第26話 ギルドからの厚待遇

 サドリッジにおけるモンスターの殲滅作戦は終了した。 結果は大成功といっていいものだろう。


 僕たちはリバークロフトの街に戻ってきた。どうやら心配していたような被害は出ておらず、城壁の入り口付近で2・3組の冒険者パーティが戦闘に備えている以外は、普段と変わらぬ様子だ。


 街の中に入ると、人々は忙しそうに行き交い、商人たちが露店を開き、活気に満ちた市場の声が響いている。街の人たちは、あるいはモンスター襲来の危機さえ知らずに過ごすことができたのかも知れない。いつも通りの平和な日常に触れて、心が安堵で満たされていくのがわかった。


 まずは依頼結果の報告をしないといけない。受付のリディアのところへ行って、6日間の経緯を話した。とはいえ、目立ちたくないので、イレギュラーな魔法については触れていない。


「びっくりしたよ。思ったより畑に作物が残っていて、スティンバニーやアクティブラットが餌を求めて大量に住み着いていたんだ。僕たちはそれを片っ端から討伐しようと思ったんだけど、あまりにも数が多くて6日もかかっちゃった。」


 でももう、モンスターはあらかた片付いたよ。


 だいたいそんな説明になった。一応、ギルドから様子を確認に行くみたいだが、状況と証言がぴったりとあっているみたいで、疑う余地はなさそうだと言われた。今日の話と現地確認を踏まえて、後日それなりの報酬が用意されるだろう。


 僕たちはまだ元気で、街を守るためにやるべきことがあるなら、続けてギルドに協力できる旨を伝えた。作戦上のことはギルマスと話すのが早いということで、僕たちは応接室に通された。



 初めて入った部屋に興味深々であたりを見渡す。質素だが落ち着いた空間で、木製の家具が温かみを感じさせる。壁には古い地図や剣が飾られ、部屋の中央には大きなテーブルが置かれていた。


 僕たちは席に着き、なんとなく無言で時間をすごした。しばらくすると足音が聞こえ、ギルマスが部屋に入ってきた。


「みんな、お疲れさま。大体の報告をリディアから聞いたところだ。」


 ギルマスは静かに椅子に座ると、ゆっくりと口を開いた。出発の日に比べると、声もずいぶん落ち着いている。


「サドリッジでの仕事、見事だった。街はお前たちの働きに感謝しないといけないな。」


 結果として、スタンビートは起こらなかった。しかし、起こる可能性は十二分にあった。そうならなかったのは、大量の小型モンスターが飢えた時に起こす非常行動、通称「ヒステリックリバー」が生まれなかったからだという。


 そしてその要因は、事前に小型モンスターが大量討伐されたことに他ならない。誰がそれを成し遂げたのか不思議だったが、


「お前たちのおかげだったんだな。すべての合点がいった。本当にありがとう。

報酬もそうだが、現地確認の結果次第ではランクの昇格も楽しみにしてほしい。」


 ギルマスに頭を下げられるなんてむず痒い。それに昇格って言うけど、僕たちはこないだDランクになったばっかりなんだけどな。


 今後については、あと3日間、念のために街の警戒は続ける。今のところは順調に収束に向かっているので、おそらく今回の防衛依頼は3日後に解除されるだろう。だからしばらくはのんびりと疲れをとってくれ、だって。


「ただ念のため、防衛依頼が解除されるまではこの街にいてくれるとありがたい。

この街の宿屋に部屋をとっておこう。」


 なんか高ランク冒険者みたいな厚待遇だな。

 のんびりすごすって何をしていたらいいんだろう。



「ねえ。みんなで武器屋にいかない?」


 これまで僕は、武器や防具に無頓着だった。武器は父ちゃんに借りたナイフを今も使っている。冒険の初期はお金がなかったから。その後は、強化魔法を覚えたから。それに僕が肉弾戦を想定することはあんまりなかったからね。


「武器屋に用はねえな。プライベートでまでお前の顔見るのもキツいし、俺は飲みにでも行ってくるぜ。」


 確かにリュウのバスタードソードは、立派だ。実は以前に、彼の武器を揃えることがパーティ戦力の前提だって、みんなで買ったんだよね。多分、そのことはリュウも感謝していてくれている。今でも大事に使っているもんね。バスタードソードを買った後、リュウは自分でコツコツお金を貯めて、中古のプレートメイルとタワーシールドをどこかから仕入れてきた。うん。彼の装備は問題ないか。


 エマのルーンブレードとエレメンタルクロークは多分けっこう高価な代物だ。さすが貴族の出身だけあって、実家で揃えて出てきたんだろう。


 ってことは、課題があるのは僕とグレースか。


 グレースはいつからか木製メイスを使っているけど、ちょっと心もとないよね。魔法系の職業の僕たちは、武器が疎かになってしまっていた。


 結局、僕たちは2人で武器屋に行くことになった。


 実はリゼットもついて行きたいと申し出てくれたんだけど。エマがそれを止めて食事に誘っていた。


 女子会っていうのかな、メンバーの親睦が深まっていくのはいいことだ。



 さて、石畳を歩いていくと「ブラッドスミス」って武器屋がある。ここはとても評判がいい。重厚な木製扉を押すと、店内にギィってきしみ音が響く。そっと足を踏み入れると、剣や斧、弓といった武器が所狭しと並べられていた。棚に整然と並んでいるのは盾や鎧なんかの防具類か。どれもしっかりと磨き上げられている。


 僕のダガーはグレースが選んでくれた。


 金貨60枚もする切れ味抜群の鋼の武器だ。


 グレースにはこれ。


 シルバーメイス。


 お値段なんと、金貨130枚!


 僕が選んでプレゼントした。


 あとは、


 レザーアーマーとライトブーツが僕の防具。


 ホーリーローブはグレースに。


 最後にこのウッドランドジャケットはリゼットへのお土産だ。


 こんなに高価な買い物をするのは生まれて初めてだったけど、なんだか金額に酔っぱらっちゃうね。


 僕は早速、全部並べて本気のバフをかけた。


 僕の高揚感が伝わったのか、いつもの数倍の強化ができたと思う。それに効果期間も、多分これ、あと100年は続きそうだな。





☆☆☆


ご愛読ありがとうございます。

もしも面白いと思っていただければ、フォローや★評価を切にお願い申し上げます。


あなたのひと手間が作家にやりがいを与え、作家を育てます。


★評価のつけ方


①評価したい作品の目次ページに戻る。

②レビューのところに「⊕☆☆☆」←こんなのがあるので⊕を押して評価する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る