第5話 パーティに出会いを求めるのはまち…

「親愛なるアキラよ。今日、君は成人の儀を迎え、新たなる人生の旅路に踏み出します。新成人アキラに与えられた職業は…『付与術師』です。」


 気が付くと目の前に神父様がいて、僕が改めて【付与術師】になる瞬間だった。少しのザワつきが聞こえた。眼鏡のチビに妙にしっくりくる職業だ、と変な感心をする声。こんな地味な奴が戦闘職か、とやっかむ声なんかもあった。


 ここではもちろん職業名以上の情報が与えられることはなく、僕は席に戻るよう促された。薄暗いステンドグラスから差し込む光が、神秘的な模様を床に描いている。その床の上を1歩1歩進み席に戻ると、リュウが笑顔で待っていて、僕に嬉しそうにウインクした。


「あら、おめでとう。あなたたち【重戦士】に【付与術師】って、なかなかいいコンビじゃない。」


 どうやら夢ではなかったらしい。そして、リュウは一足先に戻ってきて、すでに【重戦士】を授かっていたようである。自分のステータスの振り分けに必死になりすぎて、全然気がつかなかった。ところで今、僕に話しかけてきたこの娘は誰だろう。


「ありがとう。君は…」

「私はまだ。」


 少し食い気味に返事が返ってきた。


「マダ?」

「そう、まだ。あ、私の名前が呼ばれている。私はこれからよ。」


 彼女はそういうと祭壇に向かって歩いて行ってしまった。彼女の名前はグレースっていうのか。


 …だって、神父さんがそう呼んだときに反応したからね。


「彼女は誰?」


「この街のパン屋のひとり娘だって。」


「あぁ。今日ここに来るとき、通ってきたね。あの花畑の前の…」


「あいつも俺たちと同じで成人の儀を受けに来たらしい。年下に見えるのにな。」


「可愛らしい娘だね。」


「そうかな?まあまあじゃね?

 あいつにさ言われたんだけど、成人の儀を受けるまでの俺たちって、めちゃめちゃ緊張してたように見えたって。」


「へー。この教会に入ってからの話だよね?」


「そうそう。俺もお前もぼーっとして、話しかけても反応しないし、心ここにあらずって感じだったって。」


「なるほど。僕たち、あの不思議な空間に行ってる間、そんな感じだったんだ。」


「ねえ?何の話?」


うわっ!


 びっくりした。僕たちの顔を彼女の大きくて青い瞳がのぞき込んでいた。ふんわりした金色の髪は肩のあたりで軽く波打っている。グレースはクスクス笑う。


「そんな反応するんだ。さっきまでは何言ってもぼーっとしてたのにね。」


「ま、まだ、子どもだったんだよ…。」


 一生のうちで、今日、この瞬間にしか使えないジョークを言ってみた。


「で、お前の職業は何だったんだ?」


「え?聞いてくれてなかったの? 

 ひどーい!」


「そんなに興味もなかったからな。

 それで、無事、パン屋の職業はもらえたか?」


「それでもよかったんだけどね。

 でも、違うわよ。

 なんと私の職業【僧侶】なんだって!」


 おぉ!


 僕のジョークは流されたけど、彼女も戦闘職なんだ。ちょっと心が躍った。【付与術師】に【重戦士】【僧侶】ってバランス的にはいい感じだよね。


「ねぇねぇ!【僧侶】と【重戦士】【附与術師】って相性最高じゃない?」


 あ、同じことを。


「ちょうど今、僕も同じことを…。」


「それもそうだな。じゃ、俺たち3人でパーティ組んで冒険するか?なんつって。」


「いいじゃない。パーティ組もうよ!」


「へ…?お前、本気で言ってんの?」


 僕は今度こそお腹に力を入れて、会話に割り込んだ。


「うん!そうしよう!

 僕たちでパーティを結成しようよ!」


 冒険者は通常3~5人くらいでパーティを組み活動している。でも基本はやっぱり4人組なんだって。それが1番いいって先人たちの経験則でもあり、この世界の常識でもある。それ以上人数がいても戦闘力の足し算としては効率が落ちるから、報酬面とかを考えると4人がいいってことみたい。時々、力が衰えてきた老パーティが6人くらいで活動してるけど、どうしても楽しさメインっていうか、趣味の延長みたいになっちゃうって。


「冒険者ギルドで、もう1人くらいメンバー募集してさ!」


 僕は早口でまくし立てる。


「なんだよ、アキラまで。気が早えーな。

 ま、俺は別に組んでやってもいいけどな。」


「ずいぶん上からね。

 でもいいわ。じゃあ、決定ね!」



 それから僕たちは教会を出た。そして例の花畑に敷物を並べて、パンを食べながらこれからのことを話し合った。この時のパンの美味しかったことったら、僕はこの味をずっと忘れないだろう。


「じゃあ、残りもう1人のメンバーも、早めに募集したほうがいいよね。」


「あら、メンバーを1人増やすって、もう決まってるの?」


「だって、パーティは4人が基本だし…

 それに、早めに入ってもらわないと、新しい娘が馴染めなかったら可哀そうだし。」


 リュウがニヤニヤ笑って言う。


「へー。4人目は女の子に決定してるんだ?

 それもパーティの基本?」


 しまった。


 僕は顔を赤らめた。


「私たち3人とも新人なんだから、4人目は私たちを指導できる男の先輩って手もあるわね。」


 それはない。


 その思いはリュウにもあったみたいで、すぐさま却下してくれた。自分に主導権のないパーティなんて、リュウは想像したこともないんだろうと思う。


「やっぱりバランスを考えたら、女のほうがいいかもな。

 アキラも望んでるみたいだし。

 グレースにとっても、女がもう1人いたほうがやりやすいだろ?」


「まあね。じゃあ、そうしましょう。

 なんだかわくわくするわね。」


「後はちゃんと、楽しみにしているアキラ好みの娘が見つかるかどうかだな。」


「ぼ、僕は、そんなつもりで新メンバーを求めてるんじゃないよ!」


「まあまあ、そんなにムキにならないで。

 男の子なんだからそういう気持ちがあるのもしかたないよ。」



違う!



 グレースは笑ってくれたけど、僕は声を大にして言いたかった。僕が入ってほしいのは、リュウが気に入る女の子だ。できれば他の女の子が目に入らなくなるくらい、リュウにとってお気に入りの娘が見つかるといいなと思っている。



理由は、察してほしい。

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