第36話 村人たちの感謝

 僕たちは今、サドリッジにいる。


 数日間のんびりとすごしていたけど、なんとなく気になったので復興の様子を見に来たんだ。村人の大半がすでに戻り住んでいる。


 今日の看病係はグレース。

 宿でリョウを見てくれている。

 だから、今日のメンバーは僕とエマとリゼットだ。


 村の長老はゆっくりと僕たちに近づき、深く頭を下げた。


「ありがとう。あなたのおかげで村は再び希望を取り戻しました。」


 その目には涙が光り、言葉は詰まっていた。僕たちはその言葉を聞いただけでもがんばってよかったなって思えた。


「これからもモンスターの脅威に負けずに、あなたがたが取り戻してくれた畑を耕して生きていきます。きっとご先祖もそれを願っていますから。」


「あ、その脅威って話なんですけど…。当分、モンスターは大丈夫だと思いますよ。森のモンスターはやっつけちゃいましたから。」


 安心してもらうために、僕はあっけらかんという。


「な、なんと…。」


 村人たちは言葉を失った。

 その場にいた村人たちはみな涙を流し、中には僕たちを拝むものまでいた。



 僕たちは畑に案内された。荒れ放題だった土はふかふかに耕され、畝が整然と走っている。美しい光景だ。


 村人たちに促され、改めてよく見てみる。


「芽が出てる!」


 僕はびっくりした。


 長老は嬉しそうに呟く。


「そうです。少し時期は逃しましたが、何もせぬよりはと思い種を撒いたのです。そしたらあっという間に芽が出てきまして。こんなに生命力に溢れた立派な芽を見るのは初めてですじゃ。」


 太くて力強い新しい生命が、勢いよく大地を突き破り伸びている。豊かな土の香りが漂い、村人たちの笑顔があふれていた。この村の未来はきっと明るいものになる。僕たちの胸は、希望と達成感で満たされた。


「みなさま、私たちの村を救っていただいた恩を言葉だけで返すことはできません。」


 今夜、ささやかながら宴を開かせていただきます。私たちの感謝の気持ちと、心ばかりのもてなしを受け取っていただけませんか。老人がそう言ってくれたので、お言葉に甘えることにした。


 日はまだ高い。


 村人たちは宴の準備をしている。僕たちは驚いた。彼らは倉庫からなけなしの食料を運び出し、料理しようとしている。


「酒も少しはあります。」


 村人はニカッと笑う。


 差し出がましいようですが、と長老に断りを入れ、僕は異次元バッグから食料を取り出した。もとはと言えば、この村の畑で採れた瑞々しい野菜たち。そしてスティンバニーの精肉である。


「よかったらこれを料理してもらえませんか。余った分は倉庫に保管しておいてください。お酒は持っていませんので、この村のものを遠慮なくいただきますね。」


 僕がそういうと、様子を見ていた村人たちが歓声をあげる。


「これはかたじけない。

 お礼のつもりが、なんと言ってよいのか。


 ところで、今、食べ物はどこから出てきたのですか?」


 僕は異次元バッグを見せて、その説明した。


「な、なんと…。そんなものが…。」


 そんなバッグがあるのであれば、農家にとっては垂涎ものだ。そんなに簡単に他人に話したりせず、大切にしまっておきなさい。


 長老の口調が、いつの間にか孫を諭すようになっていて温かい。 


「このバッグが農業に使えますか?」


 僕の質問に長老が答える。例えば、収穫物の倉庫として使えば、1年中新鮮な農作物が食べられる。豊作の年に多くを貯め込み、不作の年には貯えをかじることで飢え死にもなくなるだろう。農作物を売ってお金に変えたいときも、運搬のコストやリスクが大幅に減らせる。老人はいろんな使い道を考えながら、少しずつ言葉にした。


 聞いてみるとなるほどだ。


 考えてみればわかることである。僕は、そんなに羨ましがられるアイテムを無邪気に見せびらかしてしまった。反省しないといけない。


「そうだ!じゃあ、この村に1つプレゼントしますよ!」


「え?」


 老人は驚いていたが、僕は食糧倉庫の隅に放置されていた瓶を異次元庫に変えた。


「うん。もう1つ!」


 今度は、倉庫の棚の上に捨て置かれて使われていない木箱が異次元庫になる。


 こっちの木箱は、中の空間を僕のバッグとつなげておきました。もしお困りのときがありましたら、僕に連絡をください。例え遠くにいても、すぐに食料を届けることができます。


「そんなことまで。ありがとう。ありがとう。」


 老人は僕の手を両手で力強く握りながら、何度も何度もお礼を言った。


 


 夜になり宴が始まった。


「美味しい!!」


 エマがほうばっているのは、スティンバニーのローストと根菜のグリルである。


「んふぁ!こんな料理もあるんだ。」


 リゼットはスティンバニーのシチューに感動している。


 そこに村の長老がやってきた。


「昼間は本当にありがとうございました。」


 村のものとも話し合った結果だが、僕にお礼がしたいという。


「そんな、お礼なんて。この宴で十分ですよ。」

 断ろうとしたが、老人は真剣な目でいう。


 昼間作った、僕のバッグとつながった木箱。


 あの木箱を通して、この村で採れた農作物を半永久的に僕たちに進呈したいという。


「ちょうど昼に見ていただいた畑ですが、実はあの畑の持ち主はもうこの世にいません。耕し手のなくなった畑ですが、村人が手を出し合い、なんとか収穫が望めるようになったのです。あの畑をこれからは【エヴォルブハーツの畑】と呼び、あそこで採れた野菜はすべて進呈しましょう。」


 簡単に言うが、昼見た限りでは広大な土地であったように思う。僕たちだけで、そんなにたくさんの量は食べられないと伝えたが、異次元バッグさえあればかさばって困ることもないじゃろと笑われてしまった。


 どうしようかと迷ったが、この村の野菜は本当に美味しい。その誘惑もあったし、僕たちのこれからの旅を考えると、実はすごく有意義な気もしてきた。


 村人には深く感謝の意を伝え、有難くいただくことにした。




☆☆☆



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