第3話 …へ?そのスキルでいいの?

「さあ神様!俺に向いた職業を教えてください!」


 リュウの顔が期待で紅潮している。神様は僕の時と同じように、リュウの前にカードを浮かべた。


【木こり】【斧使い】【重戦士】【農夫】【漁師】


 今度は5枚のカードが現れた。ちなみに彼の父親は腕利きの【木こり】なので、上位に【木こり】と【斧使い】が現れたことは、なるほど説得力だった。戦闘系は【斧使い】と【重戦士】か。もちろんどちらかを選ぶだろう。


 リュウを見ると、あからさまにがっかりしている。


「え?これだけ?もうちょっとレアな職業はないの?」


 すでに敬語も忘れている。相手は神様だよ。


「これって、河童の神様じゃなくて、普通に教会の神様から儀式を受けたらどうなっていたの?」


 まるで余計なことをされたかのように、リュウが口を尖らせる。


「この5つの職業のどれかが、ランダムにお前の職業になっていたわい。」


「つまり、神様はお礼だ、プレゼントだと言ってるけど、特別な職業を用意してくれたわけじゃないんだ。ただ自分で選べるだけで、選択肢が変わらないならメリットなんてないよね…。」


 僕にはリュウの言葉の意味がわからない。ランダムだったら、彼が冒険者になれる確率はたったの40%だ。戦闘職を自分で選べる今の状況は、計り知れないメリットだろう。少なくとも、デメリットがまるでない上で、自分で選択できるんだから。


「しかたない。重戦士だ…。」


「しかたないじゃと…。


 まあいい。お前は今日から重戦士じゃ。

 さて、次は能力初期値じゃな。…【20】か。

 これは高い!なかなかすごい数字が出たのう!」


 ああ、そうか。リュウの強さは僕の2倍もあって、この差は多分一生埋まることはない、っと。人間とは面白いもので、気にしていなかったはずでも無性に悔しさが込み上げてきた。だけど、この感情が露見することは、さらに悔しく思えて、僕は努めて平静を装う。


 リュウのほうを見やると、これまた人間とは面白いもので、すでに機嫌が直っている。これからモンスターと戦ったり、すごいライバルが立ちはだかったりするのだろう。そんな時に、傍にいる僕より自分が強いことなんて、なんの意味も持たない。それでも数値にはっきり表れる能力差は快感なのだろう。彼はその感情を隠すつもりなど少しもないようで、にんまり顔のまま僕のほうをチラと見た。


「じゃあ次はスキルの説明じゃ。お前たちも聞いたことぐらいはあるじゃろ?」


 世の中に、スキルと呼ばれる便利な力に目覚めた人がいることは知っている。だが、神様がいうには少し違っていた。まず、スキルというのは職業と一緒にすべての人が授かるものらしい。ただし、職業とは違って、スキルは秘密のプレゼント。スキルに気づかないまま生涯を終える人も多い。また、職業から固有のスキルが派生するなど、成人後に2つ目以降のスキルが発現することも普通にあるらしい。 

 

 ただ、この最初のプレゼントスキルは本人の才能とあまり関係なく、与える側の神の手持ちによるという。このスキルも選択肢の中から自由に選ばせてくれるという。この教会のぐうたらな神が、自分より上等のスキルをくれる可能性などほぼ皆無で、僕たちにとって大きすぎるメリットしかない、というようなことを力説してきた。


 もとより、僕に文句は少しもない。それでも神様がムキになっているところを見ると、先ほどのリュウの態度を気にしてるのだろうか。


 さて、今度は僕たち2人を取り巻くように、いろんなスキルカードが浮かんだ。


【チーズサーチ】【風の刃】【ペン回しの極意】【霧のヴェール】【クルミクラッシュ】【片足バランス】・・・


「これ、かっこいい!」


 僕はそのうちの1つを手に取った。


【雷神の怒り】


 とんでもなく強そうだ。スキル名の下には説明が書かれている。超レアな雷魔法を放てるスキルであり、その威力は絶大であることが、まず最初に強調されていた。


「だけど、付与術師に攻撃魔法は撃てないか…」


 僕がそういうと河童神は


「そんなことはない。【遊び人】にも【仕立て屋】にも、スキルを使えばその魔法だけは使えるんじゃ。」


 と、教えてくれた。


 それなら、ありかも!


 普段は支援役だが、味方のピンチには超ド級の攻撃魔法を撃つ、そんなかっこいい付与術師。この想像には心が躍った。スキルの説明の続きを読む。以下のようなことが補足されている。


 消費MPが莫大であること。レベル70までは使用できないこと。空の見える野外でしか使用できないこと。味方への誤爆に注意しなければならないこと。どうやらあまり使い勝手のよいスキルではなさそうだ。


「お!いいじゃん!俺にくれよ!」


 リュウが僕の手から【雷神の怒り】をひったくった。すでに説明を読み終えていた僕は、このスキルへの興味を失っていたので、別によかったんだけど。彼は慌てて河童神に「このスキルに決めた!」と突き出した。一部始終を見ていた河童神は、少し表情を曇らせたが、しぶしぶ受理したようである。

 

 さて、その隙に、僕の視界にはまたもや不思議な生き物が現れた。ネズミだ。そのネズミは素早く近づいてきて、僕の目の前に


【鼠の雫】


 というスキルカードを浮かべた。そして、そのままどこかに走り去った。


「あ、あの祠のネズミ…!?」


 もしかしたら僕は、毎日気づかずに、河童の神様の家を掃除して、ネズミの神様に食事を供えていたのかもしれない。ともあれ、目の前のスキルカードの説明を読んでみる。


(通常のレベルアップが能力初期値の10%の成長を促すのに対して、【鼠の雫】所持者のレベルアップは、レベルアップ時の能力値の10%の成長を促す。

 つまり、能力初期値100の人がレベル2になる時。能力値は10成長し、110になる。これは【鼠の雫】所持者も同じである。

 しかし、彼らがレベル3になる時。通常の人は、さらに10の成長が見込まれ、能力は120になるだけである。それに対して【鼠の雫】所持者の場合、レベルアップ時の能力値110をベースにその10%、つまり11の成長が見込まれるため、能力値は121になる計算である。)


 んー、微妙。確かに能力初期値の少ない僕は、少しでもレベルアップ時の成長率を上げたいところだけど。でも120が121になるって…これじゃ【鼠の雫】というより【雀の涙】だな。


 その効果の小ささに少し悩むけど、僕の弱点を補うスキルであることには違いない。それに、わざわざネズミの神様(?)がくれたんだから無下にはできない。


「神様。このスキルをください。」


僕は静かにスキルカードを差し出した。


「はて、こんなスキルあったっけ?」


 河童神は少し首を傾げたが、無事【鼠の雫】を受理してくれた。さあ、あとは能力初期値をステータスに振り分けるだけだ。

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