第39話 向き合う予感

 僕たちは旅立ちを3日後に控え、久しぶりにエンダーヴィルに帰ってきた。

僕とリュウにとっては帰ってきた、なんだけど、他のメンバーにとったら初めての村ってことになる。


 僕にとっては見慣れた景色。高くそびえる山々。済んだ川。だけどこの景色もしばらく見納めだな。寂しさが不意に胸に浮かんだ。


 僕は実家にメンバーを連れていき、父ちゃんと母ちゃんに紹介した。もちろんリュウのことは父ちゃんも母ちゃんも小さい時からよく知っている。残りのメンバーのこともすっかり気に入ってくれたみたいだ。僕の家で昼ご飯を食べる。この味もまた、懐かしく思い出すことがあるのだろう。


「父ちゃん、母ちゃん。

 僕、この村を出て、旅立つことにしたよ。」


「冒険者になったんだから、当たり前だな。

 長い道のりになるのかもしれないが、何があっても自分を見失うな。

 お前は俺たちの自慢の息子だ。」


父ちゃんが柄にもないことを言って僕を励ましてくれた。


「ここに帰る場所があることを忘れちゃいけないよ。

 困ったときはいつでも戻ってきていいんだからね。」


 母ちゃんは目に涙を溜めていた。



 リュウも自分の家にあいさつに戻った。友達なんか連れて行くと父ちゃんがびっくりするというので、僕たちは遠慮することにした。リュウの父ちゃん、いい人なんだけど人見知りなんだよな。


 リュウが家に戻っている間、僕たちは村中の畑を回った。もちろん豊作のバフをかけるためだ。


 途中、馴染みの老夫婦が畑で仕事をしていた。もうすぐ旅立つことを告げると、今採れたばかりの野菜をプレゼントしてくれた。


 この村にはこの村の時間がゆっくりと流れている。人と自然が美しく根付き、大地が優しく包み込んでいる。僕はしばらくこの地を離れるけど、いつまでもこの村の一員であり続けたいと思う。


 僕たちの冒険は、世界中に在る、こんな平和な時間を守るためのものだ。この美しい光景が理不尽に踏みにじられることがないよう、無理せず楽せず、出会ったものを助けていこう!




 今夜、リュウはこのまま自宅で寝るみたいなので、それ以外のメンバーは僕の家に泊まることになった。


 僕は夕飯のとき、用意していた村のみんなへのプレゼントを父ちゃんに預けた。異次元庫と化した水瓶だ。一応、僕の能力ってことは秘密にして、たまたま手に入ったアイテムだと渡した。


 これがあれば農家の営みにも生かせるって学んだから、どうしてもプレゼントしたかったんだよね。村の倉庫にでも置いておいて、念のため、村人以外には存在を隠すように言っておいた。そして、中にはたっぷりのスティンバニーの精肉。それから街で買ったエールを樽ごと3つ入れてある。今度の収穫祭にでもみんなで楽しんでって粋な言葉を添えておいた。


 その晩、僕は寝つけずにいた。家の外に出て、芝生の丘に寝っ転がると星空が瞬いている。




§




「あら。こんな夜中にどこにいくのかしら。」


 アキラが部屋から出ていくのに気づいた私は、思わず呟いた。


「んふぁあぁぁ。トイレじゃない?」


「旅立ちを控えて思うところがあるのかもしれないな。」


「あら。2人とも起きてたのね。」


 ここから女子会が始まった。



「ねえ、ねえ。どんな旅になるのかなぁ。

 すごく楽しみではあるんだけど、アキラとリュウの仲が気にならない?」


「ほんとにな。リュウはなぜあんなにアキラを邪険にするんだ?」


「んふぁ。足手まといってよく言うけど、それならボクのほうが足手まといだし。」


 確かにリュウはアキラに対して、よく実力不足とか足手まといって言うけど、ホントにそう思ってるのかしら。少なくとも、アキラが本当に弱かった時代、リュウはアキラを邪険にすることはなかった。


「ねえ、実は私、リュウを看病してた時にずっと言われてたんだ。アキラの実力じゃ俺たちの旅について来れない、とか、あいつはインチキ野郎だとか。

 そんなことないって説明しようとしたんだけど、熱にうなされてる様な状態で、私の言葉には全然耳を貸してくれなくて。」


「うん。私にもそんなふうだったな。アキラがもしもパーティを出て行ったら、どっちを選ぶんだって問い詰められた。リュウはアキラをパーティから追い出したいと思っている。」


 エマにはそんなことまで言っていたのか。暗い気持ちになる。


「んふぁ。実は今だから言うんだけど、ボクがパーティに誘われたとき、『もうすぐ1人やめる奴がいる。そいつの代わりにパーティに入れてやる。』って、言われてたんだ。」


 そう言えばリゼットの加入はリュウが突然言い出したもんね。そんなに前から、アキラの追放を考えていたとは知らなかったよ。


「もしもボクのせいでパーティに迷惑をかけているならごめんね。」


「そんなことは、一切ない。

 逆にごたごたに巻き込んで、リゼットには申し訳ないと思っている。」


 本当にそうだ。リゼットは全然悪くないよ。


「ねえ、もしもリュウが本気でアキラを追放って言いだしたらどうする?」


「根が悪い奴でないことはわかっているが、一線を越えた時は私はリュウについていくつもりはない。もしも彼の強権でアキラが追い出されたら、私はパーティを抜ける。」


 そのときは、私もそうする。そうしたらエマ!私たちでもう1回パーティを組もう。きっとアキラも参加してくれるよ。


「んふぁ。そんなことになったらボク困っちゃうな。」


「リゼットはリュウをどう思っているんだ?」


「ボクはリュウに拾ってもらってこのパーティに入れたからね。そのことには感謝してるし、恩を返したいと思ってる。だから、リュウにはみんなと仲良くしてほしいな。」


 そっか。そりゃ、そうだよね。私もこのままみんなで旅をしたい。


「しかし、考えたくはないが、もしもパーティがバラバラになる時が来たら。そのときは、リゼットはリュウと旅を続けるつもりか?」


「んふぁ?ボクだって冒険者だよ。義理はあるけど、それはその時まで。いよいよとなったら、自分にとってどっちが得かくらいは自分で見極めるよ。アキラのバフは捨てられない。」


 リゼットがニカッと笑う。


「あははっ!結構ドライなのね。」


「命がかかっているんだから、当然!」


 リゼットは鼻息荒くキッパリと言った。


「もしもリュウがアキラを追放するって言いだしたら、私たちはどうやって止めるのがいいだろうか。」


「いいんじゃない?止めなくて。そんなの問題を先送りにするだけだと思う。

 どの道、なるようにしかならないよ。

 だから、リュウとアキラは、一度正面から向き合わないといけない。」


「なるほどな。しかし2人が向き合って、うまく嚙み合うのか?」


「噛み合わないだろうね。特にアキラは、人と向き合うって苦手なんだと思う。だから、場合によっては…自分からパーティを抜けるって言いだすかもね。」


「んふぁ。それは困るなぁ…。」




 ・・・正面から向き合うべき、か。

 


 私も人のこと言えないな。




☆☆☆



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