第6話 銀髪の美少女

 ギルドの大きな扉を押し開けると、中は活気に満ち溢れていた。クエストボードの前で何やら相談する冒険者。カウンターで登録手続きをしている冒険者の様子もうかがえる。僕たちもようやく冒険者としての1歩を踏み出す準備が整った。


「冒険者登録と、それからメンバーの募集だな。」


リュウの声にひっぱられるように、僕たちは受付へと向かった。


 その時、奥のほうから何やら騒がしい声が聞こえてきた。人々の視線が向けられているほうを見ると、1人の女が大男と口論しているのが見えた。彼女は長い銀色の髪を後ろで束ねており、動くたびにその髪が陽の光を反射して輝いて見えた。腰には剣を携えている。


「かっこいい女性ね。でも大丈夫かしら。」


グレースは興味津々で小さくつぶやく。僕たちはその様子を遠目に見守っていた。


「本当に勘弁してくれないか?こんなところで何をしようっていうんだ?」


 彼女の声は鋭く、しかしどこか優雅さも感じさせる。男は面食らったように黙り込んだが、不意に手に持った斧を振り上げた。そのまま彼女に振り下ろす。彼女も抜刀し、なんとか斧を防いでいる。すると彼女の剣先が青白くひかり、その光は男の目の前までフワフワ飛んでいき、いきなり爆ぜた。


「うわぁっ!」


 男は驚きのあまり、少々情けない声をあげて尻もちをついた。爆発の正体は魔法で発生させた水だったようで、男に外傷はないものの、ざっぱりと頭からびしょ濡れてしまっている。


ワッハハハハハ


 こんなパブリックな場で刃傷沙汰が起こったのだ。いくら冒険者ギルドとはいえあり得ない。それでも居合わせた観客たちは、男の無様に腹の底から笑っている。場の納め方として、鮮やかといえばこれは鮮やかすぎる。僕は思わず感嘆のため息をついた。


「魔法…?剣士じゃないの?」


 グレースは驚きの声を上げた。そう。そういえばそれも驚くべきところである。【魔法剣士】というやつかな。魔法も剣も操った。しかもその魔法は剣を媒体にして発動されたように見えた。経験の浅い今の僕には「すごい」としか言いようがない。


 ギルド職員が2・3名かけつけてきて、とりあえず騒ぎは収まった。僕たちは冒険者登録をするために受付のカウンターに並んだ。


 順番がやってきた。僕たちの間で決め事があったわけではないが、こういう時最初に事に挑むのはいつもリュウと決まっている。リュウは当然のようにカウンターの前に進み出る。グレースもそのことに不満はないようで、僕たちは1歩下がったところで見守った。


受付係の女性は、とても素敵な笑顔で対応してくれた。


「冒険者登録ですね。それではお名前と出身地をお願いします。」


「リュウです。エンダーヴィルに住んでいます。」


「あ、お隣の村ですね。」


彼女は相槌を打ちながら、慣れた手つきで書類を用意し、必要事項を記入させた。


「後ろのお2人はお連れ様ですか?」


「はい、そうです。」


「じゃあ、初期の説明は3人の受付が終わってから、みんな一緒にさせてもらいますね。」


 そんな流れで次は僕が冒険者登録を行った。本当はグレースに順番を譲ろうとしたんだけど、彼女に強引に促されて、僕が2番手になった。最後にグレースが登録を済ませる。


「じゃあ、説明を始めますね。」


受付係さんがにっこりと微笑む。


 冒険者はAからFまでのランクに分けられていて、その上には例外的にSランクというのもあるらしい。僕たちは初心者なので当然Fランク冒険者ということになる。それから、依頼はクエストボードから選んで、受付で受注する。依頼にも難易度に合わせてランクがあり、自分の冒険者ランクを超える依頼は受けられない。忘れてはいけないのが、モンスター素材はどこで売ってもかまわないが、登録している冒険者ならギルドが割高で買い取ってくれるシステムがあってお得。後は、この受付係のお姉さんのお名前は、エレナっていうんだって。


 説明を聞き終わると、エレナさんは僕たちにピカピカの冒険者バッチを手渡してくれた。


 次は、クエストボードだ。さすがに活動は明日からだとして、今日は依頼だけでも受けておこうと思う。


「この薬草採取の依頼はどうかしら?」


「だめだめ。依頼はモンスター討伐一択だ!」


「でも、Fランクの討伐ってファンギーくらいしかないわよ。

 ほら、あの小さなキノコ型の。」


「ファンギーね、いいじゃないか。」


「えらくモンスターにこだわるのね。低ランクのうちは採取以来のほうが割がいいのよ。

 ファンギーなんて倒してもいくらにもならないし、みんなそうしてる。」


「それでもファンギーだ!強くなるためには必要だからな。」


リュウはそういって僕に目配せした。

はっきり言ってこれだけは僕もリュウと同意見だ。


「ファンギーなんて猫にも追いかけられるようなモンスター、倒したって強くなれるかしら。」


「いいじゃない、グレース。ほら、モンスターと戦うほうが、冒険者になったんだって気がするし。」


「そうかなぁ。ファンギーねぇ。ま、いいわ。」

 

 最後はグレースが折れてくれた。


 そうこうしていると、さっきの銀髪の女性が現れた。どうやら今まで、ギルド職員に事情を聴かれていたらしい。それでもお咎めなしで無事釈放ってことは、やっぱりあの喧嘩、あの大男が一方的に悪かったってことなのかな。


 彼女を今見ると、あどけない顔つきに見えた。僕たちがさっきまで並んでいたカウンターにそそくさと並ぶ。


え??


 もしかして、彼女も今日成人の儀を迎えた新人さんですか??今日、職業をもらったばっかりで、なんであんなに強いの!思わず僕たちは彼女に声をかけた。


「知らないよ。あんなの全部まぐれさ。いきなり斧で殺されかけて、必死で抵抗して、それから今日【魔法剣士】って言われたから、使えるのかなって試してみたら…なんだか、変なのが出た…な。」


少女は思い出したようにカラカラと笑った。


ほ、本物の天才さんでしたか。


「なぁ。明日俺たちとファンギー討伐に行かないか?」


「どうして私なんだ?」


「そりゃお前、パーティは4人が基本だし…。」


「ふーん。でも採取依頼じゃなくて討伐依頼なのだな。

気に入った!いいぞ。」


リュウの物怖じしない性格はいつもすごいなと思う。羨ましくはないけど。


僕たちは明日の昼前に待ち合わせることを決めて、その日は解散することにした。



☆☆☆


ご愛読ありがとうございます。

初めての執筆生活に悶え苦しんでおります。


どうか私にモチベーションをください。

フォローや評価など、切にお願い申し上げます。


また、作品内の矛盾を発見したときなどは是非ご一報いただければと思います。

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