第34話 あの日と同じギルドの応接室

 やっとのことで街まで帰ってきた。

 疲れているが、まずはギルドに報告しなければいけない。


 しかし、僕たちはその前に、宿屋に立ち寄った。

 ギルドの厚意で今朝まで泊まっていた宿屋である。

 ここに改めて部屋をとった。


 リュウの顔色が悪く、今にも倒れそうだったからだ。


 片足を失い、体中の骨がおられ、瀕死の怪我を負ったのだ。いくらアイテムで回復したとはいえ、その後のオーガとの大立ち回りは余分であった。


 リュウだけじゃない。僕たちも疲弊している。しばらくのんびりと過ごすことは、パーティにとって必要だろう。そんなことを話し合って、その間、宿で共同生活をすることになったのだ。宿の部屋はとりあえず1カ月の予約を取った。


 リュウはあれから、自分の新しく使えるようになったスキルについて熱っぽく語っていた。確かにすごい威力だった。だけど、僕のバフがあったとはいえ、すでにオーガを何体も倒しているメンバーにとって、それはそこまでインパクトのあるものでなかったのも事実だ。


 メンバーも「すごかった」と素直に反応したが、リュウが期待する反応には届いていなかったようである。リュウの機嫌が悪くなる。


「いや、ホントにすごかったね!」


 初めてバフが使えた日、僕もがっかりした。リュウの気持ちがわかるので努めて驚いて見せるのだが、あまり上手くなかったかも知れない。もしくは、リュウがそのセリフを言われたい相手は僕ではなかったのだろう。


 リュウは自分が何故倒れていたのか、覚えていなかった。自分の足がひと時消滅していたことも知らない。説明しても、現に今、リュウに足はくっついているのだ。とても信じない。


 僕のバフ、異次元バッグ、伝説級の回復薬、すでにメンバーが何十体もオーガを討伐したこと。そして自身の無様と仲間の足をひっぱった現実。受け入れられないことばかりだ。メンバーも気長に少しずつ説明を試みたりしたが、リュウはその度に僕の顔をすごい目つきで睨んでいた。まるで僕が、大切な仲間をだます詐欺師に見えていたのかもしれない。自分が意識を失った隙にとうとう馬脚を表したな。そんな憤りをひしひしと感じた。


 そうこうしているうちに、具合がみるみる悪くなった。そして今だ。


 当面は誰かがリュウを看たほうがいい。僕たちは1日交代でリュウに付くことになったが、それをリュウに伝えると嫌な顔をされた。そのこと自体にではない。看病をする1人に僕が入っていることにだ。


 わがままだなぁ。


 仕方がないので僕はその任を外れ、看病は女性メンバーに任せることになった。


 それぞれのベッドに腰を落ち着け、そんなふうに話が決まった。今度こそ腰を上げてギルドに向かわなければならないのだが、どうにも気持ちが立ち上がらない。しばらく冒険を振り返って、楽しくお喋りをしていた。そしてそのまま寝入ってしまった。


 気付けば夕方。


 僕自身もよっぽど疲れていたのだろう。少し眠ることで、頭がスッキリとして楽になった。今度こそギルドに向かおう。


 今日はリゼットがリュウを看る役目になったようで、宿屋に残る。僕とグレースとエマの3人でギルドを訪れた。


 今回のことは、ギルドの依頼で行ったわけではない。それどころか、ギルドは僕たちの動きを知らない。丁寧に説明しなければ、ことはスムーズに運ばないだろう。


「やあ、リディア。」


「こんにちは…あ、もうこんばんはですね、アキラさん。

 本日はどうされましたか。」


 ギルドの窓からちょうど西日が差し込み、リディアの頬は少し赤らいで見えた。


「実はね、報告に来たんだ。

 防衛依頼は解除されたんだけど、やっぱりどうしても気になってね。

 今朝までヴァルディアの森にいた。」


「そうなんですか!

 それで何かわかりましたか?

 お怪我はないですか?」


「リュウが足を失う大怪我を負った。」


 などと言ってしまえば、僕は今からこの薬について洗いざらい話し、効果を証明しなければならないだろう。もしくはこれからずっと、ギルドからリュウの姿を隠し続けるか、嘘つき扱いを甘受するくらいしか選択はない。


「危なかったけどね。

 なんとかみんな、無事だよ。」


と、ごまかす。


「気を付けてくださいね!

 それで、報告というのはモンスターの討伐についてですか?

 それとも込み入った内容を含みますか?


「うん。ちょっと込み入ってる。」


 僕がそういうと、リディアは直ちにギルマスへの接見を段取りしてくれた。話が早い。


 リディアはできる娘だ。

 それにBランクの威光があるのかもしれないな。



 僕たちはまた、あの日と同じ応接室に通された。

 今日はギルマスがすでに席に座っている。



「ヴァルディアの森にいたそうだな。話を聞かせてもらおう。」


 僕たちは話した。もちろん隠すべきところを除いて。特にセペンティアとオーガの共存、むしろ共闘だっただろうか。これについてギルマスは重く受け止め、首をひねった。


「証明できるものはあるか?」


「共闘については難しいですが、僕たちがたくさんのオーガやセペンティアと戦ったことであれば或いは。死骸を持ち帰っていますから。」


死骸??


「そうか、お前たちは貴重なマジックアイテムを持っていたんだったな。

 じゃあ、さっそく見せてくれるかい。」


 僕たちは素材の解体場へ場所を移した。




☆☆☆



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