第37話 ギルドからの呼び出しとAランク
今日はギルドから呼び出しを受けてやってきた。なんだか久しぶりにやってきた気がする。ちなみにメンバーは、グレースとリゼット、そして僕だ。
用事が何なのか事前には聞いていないんだけど、ヴァルディアの森の情報なら知りたいなと思っている。黒の瘴気は完全になくなったのだろうか。モンスターの様子はどうだろう。
「よく来てくれたな、お前たち。」
この応接室も何度目だろうか。いつものようにリディアを横に座らせて、ギルマスが話し始める。
「今日は話が3つある。」
1つは、先日受けたヴァルディアの森についての報告を、ギルドは改めて真実だと認定したということ。あれからギルドでも現地調査を行った。森は今、平和そのもので、調査隊が大型のモンスターに出くわすことはなかったという。小型モンスターや野生動物が密やかに暮らしている普通の森になっていた。僕たちの素晴らしい功績だと、ギルマスは興奮気味に言ってくれた。
調査隊は僕たちの報告に沿って森を移動してみたが、報告に齟齬はなかったようだ。確かに岸壁地帯はあり、広い洞窟も見つかった。洞窟内に瘴気は感じられず、むしろ閉鎖空間には似つかわしくない清々しさを感じた、という。【霧の結晶】の恩恵なのであろう。
洞窟からすぐのところには、報告にない地形の変化があった。森がえぐられ、1本道のように地肌が剥き出しになっている箇所があったのだ。魔王の仕業かもしれない。もしもそうであるなら、やはり魔王はまだ生きているということだ。ギルマスはそう話を締めくくった。いや…それ、エマの魔法の跡です…。僕は口を噤む。
2つ目に、今回その調査結果を受けて、なんと僕たちエヴォルブハーツはAランクパーティに認定されたという。あまりにもトントン拍子だが、僕たちはとうとうここまで来た。この決定に文句をいう冒険者はいない。僕たちはすでにこの街の英雄だという。
「んふぁ!ボクたちがAランクの仲間入りですか??すごいです!」
リゼットは興奮している。確かにすごい。僕たちは、冒険者になってまだ1年半だ。だけど考えてみると、リゼットには勝てない。だって彼女はつい最近成人になって僕たちのパーティに加入したんだ。たった半年でAランクだもんね。きっと出世のスピード記録保持者になったことだろう。
「仲間入りかぁ。他のAランク冒険者に会ったことはないけどね。」
グレースが笑う。それもそうだ。こんな田舎にAランクパーティがやってくる機会なんてほとんどない。僕たちは今、見たこともないものの仲間になったそうだ。嬉しい気持ちもあるけど、とんとん拍子過ぎてあまり現実感がない。でも、早く宿に戻って、エマとリュウに伝えてやりたい。そんな思いは頭をよぎった。
視線を感じてふと見ると、リディアと目が合った。リディアはニコッと笑顔を見せてくれ、その瞳でおめでとうと言った。なんだか役得だ。
さて、3つ目。実は、この街の領主様が僕たちに会いたがっているそうだ。ちなみにこの街、リバークロフトを治めている領主は、エドワード=ロックウェル伯爵というやり手の爺さんだと聞いている。
「最近のお前たちの活躍が耳に入ったようでな。要件についてはわからない。」
ともあれ、僕たちは宿に戻った。最近はリュウの体調も良くなってきた。今もベッドを椅子にして腰を掛け、エマになにかを話しているところだった。ただ、毎日何かに苛ついている。
僕たちは今、ギルドから受けたばかりの報告を早速2人に伝えた。意外にもエマは、涙を流して喜んだ。貴族出身で、家を出てきたエマにとっては万感の思いがあるのかもしれない。
「そうか。とうとう私たちがAランクか!いや、「とうとう」と表現するにはあまりにも順調だったな。夢のような気分だよ。アキラ、お前のおかげだ。本当にありがとう!」
「ちょっと待てよ、エマ!アキラのおかげってどういうことだ?」
リュウにはAランクになった喜びよりもやっかみが勝るらしい。病み上がりの少しこけた陰りのある顔に、怒りの表情を貼り付けた。
「まあまあ、言葉のあやじゃないか。
このパーティ1人1人のおかげであることはエマもわかっているよ。」
「その1人1人にお前は入っているのか?
偉くなったもんだな、アキラ!」
Aランクに昇格した喜びは、すっかり白けてしまった。僕とリュウ以外の3人は何か言いたそうに、だけど何を言っていいのかわからないふうに、暗い顔をしている。
しかたがない。Aランクを祝い喜びを分かち合うのは、気持ちが落ち着くまでおいておこう。
僕は次に、エドワード=ロックウェル伯爵からの招待についても報告した。早速、明日招待に応えるつもりであることはギルマスに伝えてきた。
「どういうつもりか知らないが、俺も行くぜ!」
どういうつもりも何も、別にリュウをのけ者にしようなんて意図はない。伯爵を待たせるわけにはいかないので、直近の日程である明日を選んだだけだ。リュウが行けるなら、それは嬉しいことだ。久しぶりにパーティ全員で行動できる。
次の日、朝起きると驚いた。
宿の前に、立派な馬車がすでに待機していたのだ。
☆☆☆
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