第24話 作られたヒーロー
重戦士のリュウは、本来なら小物の殲滅戦には向かない。
パワーと守備力は高いが、スピードがないので「追いかける」ということが苦手なのである。だから僕がグレースに授けた作戦はこうだ。僕たちがモンスターを討伐するふりをしながら、リュウのいる方向に誘導する。そこで、リュウがモンスターをなぎ倒す。リュウは自分にバフがかかっていることを知らないので、きっと自信を取り戻してくれる。
グレースに話すと露骨に面倒くさそうな顔をしたが、僕は頭を下げてお願いした。
僕たち2人が畑の中を縫ってモンスターを追いかける。追いかけながら誘導するのだが、これがなかなか難しい。スティンバニーもアクティブラットもてんで気ままに逃げ回る。予想外の方向に転換し、思い通りに動かない。気を抜くとすぐに蹴とばしてしまい、彼らは絶命する。
「なんでこいつら、こんなに素早いのよ。」
グレースはそう言いながら、とうとう腰をかがめて素手で誘導しはじめた。
上手くいかない。
失敗だ。
僕は反省して、作戦をかえた。お腹に力を入れ、視界に入るすべてのモンスターのスピードを下げるイメージをもってデバフを放った。実は、デバフ自体は少し前に使えるようになっていたんだ。だけど、使う機会がなかった。だって、デバフをかけるとモンスターの機能が低下して、討伐した後の素材まで劣化するんだよね。
今は街の命運をかけた防衛戦の最中とはいえ、異次元バッグで素材をいくらでも回収できるわけだから、やっぱり使いたい魔法じゃない。
でも、効果は絶大だった。
突然、スローモーションのように粘っこい動きになったウサギとネズミたちに、リュウの剣が猛威を振るい始める。
僕とグレースは「ふう」と息を吐く。僕は、ジェスチャーで後衛の2人にも援護が必要ないことを伝えて、汗を拭った。
こうなればリュウの独壇場だ。リュウは重戦士としての威厳を漂わせながら、剣を大きく振りかぶっては
「へやぁ!」
と勇ましい声を上げ、小動物を一撃で打ち砕いていく。その力強さは他を圧倒し、逃げ出そうとするモンスターが続出するが、誰もその剣から逃れることができない。モンスターは次々と薙ぎ払われ、見渡す限りにおいて、とうとうアクティブラットを1匹残すのみとなった。
「これでぇ、最後だっ!」
リュウは一層大きく剣を振りかぶる。そこから放たれる一撃はまさに圧巻だ。剛力の宿る大剣が陽を反射し、振り下ろされた瞬間は閃光が走ったかと見間違うほどとかそんな感じだった。そして最後のネズミ駆除に成功した。
後衛の2人が、離れた場所から大きな喝采を送った。
よーし!どさくさに紛れて、野菜をたくさん収穫できたぞ。次は、っと
僕は焼き払った畑の代わりに、残りの畑をいくつか選んでバフして回る。植物は、根がはっていて少しでも葉が残っているくらいの状態なら、1日で元気になってくれた。実りをたわわにつけてくれる。その実りを求めて、連日、何百というウサギとネズミが集まった。
それをまた討伐する。
こんなに順調に討伐が進むとは思わなかった。
それに、連日の何百匹というモンスターの討伐に、僕のレベルはどんどん上がっていると思う。そんな実感があった。
そういえば終ぞバトルワームを見ることはなかった。あいつらは地中を移動できるので、森から逃げる必要がないのかもしれない。もしくは、セペンティアにとって美味しい餌ではないのかもしれないな。どう見てもまずそうだもんね。
§
「へいやぁ!」
「ほわぁっ!」
俺たちがこの地に着て、今日で6日目だ。俺はこの剣技で、毎日毎日モンスターを死骸の山に変えている。だが、これもそろそろ終わりだ。今日は目に見えてモンスターが少ない。目的通り、あらかた狩りつくしたのだろう。
これだけの数のDランクモンスターを圧倒できるDランク冒険者など他におるまい。しかも俺はDランクになったばかりだ。スティンバニーは頭部に鋭い角を持ち、その武器を最大限に生かす突進力を備えている。アクティブラットはとにかく素早い。集団行動を旨とし、気を抜けば体中を嚙み千切られるだろう。
「おぉい、リュウ!そっちに行ったよぉ。」
ちっ!
ちょっとはお前たちも役に立て!だが、今俺の調子は最高だ。初日は確かに不覚を取った。疲れがたまっていたのだろう。しかし、翌日からは本来の実力を取り戻した。今や、こいつらがスローモーションに見えるくらいだ。
へいやっ!
どうだ、アキラ。俺はお前のバフなんて必要としていない。そんなものがなくても、俺の身体の中から力が沸き上がる。お前らが俺を頼りたくなるのもわかるぞー!
うん。わかるぞぉ。
でも最近それが露骨すぎないか。
お前ら4人固まって井戸端会議をしてるだけじゃねえか。
それと野菜の収穫か。
ん?慌ててるな。
何かあったのか。
なるほど、アキラの足にスティンバニーが突っ込んだみたいだ。
おい、スティンバニー、なんでお前が倒れる。
もう少しがんばってくれたら、俺がお前を華麗に両断してやったものを。
って、あれ?
グレース、何してんの?
スティンバニーに回復魔法かけてねえ?
って、そんなわけねえか。
アキラには回復魔法かけたくねえって意思表示だったりして。
ぷっ!
おい、エマ。
そのスティンバニーをこっちに追いやってどうする。
リゼットまで!
登校するわが子を見送るようにスティンバニーに笑顔で手を振るな!
お前らなぁ!
わかってるよ。
しょうがねえなあ。
そんなに俺の華麗な剣筋が見たいのかぁ!
「これでぇ、最後だあっ!」
また1つ、俺の剣が強敵を骸に変えた…。
「りーだーおつかれさまあ。」
「さすがだね。けんがいきいきしていたよ。」
「そうだろう。そうだろう。」
さあ、お前ら、飯くらいは旨いもん作ってんだろうな。
今日はゆっくり休んで、明日は街にご帰還だ!
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