第16話 同期の実力

 ハァハァハァ…


 やばい!舐めていた。舐めていた。


 このままじゃ死んでしまう。


 はやくグレースかジョエルさんのパーティに合流しなくては。


 仲間たちの体力も尽きる寸前だ。やばい。


「ロナ!オリヴァー!セリーナ!

 とりあえず、木の上に退避だ!」




―予想通り、バトルアームは木の上までは攻撃してこない。


 ひと息つけた。


 しかし、ミミズの癖に追いかけてくるスピード早すぎだろう!むっちゃ怖えー!動きがきめー!


「カイル。これからどうするの?」


 どうするのっていったってロナ、大剣使いのお前の剣が、ミミズの弾力に弾かれて文字通り歯が立たない。だから困っているんだろうが。


「とにかく今のうちに回復だ。

 セリーナ、頼む。」


 神官のセリーナの回復魔法はよく効くが、発動に時間がかかりすぎるのが難点だ。


「あたしが 弓で ねらいましょうか?」


 確かにオリヴァーなら木の上からバトルワームを狙える。弓矢で倒せたら理想的だ。でも、ロナの大剣が弾かれる相手だぜ?お前の矢も弾かれるよ!


「どうするの?カイ ル」


 知らねえよ。こんな時だけリーダー扱いしてきやがって!どう考えたって、打つ手なしじゃねえか。確かにオリヴァーは、こないだミドルベアの頭に矢をぶっ刺した。あの時は本当にすごかった。だけど、その後はからっきしじゃねえか。あれはまぐれだったんだよ!


「ここで時間を稼いでろ!盗賊の俺が助けを呼んでくる。」




―こんな時、我が身が悲しくなる。能力のことじゃない。あいつら俺のこと「一人で逃げたんじゃないの?」って疑いながら、今不安と戦っているんだぜ。【盗賊】がそんなに信じられねぇか?こちとら、【盗賊】の身の上で、女の子3人のリーダーはってんだ。普段は口先野郎でも、ここはぜってぇ逃げねえよ。命に代えてもあいつらは守る。


 やった!助かった。


「ジョイルさん!見つけた!」


「どうした?」

「助けてください!メンバーがバトルワームに襲われてて!こっちです。」


 きょえぇぇぇ!


 ジョエルさんは、俺が指さすほうにすごいスピードで走っていった。それにしても、声、高えな…。




「カイル、遅かったじゃない。」

「ジョエルさんが倒してくれたわよ。」


 うるせーな。俺が呼んできたんだよ。


 俺が息を切らせて戻ってきたときには、ジョエルさんは拳についたミミズの体液を拭っているところだった。


 それにしてもやっぱりDランク冒険者はとんでもねぇ。あの手強いバトルワームが瞬殺かよ。



「いやぁ。急にバトルワームに襲われて参ったよ。」

「だから単独パーティで行動するのは100年早いって言ったんだ。」


 同期のリュウは容赦がない。ベースへの帰りに合流したんだけど、よく見るとリュウは、左右の小脇にスティンバニーを抱えている。


「やっぱ食うならウサギだろ。こいつが一番美味え。」


 おいおい。その個体、なんて鋭い角だよ。

 そいつを2匹、お前が単独討伐したの?


 Dランクのジョエルさんは分かるが、実のところ同期のこいつはその数倍やばい。


 俺と同じEランクのくせに、いったいどこで差がついた?俺たちのパーティはやっぱり力不足だ。現実を突きつけられる。


 俺はリュウから獲物を1匹受け取り、肩に担いで荷運びを手伝った。


 ベースに着くと、他のメンバーが歓喜で出迎えてくれた。


「あら!美味しい美味しいウサギちゃんじゃない。

 カイルたちが捕まえたの?ありがとー!」


 グレース、違うよ。こいつは美味しいウサギちゃんじゃなくて、凶悪なスティンバニーだ。捕まえるとかじゃない、命をかけて討伐する相手だ。そして、討伐したのは残念ながら、俺じゃない…。


「とにかくお疲れさまだ。

 湧き水で身体を洗ってくるといい。」


 エマちゃん…いい娘だ。奇麗だし、優しいし、それでいて、なにより…俺よりずっと強いんだよな(涙)


 うちのメンバーはリュウと一緒に、ジョエルさんから解体を教わるっていうので、ヘトヘトだった俺は1人で水場に向かった。




「あ、おーい!

 えっと…カイル君。」


 この声は、グレースのパーティのアキラ。

 って、何やってんの?


「ちょっと手伝ってくれる?」


 何をへらへら言ってるんだ!


「そ、それ…!ミドルベアじゃないか!」


 アキラはミドルベアに襲われながら、その辺で拾ったような適当な木の棒を使って攻撃をいなしている。


「そうなんだ。武器も置いてきちゃって困ってたんだ。

 このままじゃ殺されちゃうよ。」


 いや、困ってる感じに見えねえよ!

 だったらせめて、大声とか出せよ!


 もしかして…こいつが1番やばくない?


「ほら。突っ立ってないで、そのナイフでクマさんの首を刺しちゃって!」


「クマさんじゃねえよ!ただのクマさんじゃねえから、俺には無理なんだよー!」


 そう言いながらも、なんだかいける気がする。

 アキラと話していると、なぜか俺の身体に力がみなぎってきた。


 そう。覚悟を決めた俺は、本当は強い。

 今回の冒険初日に、俺はそれを知った。

 あの日以来の高揚感だ。


 アキラがポジションを調整しながら、ミドルベアの攻撃をいなしているのがわかる。


 俺の位置はミドルベアから見て、斜め後ろ。


 いける!


 俺は重心を低くして、スーッと音無くミドルベアに近づいた。そのまま飛び上がり、左手でベアーの耳をわしづかみにし、右手で勢いよくナイフを突き立てた。


 あれ?


 硬い。


ナイフはなんとか5㎝くらい突き刺さったが、致命傷には届かない。


「あ、さすがだね。」


 アキラはそういうと、持ってる木の棒を金づちみたいに使って、ナイフをコンッて打ち付けた。釘がべニア板に刺さるように、ナイフはミドルベアの首に深く突き刺さった。


 俺はそのナイフを両手に握り直し、ミドルベアーの側頭部と肩を足場に、屈みこむような姿勢になってから、全力をこめて、ナイフを手前にひく。


 ミドルベアーの鮮血が飛び散る。ベアの瞳が一瞬虚ろになり、その巨体が重力にひかれるように崩れ落ちた。


 ベアはそのまま絶命した。


 俺たち2人は、血みどろになった身体を水場で奇麗に洗った。


 衝撃的な体験だった


 やっぱり、この場で一番最強にやべぇのは…




 俺なのかも知れない!





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