第9話 旅の目的とは
僕たちはギルドの食堂で早めのランチをとっていた。昨日のファンギーの魔核を換金したところ、銅貨52枚分になった。4人でわけると、1人あたり銀貨1枚と銅貨3枚。苦労に見合ってなくて笑ってしまう。この食堂の冒険者割引されたランチだって、1人あたり銅貨5枚は必要だ。
今は実家に暮らしているからお小遣い程度に稼げたらそれでいいけど、本格的に冒険に出るとなると、そうはいかない。
「せめて、ゴブリンが金になっていたらなぁ。」
リュウは不満そうだが、Fランクパーティにゴブリンの討伐は認められていないので討伐報酬はもらえない。ちなみに魔核は、鮮度とともに変色する。つまり、おおまかな討伐時期は、魔核の色を見ると判断できるのだ。だから、Eランクになるまで魔核を保管しておいても意味はない。
「あ~あ。ゴブリンには素材になる部位もねえし、襲われ損だよな。」
「お金のことを考えるなら、やっぱり採取依頼がいいんじゃないかしら。」
グレースは素朴に繰り返す。
「いや、モンスターをできるだけ討伐していく方針は変えない。
それで一時的にお金に困ったとしても、早いとこ強くなってランクを上げる。
そうしたら割のいい仕事はいっぱいあるからな。」
「ランクアップをすれば解決だって話は分かるんだけど、採取依頼じゃなくて討伐依頼にこだわることが、どうして強くなることにつながるのかしら。」
「僕は、この件に関してはリュウに賛成。
お前が言うなって思われるかもしれないけど。
エマはどう考えてる?」
「私は…。」
エマは何かを言い淀んでいる。
「なんだよ。思っていることを教えてくれよ。」
「私は…まだ、このパーティに入ったわけではない。」
僕たち3人はハッとした。
「そういえばそうだったね。
でも、僕はこれからもエマとパーティを組みたいな。」
「私も!出会ったばかりって思えないほど、昨日は一緒にいて楽しかったわ。」
「そういうこと。
エマはもう俺たちのメンバーの一員だ。」
リュウがどや顔で右手を差し出した。エマは握手に応えず、その手をぼんやり眺めている。
「私だって、君たちと冒険するのは楽しかったし心が躍った。
でも…。
そもそも君たちは何のために冒険者を続けていくんだ?」
何のためって言われても。僕たちの村は裕福じゃないし、戦闘系の職業を授かった者はみんな冒険者になるんだ。耕す畑もそれほどないから、出ていく者が少しいてちょうどバランスがいい。それに、余裕がある冒険者はふらっと村に帰ってきたときに酒や肉をお土産に差し出してくれる時がある。
村の者はそれを本当に楽しみにしていて、村で楽しいひと時といえばそんな時くらいのもんだ。そんな楽しみをくれる冒険者に、僕はずっと憧れてきた。リュウだって同じだと思う。
「つまり生活のためということだろう。」
それ以外に何があるのか、僕の生い立ちからは見当がつかない。
「私は魔王を倒したいわ。」
グレースが突飛なことを言って、「やっぱり今のなし」と、赤面しながら恥ずかしそうに取り消した。
「私は、実は貴族の生まれだ。
冒険者になったのは故郷を救うためという大きな目的がある。」
「え?エマって貴族なの?」
僕たちは一応驚いたけれど、村に住んでいて貴族を見かけることなんてほとんどない。あまり現実味が湧かなかった。それに、エマが貴族っていえば、確かにそんな感じがして違和感も感じない。
「それで、故郷を救うって具体的に何をするの?」
「私の本名は、エマ=ロイトリンゲン。
ロイトリンゲン家はフィオナ平原を治めている。」
フィオナ平原は10年くらい前から「黒の瘴気」と呼ばれる魔力を帯びた霧に覆われ始め、美しかった大自然はどんどん破壊されているという。「黒の瘴気」を吸った魔物は凶暴化し、領民は不安な日々を送っているそうだ。
古代遺跡にある「霧の結晶」は「黒の瘴気」を根絶するアイテムで、その存在を古文書で知ったのだけど誰も信じてくれないらしい。
「だから私は古代遺跡を目指して冒険するのだ。
そんな危険な旅に付き合いたい者がいないのは承知している。
だけど、私は何年かかっても「霧の結晶」を手に入れてみせる!」
僕たち3人の瞳がキラキラした。
エマは僕たちの様子に面食らっている様子だ。
これだよ!僕はこういうのを求めていたんだ。ただ、毎日を生きるために命をかけたいわけじゃない。もっと多くの人のために、友人のために、自分の人生を燃やしてみたかったんだ。
「私も力になるわ!」
1番にグレースが口を開いた。こういう時のグレースの決断力は本当に痛快だ。続いてリュウも同調する。
「俺も、俺も一緒に冒険するよ。
俺たちのパーティの目的は、今日から霧の結晶の入手だ!」
「僕も。力になれるように、自分を鍛えたいと思う。
是非、僕も連れて行って!」
「…本気で言ってるのか?」
もちろん!
僕たち3人の声がそろった。昨日、初めてモンスターを、しかも最弱モンスターのファンギーの討伐依頼をこなした若者4人が、今日あまりにも大きい夢に胸を膨らませている。これが生きてるってことだよ!僕は声を大にして言いたかった。やっぱり僕は、浮かれやすくて、感情に正直で、冷静ぶってるけどわかりやすい男らしい。
「あのう…。」
僕たちが盛り上がっているところに1人の男が声をかけてきた。
「あなたがたは、モンスター討伐がしたいけど、報酬額が少ないことが悩みだとお話しされてましたよね。」
ええ、してました。
結構前にね。
今はもう違う話で盛り上がってるところなんですが…
この、間の悪い男はルーカスというらしい。二十歳そこそこの青年で、灰色の髪がくっしゃりしていた。
「あなたがたにぴったりの美味しい話があるんだ。」
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