 アキラが強化してくれた防具は安心感がすごくある。」


「私も、本当に助かっているよ。」


グレースとエマは素直に差し出してくれた。


「しょうがねえな。

 役立たずでも仕事をしてるって、自分への気休めじゃねえの?」



「リュウ!言いすぎだよ(ろ)!」



「まあまあ。みんな落ち着いて。

 そうだ、今日は久しぶりにグリルドハートに行って、フレイムステーキ食べない?

 僕、お腹ペコペコだよ。」


 リュウの口は相変わらず悪いけど、エマとグレースも僕のことで怒りすぎだと思う。このメンバーで1年間やってきたんだ。みんなのいいところもいっぱい知っている。だからずっと仲良くやっていきたい。


 


 グリルドハートというのは、最近街にできた新しいレストランだ。ここの名物のフレイムステーキは厚切り肉を特性のスパイスでグリルしてある。外はカリっと、中はジューシーに仕上げた1品だ。


「あぁ、うんめえなぁ!!」


 リュウはここでステーキを食べてエールを飲むと上機嫌になる。


 もちろん僕とグレースも上機嫌だ。


 エマは誕生日の関係で、まだ16歳になってないからエールは飲めないけど、ステーキを食べてやっぱり上機嫌になっている。


「あれ?グレースじゃね?」

 

「あら、カイル。それにセレーナも。」

 

「久しぶりだな。今度の調査依頼はどうするんだ?」


 どうやらグレースの知り合いらしい。


「受けるわよ。今夜はその決起集会ってとこ。

 あ、みんなにも紹介するわね。カイルとセレーナ。

 この街の出身で、私たちと同期の冒険者よ。」


「あ、どうも。カイルです。

 こっちはセレーナ。

 それからグレースも知らないと思うけど、この2人はロナとオリヴァー。

 みんな同期だよ。」


「そうなんだ。初めまして。

 じゃあ、みんなあの日、同じ協会にいた仲間だね。」


 僕も挨拶をした。

 そういえば何人かは見たことがある気がする。 


 「そうなんだ。よろしく。」


 カイルが気さくに応じてくれた。

 

 「さっきの話だと、カイルたちも調査依頼を受けるの?」


 「そう思ってる。

  実は俺たちEランクに上がりたてなんだ。

  それで迷ったけど、報酬がいいからね。」


 「違いない。」


 グレースが笑った。


「君たちはこのお店によく来るの?」


「そうね、時々…。」


「さっすが俺たちの出世頭!

 この店はうちには高級だから、実は来るのは今日が初めてなんだ。」


 そうなんだ。実は僕たちが半年でEランクになったのは異例の早さらしい。1年でEランクになったカイルたちだって、ずいぶん優秀なほうだ。僕たちは、十分な実績を積み上げる前に、実力を買われて早めの出世になったってわけ。モンスター討伐を最優先するというリュウのスタイルが正しかったってことだと思う。


 さて、英気も養ったし、これからもはりきっていこう!




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