第25話 神々の現状分析と安寧の願い
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「リディア君、戦況はどうなっている?」
狭い執務室のなかで、ギルマスの声はいつも無駄に大きいです。
「概ね、良好みたいですよ。」
わたしは眼鏡の位置を直しながら、質問に答える。
街に向かってくるモンスターは、ほぼ、スモールベアとミドルベアの2種類だけ。それらが3・4体の小さな群れを作って、バラバラに攻めてくる程度。それぞれDランクとCランクのモンスターですから、今の街の防衛ラインならおつりがでます。
9組のCランクパーティに加えて、Bランクパーティが2組、要請に応えてくれたことは大きかったですね。
ギルドとしてはモンスターの大集団の襲撃、スタンビートを警戒していましたが、どうやら杞憂でした。
「しかし、ベア以外のモンスターはどこにいったんだ?」
「さあ、Dランクのみなさんが、がんばってくれているのではないですか。」
「それにしても飢えて獰猛になっている、しかもバラバラに行動している2000体近いモンスターを100人や200人で根こそぎ殲滅できるものでもないだろう。
彼らの仕事はあくまでも間引きだったのだが。」
「あ、Dランクといえば、あの方。
ジョエルさんが毎日パーティの討伐成果を報告に来てくれますね。
毎日、スティンバニーやアクティブラットなどDランクのモンスターを中心に5・6体くらい討伐してくれているようです。」
「彼はスピードに特化してるからな。
それでもこの6日で30匹程度ということだろう。」
「そうですね。あ、関係のない話ですけど、ジョエルさんのパーティ。
ミドルベアも1匹討伐したみたいで、この前、魔核を持ってきてくれましたよ。」
「魔核…?防衛依頼中にか?」
「よっぽど嬉しかったみたいですね。
ギルドとしては討伐依頼達成として処理してあげましたが、よかったですか?」
「問題ない。それで彼らがモチベーションを保てるなら。
達成報酬も払ってやったのか?」
「私の笑顔じゃ足りなかったですかね?」
「問題ない。」
確かに大量の小型モンスターがどこに身を潜めたのか、油断はできません。それでも肝心のベアの大半が討伐されて、もうほとんど残っていませんからね。いくら小型の彼らがこれから「ヒステリックリバー」を作ったところで、川に浮かべる船がなければ威力はガタ落ち、怖くはありませんね。
「Dランクパーティといえば、君のお気に入りの彼らの活躍はどうだ?」
「…ひゃ、ひゃい?アキラさんたちのことですか?」
「他にもお気に入りがいるのかね?」
「わ、私はそんなに尻軽ではありませんからっ!」
アキラさんたちがどこで活動しているのかは知りません。今回の防衛依頼が始まってから、一度もギルドに顔を出してくれてませんから。もしかしたら拠点を作って、街に戻らずに動いているのかもしれませんね。無理をしてなければいいのですが。
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「ずいぶんなことをしてくれたな。このネズミやろうが!」
「唐突にどうしたのです、河童の神様。私の名前はキオクです。」
「そんなことは知っておる!それより、あのとんでもないスキルのことじゃ!」
「【鼠の雫】がどうかしましたか?
河童神もアキラ君にはずいぶん肩入れされていたようでしたが。」
「あ、あれは…毎日祠を掃除してくれたささやかなお礼だ。
お前のぶっ壊れスキルとはわけが違うだろう!」
「僕の作った【鼠の雫】もささやかじゃないですか。
そもそも、ちゃんと説明しましたし、作成許可を出したのはあなたでしょ。」
「その、ささやかそうな名前と説明にだまされた!
もう1度、あのスキルの説明をしてみろ!」
「じゃあ、説明文を読みますよ。鼠の雫…。」
(通常のレベルアップが能力初期値の10%の成長を促すのに対して、【鼠の雫】所持者のレベルアップは、レベルアップ時の能力値の10%の成長を促す。
つまり、能力初期値100の人がレベル2になる時。能力値は10成長し、110になる。これは【鼠の雫】所持者も同じである。
しかし、彼らがレベル3になる時。通常の人は、さらに10の成長が見込まれ、能力は120になるだけである。それに対して【鼠の雫】所持者の場合、レベルアップ時の能力値110をベースにその10%、つまり11の成長が見込まれるため、能力値は121になる計算である。)
「ね。能力値が120になるところが121になるだけの、ささやかなスキルじゃないですか。」
「だからそれに騙されたんじゃ!
わしは実際に計算してみた。」
レベル3で121。レベル4では121+121×0.1で133.1。
レベル5なら133.1+133.1×0.1=146.41
レベル6で161.051。レベル7で177.1561。
レベル8で194.8717。レベル9で214.3589。
レベル10で235.7948…これがささやかじゃと?
「少しサービスがすぎんか?」
「そうですねぇ。…本来の成長ならレベル10で、能力値が190になるところ、約236まで成長しちゃいますか。ささやかというには少しサービスしすぎましたかね?」
「とぼけるな!
性能がぶっ壊れるのはここからじゃろうが!」
レベル20で約610 (本来は290)
レベル30で約1590 (本来は390)
レベル40で約4110 (本来は490)
レベル50で約10670 (本来は590)
レベル100で約125万2780 (本来は1090)
レベル200で…
「約15億7000万じゃぁぁぁぁあ!
本来は2090のところ、15億って!
1個体の強さを超えとるじゃろ!
どうすんの?どうすんの?これ!」
「ははは。バレちゃいましたか。」
「キオクめ!やっぱり確信犯か!
あのな、アキラ君は今の時点でもう、付与術とか関係なく、全ステータスが跳ね上がってきている。
そのうち手が付けられなくなるぞ!」
「なにせ、彼には強くなってもらわないと困るのです。」
「しかし、もしも彼がレベル400とか500になるような事態が起きたらどうする??」
「…へ?そんなまさか!
実績ベースですが、人間の最高到達レベルは200程度ですよ。」
「あのな、アキラはレベルという概念も、レベルの上げ方も知っている。
そして、考えてみろ!」
最も効率の良いレベルの上げ方っていうのは、自分のレベルより高いレベルのモンスターを倒すことじゃな。このスキルには、それができるんじゃ!レベルに対して能力値がぶっ壊れてるから、レベル100とか超えたらもう、どんなモンスター相手でも苦戦もせんわ!そうなったら経験値なんて、積もり放題。冷凍庫にでも入れとかんと腐っちまうくらいだな!
このスキルの本質は単にレベルアップ時の能力値増加が莫大ということだけではない。それによってレベリングの効率まで爆上がりするんじゃあ!その気になったら、どこまでレベルが上がるかわからんぞ!
「なるほど、そこまでは考えていませんでした。
するとどうなります?」
「いいか、レベル300なら24兆!レベル400で33京!
レベル500で45×10の20乗じゃあ!
存在していいエネルギー量じゃないだろ!」
「えええー!何ですかその数字は?
ヤバくないですか?」
「だからヤバいんだって!」
「アキラ君の魂が悪に染まらないことを祈りましょう…」
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