第27話 サドリッジの復興
あれから1週間後。予定より少し遅れたけれど、リバークロフトの厳戒態勢は無事解かれた。サドリッジの村人は、やっぱり生まれ故郷に帰っていくようだ。
多くの仲間は失ったけど、先祖代々受け継いでいる土地だからね。畑や家屋を見捨てたくはないみたい。
ちなみに、ギルドの現地確認も無事終わった。僕たちの報告は事実だと確認されて、僕たちは報酬を受け取った。依頼への参加料が1人あたり金貨24枚。それから、討伐されたモンスターは1000体近かったのではないかと判断され、金貨450枚のインセンティブが発生した。実際にはその倍は討伐したと思うけど、そこはしかたがない
ギルドはこういう場合、普通は見込み討伐数よりも多めに算定して、冒険者に不満を溜めないようにしてくれる。うん。たぶん、今回もギルドは大盤振る舞いのつもりだ。ただ実際に討伐した数が常識外れになっちゃってたから、ギルドも見当がつかなかったんだろうな。
ギルマスもリディアも、算定された1000体という数字にすら口をあんぐりさせて驚いていたし、心からの賛辞と謝辞を送ってくれた。
さて、報酬をみんなで分けると金貨114枚になった。普通に考えたら、100枚をギルドに預け14枚を持ち歩くのが程よいかもしれない。もしくは白金貨1枚と金貨14枚なら無理なく持ち歩ける。紛失は少し怖いけどね。だけど僕たちには異次元バッグがあるし、このまま金貨114枚を持ち歩くのが結局使い勝手がいいと思う。
いろいろ考えたんだけど、そういえば白金貨なんて高価なコイン、1度も見たことがない。うん。やっぱり白金貨に両替してもらおうかな。僕は白金貨1枚と金貨14枚を異次元ポケットに入れた。後で聞いたら、実はみんなも白金貨に替えてもらったんだって。考えることは同じだ。
僕たち、エヴォルブハーツにはこれからやるべきことが2つある。
あ、このエヴォルブハーツは、僕たちが名乗っているだけの名前じゃないよ。今日から歴とした正式名称として登録されているからね。
僕たちがCランクに昇格したのかって?
そうじゃないんだ。
実は僕たちエヴォルブハーツは…
C ランクを飛び越して、Bランクに昇格しちゃった。もともとBランクのセペンティアを討伐していたわけだけど、今回の討伐でそれが紛れもない実力だって判断されたみたい。加えて、その実力の証明にDランクモンスター1000体を討伐してるんだから、これ自体ももちろん功績に積み上げられる。そして結果、スタンビートを未然に防ぎ、街を護った。僕たちが1番の功労者ってことになったみたいなんだ。
「ルーキーがBランク?本当かよ?」
「だが、実績を考えたら妥当かもしれないな。」
「あぁ。あいつらのおかげで街が護られた。」
冒険者たちは驚いていたけど、不満に思った無法者に絡まれるなんてイベントは、起こらなそうだ。
さて、話が逸れたけど、僕たちエヴォルハーツがこれからすること。
1つは、サドリッジの畑の修復だ。だいぶ派手に暴れちゃった。もちろん仕方がないことだけど、終わってみれば少し申し訳ない気持ちが芽生えてきた。できるだけ力を尽くして、村の復興に力を貸したいと思っている。
そうしてもう1つ、こっちが大切なことなんだけど。僕たちはもう一度ヴァルディアの森に入ろうと思う。ギルドは今回の件、経過は観察するが一応の解決ということで処理した。いつも人手が足りていないから仕方がない。でも、ヴァルディアの森の様子もわからないまま、サドリッジの住民を村に帰したくない。彼らだって、ずっと不安だと思うんだ。
―そんなわけで今日、僕たちはサドリッジに向かっている。
農作業のことはわからないので、サドリッジのおじさんについてきてもらった。
サドリッジに着くと、おじさんは数日で荒れ果ててしまった故郷に改めて驚き、言葉を失っていた。僕たちは謝罪をして、励ました。僕たちの謝罪には
「とんでもない。君たちのおかげで、こうしてまた帰ってこられたんだから。」
と恐縮していた。さて、
「修復といっても、今年の収穫はもう無理だな。
来年、また耕作できるように、何とか形だけでも畑に戻すことができればええんじゃけど。」
という、ことだったのでもう遠慮はいらない。
まずは僕がバフをかけたエマの魔法で、ドッカンドッカン耕してしまった。耕しているというより破壊しているようにしか見えなかっただろうけどね。
それから、
「なんで俺がこんなことを…。」
って、リュウは愚痴っていたけど、僕たちは鍬を手に、なんとか畑の輪郭を作って回った。
農機具にも身体にもバフをかけているとはいえ、なかなか骨が折れる作業だった。とりあえずこれでひと段落。ここから畝をつくり、種を撒くのは住人の仕事だ。
作業が終わったころには、日が沈みかかっていた。
最後に僕が畑にバフをかけて回る。
「これで完了です。畑の土に力を与えたので、きっと大丈夫。
もう夏になっちゃってるけど、いまから撒ける種があれば、きっと秋には収穫できますよ。」
そういって、バフの説明をしておいた。
今日のこの仕事のおかげで、僕たちは、住民たちから大きな感謝と素晴らしいお礼を受け取ることになる。だけどそれは、後のお話。今は、サドリッジの人たちの大切な場所を守ることができた。そのことがただ心地よかった。
夕日に照らされた畑は柔らかな赤橙色の光に包まれ、ふかふかになった土が心地よさそうに広がっている。土の1粒1粒が、夕日の赤みをほのかに吸い込んでいくようである。風が僕たちの間を穏やかに吹き抜けた。
☆☆☆
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