第28話 再び森に潜る

 サドリッジの復興を手伝ってから数週間が経っている。そして今日、僕たちは再びヴァルディアの森にやってきた。


 不思議なくらい落ち着いている。


 以前はあれほど緊張して挑んだ森だったが、今はふらっと森林浴に来たかのようにリラックスしてしまっている。


 僕は街で待機しているこの期間に、できる限りの準備をしてきた。


 例えば、グレースの回復魔法をアイテムに付与した。これまで僕の付与術とは、対象物に宿る何かしらの力を強化した。身体能力を強化したらバフ、同じ直線上でマイナスの強化を施したのがデバフ。


 武器の攻撃力や防具の防御力。土が持つ生命を育む力や、空間なんてものまで強化できるようになった。


 そして今、他所にある力を、違う対象物に付与することができるようになった。職業レベルというやつが、きっとずいぶん上がってきている。


 その新しい能力で、バフをかけたグレースの回復魔法をさらに回復薬に付与した。同様に、解毒魔法を毒消し薬に付与した。最初は、グレースのMP節約。もしくはグレースがいない場合の非常薬として考えていた。付与する対象は何でもよかったが、食べられないものに付与しても仕方がない。ややこしくならないように、安物の回復薬と毒消し薬を大量に用意したのだ。


 しかし、いざ付与をしてみると予想外のことが起こった。回復薬が本来持つ力とグレースの魔法が反応し、別次元にまで性能が強化された薬ができてしまった。毒消し薬にしても同じである。付与術とは、まだまだ応用のきく能力なのかもしれない。


 この性能がぶっ壊れたかのような薬品は、2種とも、メンバーに十分な数を配った。ただし、リュウだけは受け取らない。


「そんな怪しい薬はいらねえ。

 そんなもんがなくても、俺は誰にも負けない自信がある!」


 なんて言う。本当に自分に自信があるなら、笑顔で受け取ってお礼の一つでも言えばいい。それで使わなかったらいいじゃないか。僕はやっぱり心配だから、使わなくても携帯だけしてほしいと頼んだ。そしたら、


「かさばるじゃねえか!」


 だって。


 そういえばリュウだけ異次元バッグを持っていないんだった。確かに、そりゃあかさばるよね。


 

 そんなことを考えながら、僕たちは森の中を歩くように走っている。移動に特化したバフでスピードは上々。今のところ疲れは一切感じない。時々、小型のモンスターを見かけたが、コソコソと隠れてしまう。僕たちパーティは今や、こんなに強くなった。


 ずいぶん森の深いところまできた。ここらで昼休憩にしたいと思う。僕は荷物の中からテントを出した。このテントもだだのテントじゃない。中の空間を強化してある。つまり、外から見るより中が広くなっている。


 リュウが見てないうちに、異次元バッグから取り出したんだけど、さすがに不自然すぎてリュウは驚いていた。ここはグレースとエマに任せておこう。


 中に入ると、木製の家具や調理器具が設置され、ずいぶん快適に作りこんである。今日のお昼ご飯はグレースが作ってくれるという。っていっても、誰が作っても同じように美味しくなるんだけどね。


 実は、グリルドハートの料理長にお願いして、彼の技術を調理器具に付与してみたんだ。すると、すんなり成功した。この調理道具を使うと、自然に身体が動いて、美味しい料理を作ってしまう。


 

 しばらく待っていると食欲をそそる臭いが漂ってきた。さあ、みんなでランチにしよう!


 紫キャベツとリンゴのサラダはシャキシャキとした触感が最高だ。シンプルなビネグレットドレッシングが、食材の味を引き立てている。


 かぼちゃのポタージュも絶品だ。甘味が凝縮された熟成かぼちゃをじっくり煮込んである。バターで炒めた玉ねぎと生クリームがスープに深みを与え、口当たりも滑らか。


 メインのスティンバニーのステーキはもう言うまでもないよね。今まで美味しいと思っていたスティンバニーの料理が何だったのかと思ってしまうくらいに美味い。食材は違うけど、これぞグリルハートのステーキだ。


 ちなみにこれらの極上食材はすべて、サドリッジの畑で採れたものと獲れたものだ。


 それに、グレースのパン屋さんからもってきたバケットをあわせた。


「んふぁ。ボク今までこんな美味しいご飯、食べたことないよ」


 リゼットが感動してくれるとなんか嬉しい。僕たちだってこんな美味しい料理初めてだけど、先輩として余裕をみせておくべきだろうか。なんて一瞬考えちゃった。


「グレース、本当に美味しいよ!ごちそうさま!」


 僕がお礼を言ったら、エマも同調した。


「うん。私もこんなに美味しい食事は初めてだ。」


 へー、貴族様でもそうなんだ。


「ん、確かに…、グレースにこんな才能が隠れてたなんてなぁ。」


 リュウの口にも合ったみたいだ。


「そういえばリゼット、ウッドランドジャケットの着心地はどう?」


 グレースが尋ねる。


「最高!本当にありがとう!」


「うん、リゼット。似合っていてすごく可愛いよ。」


 エマが褒める。


「んふぁ。」


 リゼットは照れている。


 無邪気に喜ぶリゼットは可愛い。このリゼットを見たいから、グレースもエマも余計に褒める。まんまとホルホルしているリゼットの姿は、みんなを幸せにしてくれた。うん。リゼットをパーティに連れて来たのは、リュウのファインプレーだったな。




 僕たちは食事を十分に堪能したあと、テントの外に出た。


 さあ、そろそろ森の深部。


 いつセペンティアが姿を現しても不思議ではない。




☆☆☆


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