第38話 領主からの呼び出しとSランク
道中、街並みが次第に開け、緑豊かな領地が広がり始めた。やがて遠くに荘厳な屋敷が見えてくる。ロックウェル伯爵の豪邸は、まるで歴史そのものを映し出すかのように堂々とした姿を誇っていた。
馬車は屋敷の正面に到着し、僕たちは静かに降りた。重厚な扉がゆっくりと開かれ、執事が恭しく出迎えてくれる。広々とした玄関ホールには豪華なシャンデリアが輝き、床にはふかふかの絨毯が敷かれている。
「んふぁー!すごいね、すごいね。」
「ほんと、こんなお屋敷初めて見たわ!」
リゼットとグレースがはしゃいでいる。エマはそんな2人の様子を微笑ましく眺めていた。
「ちっ、儲けてやがる。」
リュウが毒づく。
広々とした廊下を進み、僕たちは突き当りのドアの前にやってきた。執事が静かにノックをする。ドアが開くと、その奥には白髭を蓄えた老人が立っていた。
伯爵は貴族らしい品格を漂わせながら、僕たちを迎え入れる。彼に勧められ、僕たちは席に着いた。ロックウェル伯爵は自身も席に着き、静かに口を開いた。
「活躍は聞いている。まずは領主としてお礼が言いたい。」
「そ、そんな!とんでもない。
僕たちの冒険が、たまたま街の役に立ったのなら僕たちも嬉しいです。」
「ヴァルディアの森の異変に関しては、私も苦慮しておったのだ。見事に解決してくれて感謝に堪えない。しかも、魔王と一戦を交えるという危険この上ない経験を生き残ったと聞く。もっと胸をはるがいい。」
「やっぱり、魔王はいるのでしょうか?」
「ん?君たち自身が出会ったのだろう?それこそが魔王に相違ない。そして奴は今もこの世のどこかで、人類に仇名すことを企んでおる。」
やはり上流階級の間では、魔王の存在は知れ渡っているようだ。
「それはさて置きじゃ、お主たちにとって素晴らしい提案がある。」
私から国王に、お主たちをSランク冒険者として推薦しようと思うのだ。Sランクになればお主たちの身分は子爵と同格になる。どうじゃ、貴族になれるのだぞ。
「エ、Sランクだと…!俺たちが貴族に!」
リュウが言葉を失う。残りのメンバーも沸き立った。
ただし、Sランクになれば相応の義務も生じるようだ。今までのように自由は享受できない。SランクとはAランクの先にあるのではなく、少し異質な存在であるようだ。
国防に関して国からの命令があれば、僕たちは自らの意思に関わらず、国のために戦わなければならない。相手はモンスターとは限らない。他国を相手にした戦争や内紛の鎮圧なども仕事に含まれる。とはいえ、今はそんな兆しは皆無だから心配ないということだ。
今、気を付けなければいけないのは守秘義務くらいのものだ。今回のヴァルディアでの出来事も口外しないように気をつけなければならない。
「そんなに難しく考えることはない。」
君たちが国の一部になれるということじゃよ。そうなれば万が一の時、民の生命を守るために戦うのは当然だろう。君たちにも守りたいものがあるはずだ。かといって、そんなに身構えなくてもいい。君たちの命を危険にさらすような命令が出たりはしない。単に心構えの問題だ。こんなに名誉なことはない。
伯爵は顔をくしゃくしゃにして、さも嬉しそうに説明を続ける。
国から多大な月次報酬と活動費が貰える。単に金額の問題ではない。それだけ国に必要とされているということだ。もちろん自分たちで得た収入は自分たちのものである。しかも、冒険者を引退した後も生涯にわたり年金が受給できるという。
いたせり尽くせりだ。
冒険者になりたくて村を出てきたあの日の僕に伝えてやりたい。飛び上がって喜ぶことだろう。君はこれからたった1年と半年で、それだけの冒険者になる。そしたら、家族を、むしろ育った村を丸ごと支えていくことだってできるんだ。そして君自身は貴族として、村のみんなの誇りになれるだろう。
伯爵は僕たちに返事を求めた。
みんなと顔を見合わせる必要もない。こんなの答えは決まっている。きっと僕が代表して答えても文句は言われないだろう。僕たちの思いは1つである。
「素晴らしいお話、本当にありがとうございます。
だけどこの話…、
お断りします!」
「な、なんと…。なぜじゃ?そうそうある話じゃない。
きっと後悔するぞ?」
伯爵の顔から笑顔が消え、困惑と嫌悪が浮かび上がっている。
「いいえ。きっと後悔はしません。
僕たちのパーティ、エヴォルブハーツにSランクは少し窮屈なようです。」
「お前は、自分がSランクに収まりきらない器だと妄言するのか!」
「僕がではありません。僕たちがです。
僕たちは自由を愛する、ただの自分勝手な冒険者なので。本当に申し訳ありません!」
「申し訳ありません!」
グレースが僕に続いて頭を下げてくれた。だけど顔は晴れ晴れしている。
「申し訳ありませんが、それが私たちの思いです。」
「んふぁ。怒らないでください!」
エマもリゼットも快活に頭を下げる。
そんなメンバーの様子を見て、リュウはバツが悪そうに慌てて頭を下げた。
僕たちはこんなに生きている。そんなことが実感された。これが多分、僕たちの冒険者魂ってやつだ。
僕たちは気まずくなって食事を辞退した。だけど送迎まで断るのは逆に失礼な気がして、帰りも豪華な馬車で送ってもらった。
そして馬車から降りて、宿に入ったとたん、お互いに顔を見合わせて噴き出した。冒険者って楽しい。
☆☆☆
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