第23話 パーティの総力と野菜畑

「さあ、リゼットの弔い合戦だぁぁ!」


リュウの声が響く。


「おぉ!」


僕たちが応じる。


「…ちょっとぉ、ボク死んでないんだけど!」



 昨日、リュウが両手に抱えて持って帰ってきたのはスティンバニーではなかった。食べるわけにもいかないので、とりあえずリゼットは回復させて、僕たちは干し肉とパン、畑の野菜を使ったスープで食事をとった。


「んふぁ!ボク扱いの雑すぎない?」


 プリプリと文句を言いながら、リゼットが一番たくさん食べた。


 リュウたちが戻ってきた新しい拠点には、異次元バッグで運んだ調理器具に食器類、それにふかふかの布団まで人数分用意されてあった。これには、さすがにリュウも怪しんだ。


「ふふふ。運ぶの大変だったのよ。」


「でも、リュウが連れて来てくれた荷物運びもいたからな。」


 グレースとエマがそういうと、それだけでリュウは納得して機嫌が良くなったようだった。


 昨日はリュウもエマも調子が悪すぎたのだという。


 リゼットだけは、こんなに調子が良かったのは初めてだったと、生まれ変わったクロスボウの性能にホクホクしていた。


「お前、そのあと死にかけたじゃねえか。」


 リゼットに対するものとしては、リュウのツッコミが少しきつい。


 リゼットが遠目からクロスボウで狙撃して、2人が切りかかる。セオリックな作戦で挑んだみたいだけど、失敗は距離感だったんだって。リゼットの矢はモンスターを何匹か射抜いたけど、肝心の2人は不調で身体が重い。何度も獲物を打ち漏らし、子どもの鬼ごっこのような無様な戦いになってしまった。次第にモンスターは落ち着きを取り戻し、リゼットが襲われた。


 こんなはずではなかった。位置関係には気を使っていたつもりだった。が、その日のコンディションでは、リゼットの襲われている場所までが思った以上に遠く、護れなかった。エマは悔やんでいた。


「…やっぱりアキラがいないと調子が出ないな。」


 エマは儚げに僕を見つめてそういった。


 いや、違う意味に聞こえるよ。バフの話でしょ!まぁ、あんまりバフを褒められてもリュウが良い顔をしないから、別にいいんだけどね。


「アキラは関係ないだろ!」


 やっぱりリュウが怒った。ちゃんとバフの話だって伝わってたみたいだ。




 今日、改めて村のはずれの農地にやってきて驚いた。いくつかの畑は、その部分だけ緑の絨毯が敷かれたように色鮮やかで、瑞々しい香りまで漂ってくる。よく見るとたわわに実った野菜たちが誇らしげに顔を出していた。もちろん僕が昨日、おまじないをかけた畑だ。


 モンスターたちの数も昨日とは段違いだ。どうやら作戦は大成功のようである。それはさて置きこの野菜、後でチャンスがあれば少しでも収穫しておこう!


「さあ、今日は昨日の汚名返上が必要だな。」


 エマがはりきっている。


「おい、アキラ。今日は俺にはバフなしだ。

 そんなもんがなくても今日の俺は絶好調だ。」


 昨日の汚名を返上したいのはリュウも同じ気持ちだ。


「ん。わかった。

 気を付けてね。」


 僕の心配の言葉が気に障ったらしい。僕をキッと睨んだ。だけどごめんね。バフはとっくにかけ終わっているんだ。


「じゃあ、リゼットはここからクロスボウを撃ちまくろうか。」


「んふぁ?さすがにこれは遠すぎるよ!」


 普通ならそうだろう。こんなに離れていたら、昨日のようにモンスターの的になったとき、いくら絶好調な今日のメンバーでも助けに入るのは難しい。というよりも、そもそもリゼットの矢が届きそうにない。でも、リゼットにもバフはかけてある。


「大丈夫だって。今日のリュウは頼りになるから。」


 そういうとリュウは深く考えもせず


「おうよ!」


 って返しちゃう。そういうところなんだけどな。ともあれ、リーダーの許しが出そうなので、本当の作戦を伝える。


「今日のエマは魔法中心で行こう。これだけの数のモンスターだ。そっちのほうが効率がいい。」


 まずはここからエマが魔法で先制して、さらにリゼットのクロスボウで削れるだけ削る。そこに今日は僕とグレースも前衛として、リュウと一緒に敵に飛び込む。後は、僕たちがメインで戦い、遠くから無理なのない範囲での支援を2人に任せる。こんな感じで行こうと思う。この位置取りなら、エマにはリゼットの守りも兼ねてもらうことができる。


 この作戦の肝はもう一つある。僕はそれをグレースに耳打ちした。


「じゃあエマ、畑は焼き払っちゃうつもりでいいからね。

 派手な魔法を頼むよ。」


 ちなみに僕はバフのかけ方も少し器用になってきていて、今日のエマには魔法力を特に強化する感じでバフしている。


 エマは眼前に広がるモンスター群を見据え、深く息を吸い込んだ。じっくり時間をかけていい。やがてエマの周囲の空気が微かに震え始める。彼女は眼を閉じ、心の奥深くにある魔法の源に意識を向けた。するとエマの身体は力強い光に包まれた。


 その様子を見て、僕たちはそっとモンスターに近づき始める。程よい場所までたどり着いたころ、エマが放った魔法が僕たちを追い抜かした。発光するその魔法は青白い虎の姿になり、めっっっっちゃ!かっこよかった!


 光の虎はそのまま目の前の畑に着弾し、その一帯から、何もかもを吹き飛ばした。


 生き残ったモンスターが驚き、ちりじりに逃げようとする。そこにリゼットの矢がいくつも飛んできて、面白いようにモンスターを射抜いた。予想外の威力に僕たちの役割がなくなった。僕たちは急きょ襲撃する場所をかえた。緑に茂る畑が、近くにもう1枚ある。そこへ飛び込んだ。



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