第7話 ファンギー10匹パン1個
翌日、僕とリュウが待ち合わせ場所であるギルドの前に着くと、グレースはすでに待っていた。
「おはよう。2人とも、昨日は緊張して眠れなかったんじゃない?」
「おはよう、グレース。」
「よう!
緊張してガキみたいに眠れなかったなんて、それお前のことじゃないのか?」
「え、私?…うふふ。」
グレースがごまかしたところを見ると、彼女は昨夜眠れなかったに違いない。僕だってそうだ。だけど、誤解のないように言っておくと、緊張してたんじゃなくて、楽しみすぎたんだよね。
「お待たせ!申し訳ない、待たせたか?」
ほどなくエマがやってきた。
「そんなことないよ。ほら、時間ぴったり。」
僕はギルドの外壁に設置されている大時計を指さした。
―僕たちはファンギーが出没するという裏山に向かっている。
「ファンギーは集団で出てくることが多いから、油断しないで行こうね。」
僕が言った。
「集団って言ってもファンギーだからね。」
「そうだ。俺たちなら楽勝だって!」
グレースもリュウも強気だ。
「ファンギーって、どんなモンスターなんだ?」
エマに至っては…知らないんだ??
ファンギーっていうのは握りこぶし大のキノコ型モンスターだ。自然の多いところにはたくさんいるものだけど、今から行く裏山のように、畑が近くにある場合は農家の脅威になってしまう。ファンギーの胞子は農作物の大敵だからだ。
戦闘力はさほど高くない。っていうか、最弱って言われてるんだけど。それでも僕たちは、今日がデビュー戦なんだから油断だけはしないでおこう。
討伐報酬は10匹倒して銅貨1枚。パンを1つ買えるくらいだ。だから仕事としては実際のところ、集団で出てきてくれないと話にならない。
裏山に到着すると、湿った土のにおいが漂ってきた。木々の間からは微かな日差しが差し込んでいる。少し進むと、さっそくファンギーの群れが現れた。おそらく200匹くらいはいる。ぴょんぴょんと飛び掛かってくるのだが、なんだかじゃれられているようで愛嬌すら感じる。
とはいえ相手はモンスター。体力を削られきった状態で攻撃を受け続けると、その部分が鈍く痛みだし、そのうちに壊死してしまう。軽い毒性があるのだろう。
「俺に任せろっ!」
リュウが剣をふりまわす。
スカッ
スカッ
パシッ
って具合に、なかなか攻撃は当たらないが、それでも3回に1回は当たっているようなのでなんとかなる。ファンギーは、1撃を喰らうと簡単に倒れて動かなくなった。
「私も負けないぞ!」
エマが続く。僕たちもファンギーが相手なら支援役なんて言ってられない。僕は父ちゃんに借りてきたナイフを振り回す。グレースは家の庭で見つけたという程よい長さの木の棒を振り回している。
20分くらい、この小さな敵を相手に立ち回っただろうか。半数程度を倒したところで、ファンギーたちはぴょんぴょんと逃げていった。僕たちはもう汗だくで、肩で息をしていたけど、なんて言うかわくわくしてお腹の下のあたりがムズムズして、こんなに楽しいのは生まれて初めてだった。
僕たちは水筒の水をゴクゴク飲んで、それから散乱しているファンギーの死骸を集め始めた。集まったファンギーのお腹のあたりに親指を突き立てて、左右からきゅっと力を加える。そしたら、ファンギーの魔核は枝豆みたいに簡単に取り出せる。
ちなみに動物とモンスターの違いは、心臓を持っているか、魔核で動いているか。だから、魔核はモンスターを討伐した貴重な証拠になる。ファンギーの魔核は朝顔の種くらいの大きさなので、なくさないように慎重に、数を数えながら小瓶に入れていく。全部で116個あった。
この日はあと2回、ファンギーの群れと遭遇した。どうやらファンギーは、戦闘が始まってから一定の時間が経つと逃げていく習性があるみたいだ。その時間内に倒せるファンギーの数は少しずつ増えてきた。魔核の数は300個を超えたあたりでわからなくなったので数えるのをやめてしまったが、たぶん500個は集まっていると思う。
僕たちはヘトヘトになっていた。
「これで銅貨50枚くらい?割に合わねー!」
言葉とは裏腹にリュウは充実感を漂わせていた。
「だからそう言ったじゃない。」
そう言いながらグレースもまんざらではない。
「だけど、もうちょっと強い敵ともそろそろ戦いたいな。」
ちょっと、エマさん。それフラグです…
ドゴッ
突然、鈍い音が鳴って、リュウが無言で後頭部を抑えた。ジャガイモくらいの大きさの石がすごい勢いで飛んできて、リュウの頭を直撃したんだ。敵襲だ。
僕たち戦闘職を授かったものには、身体をまとうような透明の揺らぎが発生するので、目を凝らせばすぐにわかる。ただし、これは戦闘職を授かったものにしか見えない。この揺らぎがあるかないか、あるいは見えるか見えないかが戦闘職とその他の職の判断基準になっている。例えば名前だけ聞くとそうは思えない僧侶が、戦闘職に分類されているのもそういう理由だ。
攻撃を受けるとこの揺らぎは少しずつ削られていき、そのうちに無くなってしまう。なくなった状態で攻撃を受けると、僕たちは普通に怪我をするし血も流す。つまり、この揺らぎがあるうちは怪我もしないし、大した痛みも感じないのだ。冒険者はこれを体力と呼んでおり、この体力を回復させるのが、僧侶など回復役の主な仕事だ。
ところで、僕とリュウはこの揺らぎの名称がHPだと知っている。僕のHPの初期値は40だ、というふうに数値化することも可能だ。リュウのHPの初期値がいくつか僕は知らない。だけど、僕より少ないということはあり得ないだろう。そのリュウのHPが目の前で3分の1ほど削られた。もしも攻撃を喰らっていたのが僕だったら、どうなっていたのだろう…。
僕はにわかに怖くなった。
「敵だ!」
石が飛んできたほうを睨みつけ、エマは瞬時にリュウを守るよう位置どった。グレースはリュウのところへ駆けつけ、回復魔法を唱えている。僕が今、しなければいけない役割は…。
だめだ。頭がうまく回らない。
ガサガサガサ!
目の前の茂みが揺れたかと思うと、僕たちの目の前に何かが飛び出した。
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