第33話 覚醒した2つのスキル
戦闘はなるべく避けたい。
そう願うときほど、遭遇するものである。僕たちは疲れ切っていた。早く帰って休みたい。皆の頭の片隅に、その思いが渦巻いている。が、決して口に出してはいけない。「携帯食は銅貨3枚。家に帰るまでが冒険だ。」という言葉もある。こういう時こそ油断は大敵だ。
遭遇したのは1匹のオーガだ。
先程ちりじりに逃げた個体だろうか。残念ながら僕たちにその見分けはつかない。
避けたいと思っても避けられない戦闘がある。そんな時は疲れた身体と精神に鞭打って、もう一度戦いに身を置き直さなければならない。一瞬の間が必要なのである。しかし、僕たちのパーティにその間を必要としない男が1人いた。彼はここぞとばかりに元気を取り戻し、叫んだ。
「雷神のぉ 怒りぃぃぃ!!!」
久しぶりに聞いた単語である。僕は一瞬、何かの冗談だと思った。上空、大木よりもさらに高いところにそれはできた。いくつもの魔法陣が折り重なって、ここからは雨雲のように見える。時間にしてコンマ1秒。世界が眩い光に包まれたかと思うと、するどい稲妻が一筋の槍となってオーガを直撃した。
これはたまらないだろう。オーガの目は虚ろになり、足元が覚束ない。その体表から何やら芳ばしい匂いがする。
そこにリュウは大剣を持って切りかかった。
両断しようと深く切り込めば、刃はオーガの身体に食い込みこちらに隙ができる。したがって、リュウは浅く切った。オーガの右肩から腰の左のほうに斜めに切り筋が入り、次の瞬間には、剣は左から真横に腹を掠めた。
2つの割れ目から鮮血が噴き出す。特に、真横に大きくあけられた腹の口からは、もるもると中身がこぼれそうになった。オーガの両手が咄嗟にそれを拾い受けようとするが、意味はない。オーガはそのまま前に倒れて絶命した。
僕はバフをかけていない。リュウはなんとここにきて、Aランクモンスターであるオーガの単独討伐を成してしまった。
リュウは新しいスキルに目覚めたことを感じ取っていたのだろう。そして、それを使う機会を渇望していたに違いない。オーガを呼び寄せたのは、リュウのその思いのほうかも知れない。僕はそんなことを考えながら、もうひとつ別のことも考えていた。
実は僕も目覚めてしまった気がするのだ。
さっきから試したくて、うずうずしていた。
いい機会だ。僕も試させてもらう。
僕は自分の眼鏡に、新しく発現したバフを付与した。
そして呟くような小さな声で
「鑑定」
と呟く。
眼鏡を通してリュウを見る。
出た。
あの時以来のステータス画面だ。
実際には眼鏡のレンズに映し出されているのだが、僕の目には空中に文字が整列しているように見える。
【名前】 リュウ
【性別】 男
【年齢】 17歳
【職業】 重戦士
【スキル】 雷神の怒り(消費MP 最大MPの51%)
【レベル】 70
【アセンドP】 0
【HP】 116/310
【最大MP】 78/160
【職業レベル】 4
【スキルレベル】 固定
【パワー】 66
【スピード】 15
【スタミナ】 29
【思考スピード】 4
【記憶力】 3
【習得力】 6
おぉ!僕は軽い感動を覚えた。
これが【鑑定】か!
いつの間にか、本当にレベルが70まで上がっている。
そりゃ、これだけ格上モンスターを倒しまくってきたもんな。
それにしても見事な脳筋ステータスだ。
最大MPは160か。
やっぱりMPにも、それなりにポイントを振り分けていたんだね。
でも、やられている。
雷神の怒りの消費MPは最大MPの51%って!最大MP1でも使用できたということか。そういえば、あの時スキルカードには(どれだけ高位な魔導士であろうと2発撃つにはMPが足りないだろう)って書かれていた。なんかズルいな。
しかし、なぜ急に鑑定が使えるようになったのだろう。確かあの時はレベルが5000以上必要なので絶対に到達できない、って聞いたような。自分のステータスはどうなっているのだろうか。意識を自分に向けてみる。
【名前】 アキラ
【性別】 男
【年齢】 16歳
【職業】 付与術師
【スキル】 鼠の雫・空間魔法・鑑定付与etc
【レベル】 70
【アセンドP】 11
【最大HP】 4120
【最大MP】 4650
【職業レベル】 100
【スキルレベル】 固定
【パワー】 206
【スピード】 225
【スタミナ】 211
【思考スピード】 278
【記憶力】 304
【習得力】 232
な、なんだこれぇぇぇぇぇえ!!?
レベルは…そんなに高くない。
リュウと同じってのは、むしろ思ったより低い。
今回の大立ち回り、意識を失っていたリュウも魔素を吸収出来たってことかな。
それはいい。
その下。その下。
HPもMPもリュウと比べて文字通り桁違いなんですけど!
スキルレベルもなぜか100??
確かに【鑑定】は使えるようになってるけど!
アセッドPが5000必要って話はどこ行ったの?
てか、付与術とか関係なく、身体能力でもリュウを圧倒しちゃってるよね?
ん。
…どうしよう?
まずは…この数字を信じすぎるのは、危険だ。さすがに望外すぎる。もしかしたら、この眼鏡で自分のステータスは上手く見れないのかも知れない…。レベルが70で発現した鑑定なのだから当然、不正確だ。なんてこともあり得る。
他のメンバーのステータスはどうなっているのだろうか。
検証してみようかと思ったが、やめておいた。いくら与えられたスキルとはいえ、他人のステータスを勝手にのぞくのはよくない。もう、リュウのは覗いちゃった後だけどね。
自分のステータスの正確性も含めて、このスキルはいったん置いておこう。忘れたほうがいいかもしれない。そのうち、必要になることもあるだろう。
☆☆☆
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