第8話 はじめてのゴブリン討伐

―ゴブリンだ。


 ゴブリンとは土色の人型モンスターで、大きさは1.5mくらい。身体能力はそれほど高くなく、10歳そこそこの少年くらいって言われている。武器や道具を操るし、罠を仕掛けたりもしてくる。ゴブリン同士では簡単な言語を使って意思疎通もしており、人間の3歳児くらいの知能があると推察されている。ただし理性をもっていないので、一切躊躇なくこちらを殺しにくる。感情が戦いに特化していて恐れを知らないので、油断してると本当に恐ろしい。本能に忠実で、人間の女性がゴブリンに捕らわれると、いろいろと酷いことになる場合がある。

 

目の前のゴブリンは両手に1つずつ石を握っている。


 攻撃役の2人が投石を警戒しながら距離を詰めて、切り倒すべきだろう。僕は距離をとった場所から石に気を付けて、味方にバフをかけよう。

 

 かけたことはないけど、なんとかなる気がする。職業とはどうやらそんなものらしい。


 いや、待てよ。


 油断せずに念を入れたほうがいい。ここではなく、いったん木陰に隠れてから、バフをかけるのが万全なのではないか。


僕は右後ろの木に向かって草むらに飛び込んだ。


ギギッ


何かにぶつかって血の気が引く。


 ぶつかったのはゴブリンで、至近距離で目が合った。ゴブリンは1匹ではなかったのだ。手にはなにやら鈍器のようなものを持っている。



うわーーー!



僕は恐怖に支配され、大声で叫んでいた。


 僕が先ほどいた場所の左後ろにあたる位置から、さらにゴブリンが飛び出した。こいつは錆びた銅剣を持っている。


 ゴブリンは全部で3匹いた。最初に出てきた、両手に石を持った奴がおとりで、残り2匹が草陰から隙を伺っていたのだろう。


 石のゴブリンとエマが対峙し、エマの後ろに守られる形でリュウとグレースがいる。グレースはリュウを回復しているところだ。


 さらに、その背後から銅剣のゴブリンが現れたので、彼ら3人は2匹のゴブリンに挟み撃ちされる形になった。


 少し離れた草むらの中では、僕が鈍器のゴブリンと密着してしまい、お互いに次の行動を決めかねて固まってしまっている。


 グレースは素早い判断で詠唱途中の回復魔法を放棄し、後ろのゴブリンに向き直った。同時にゴブリンの銅剣が飛び掛かってきた。ぎりぎりのタイミングで、攻撃を木の棒でしのぐ。渾身の一撃をいなされたゴブリンはバランスを崩し、その時にはすでに振り上げられていたリュウの剣の格好の的となってしまった。


 背後から現れた新たなゴブリンの気配に一瞬狼狽しかけたエマだったが、次の瞬間には開き直り、ゴブリンとの距離を詰め、その首先に細剣を突き刺していた。


石のゴブリンと銅剣ゴブリンはほぼ同時にドサと倒れた。


 草むらでは鈍器のゴブリンが身をかがめ、その鈍器で思うさま僕の足の甲を打った。そしてそのまま飛び下がる。足を撃たれた僕は、幸いにもまだ肉体にダメージを受けなかったが、恐怖を制御できずにもう一度



うわーーー!



って、叫んだ。


 その声に、放心しかけた3人のメンバーが我に返り、僕たちを取り囲んだ。僕はそのまま後ずさり、4人に囲まれる形になった鈍器のゴブリンは、なすすべなく倒された。




―僕は浮かれていた。


何もできなかった。


今はただただ自分が恥ずかしくいたたまれない。


街の明かりが見えてきた。


 あれから程なく、空には薄暮の帳がおりはじめ、今はもう真っ暗である。僕たちは用意していた照明具の頼りない明かりにすがって、ギルドに向かって歩いていた。


「いやあ、今日は本当に楽しかったなぁ!

 ゴブリンに襲われたときは、血の気が引いたけどな。」


リュウは相変わらず浮かれている。いや、彼には浮かれる資格があった。


「あの時は回復を後回しにしてごめんね。

 たんこぶはできてない?」


「大丈夫、大丈夫。

 アキラは情けなかったけど、初めてだったししかたないよな。

 気にするな、気にするな。」


リュウの慰めは、ずけずけ刺さる。元気のない僕を気遣いながらも持て余していたエマとグレースは、一瞬身を固めた。


「というか、支援役だからな。

 あの状況が私だったら、泣いていたかもしれないよ。」


エマが絶対にあり得ない冗談でフォローしてくれる。

 

「今日は本当にごめん。

 僕はもっと冷静で、力はなくても自分は役に立てるって思い込んでいたよ。」


グレースは努めて明るく笑ってから


「冷静?私は、アキラは感情に正直で分かりやすい奴だと思うよ。」


って毒づいてきた。耳が赤くなるような羞恥を感じたけど、不思議と少し元気が戻ってきた気がした。


「おい!アキラは傷ついているんだから、冗談は空気を読んで言えよ。

 もっと慰めてやってくれ!」


リュウは自分の優しさに心底満足しているようだった。


 「いいか。今日のアキラが無様だったとしても、次から頑張ればいいんだ。

  パーティにいらないなんて言う奴がいたら俺が許さないからな!」


と、誰も言っていない誹謗を勝手に想定して、器大きくそれを断罪した。


「誰もそんなこと言わないわよ。

 でも私もアキラの成長を楽しみにしてるのには賛成。

 アキラはいつか、私たちの中で1番すごい奴になる気がするんだ。」


グレースが無邪気に笑いかけてくれる。


「うん。私も不思議とそんな気がしている。

 アキラに負けないようにがんばらないとな。」


エマも僕を励ましてくれる。


リュウは少し腑に落ちない顔になって


「まあ、最初の能力を逆転するのって難しいっていうか、

 でも、俺もお前に期待しているからがんばれよ!」


 って、レベルの話を俺に思い出させて、あまり調子に乗らないように釘を刺してから励ましてくれた。


実にリュウらしい。


そういう風に感じられるくらいには、気持ちが回復してきた。





☆☆☆


ご愛読ありがとうございます。

初めての執筆生活に悶え苦しんでおります。


どうか私にモチベーションをください。

フォローや評価など、切にお願い申し上げます。


また、作品内の矛盾を発見したときなどは是非ご一報いただければと思います。

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