第17話 依頼の達成
今回の調査依頼は、予定より3日早く打ち切られることになった。僕たちのチームの3パーティは日を追うごとに調子を上げ、まだまだ溌剌としていたのだけど、もう一方のチームが音を上げた。実際、僕たちが日々遭遇しているモンスターは、想定よりもランクが高く、数も多すぎる。
そういうことなら肝心の報酬はどうなるのか、とリュウが慌てて尋ねていたが、ちゃんと最初の約束通りもらえるみたい。オペマスによれば、「このランクの冒険者が10日で音を上げる過酷さ」というのも大切な調査結果であるらしく、「打ち切り」という調査結果を得ることによって、依頼は問題なく「達成」されたのだという。
最低限調査しておくべき場所を今日中に押さえてしまい、明日の朝一には街へ帰ることになった。僕は毎日、不思議なくらい成長していく自分を夢中になって楽しんでいたので、少し残念な気がした。
「さあ、今日が最後の探索だ!
お前たち、しっかりついてこいよ!」
ミドルベア単独討伐者であるリュウは、これまでに増してリーダーぶるようになった。パーティを思っての行動が徐々にリーダーっぽいふるまいになるのならいいんだけど、リュウのそれはリーダーっぽいふるまいをすることが目的になって、パーティのためを探している。誰も何も言わないけど、少しぞわぞわする。
まあ、それはいいや。今日は久しぶりに、僕たちのパーティだけでの単独行動だ。カイルたちはジョエルさんのパーティと組み、音を上げたチームが調査すべきだった場所に回っている。
―森の深部に足を踏み入れるにつれて、僕たちは異様な静けさを感じ取った。
いつの間にか鳥のさえずりが途絶え、モンスターたちの気配も消えている。
ここまで1匹のモンスターにも出くわさないなんて、明らかにおかしい。
もしかして僕たちは、最終日にして森の異変の真相に近づいているのかもしれない。
風が肌を刺すような冷たさを帯び、その冷気は周囲の木々さえも凍えさせた。
「何かが近くにいる…。」
グレースが珍しく不安そうな声で囁く。
遠くから低い唸り声が聞こえた。それは、通常のモンスターの気配とは異なる、森全体が怯えているかのような不吉な調べであった。
「あり得ない…。こんな場所に。」
エマが動きを止め、魔力を集中させて周囲を探った。彼女の額に汗が滲み、口元が引き締まる。
その時、地面がほんの少し揺れた。足元の土が囁くように震え、木々の間から、巨大な影がゆっくりと現れた。体長20mはある巨大な蛇である。
セペンティアだ。
見たこともないBランクのモンスター。全員が息を飲んだ。通常、セペンティアは遥か遠くの危険地帯にのみ生息するはずの存在である。なぜこの森に。なにかが狂っている。
セペンティアは鋭い目で僕たちパーティを捉え、その長い身体をゆっくりとくねらせながら近づいてくる。その動きは、天敵と対峙する野生生物のそれではなく、餌を目の前にした捕食者のそれであった。
僕たちは色濃く死を感じ、固唾を飲んだ。否が応にも緊張が走る。
「みんな、かたいよ。」
僕は何となくおかしくなって、みんなに笑いかけた。この成す術もないないはずの敵を前にして、それでも僕は、さして脅威を感じていなかった。
「僕達ならいける!みんなが毎日強くなっていくのを僕はずっと見てた。」
そう言いながら、僕の身体は眩く光り、これまでにない力がメンバーに付与された。
とてつもない大きさのオーラが、メンバーの身体から空に向かって燻り始める。あまりにも大きな力を譲渡されたメンバーは、戸惑いながらも、腹が決まったようである。エマは素直に、
「すごい…、すごすぎる!」
と、感動を口にした。
僕はグレースに合図を出して、2人で木の陰に身を潜める。
メンバーの戦いを見守るため、こうやって木陰に潜るのは2度目である。
全身を鎧で覆ったリュウは、この瞬間を楽しむように猛っている。
エマは小刻みに剣先を動かし、頭では何度もパターンを変えて、セペンティアを両断するイメージを試しているのか。
僕たちが木陰に隠れたのは、万が一にも足手まといになってはいけないということも当然ある。だけど僕は、この2人だけで十分すぎると確信してもいた。
果たして、僕の最高のパーティメンバーはセペンティアを討ち取った。
セペンティアが断末魔とともに放った強力すぎる毒は、エマの腕を蝕んだ。だがそれも、優秀なグレースの魔法によって、あっさりと解毒された。
それらの様子は、この物語の冒頭に描かれたとおりである。
僕は最近、戦闘後に身体が得も言われぬ快感におぼれそうになることがある。今もそれがあった。もしかしたら今の瞬間が、レベルの上がる瞬間だったのかもしれない。
とにかく、僕たちにとって本当に実り多き依頼になった。
翌日、僕たちはヴァルディアの森を後にした。
後日ギルドに呼び出された僕たちは、今回の依頼達成と、同行した他の冒険者からの評価、なによりセペンティアの討伐達成をもってDランクに昇格した。
そのニュースを伝えてくれたあと、受付のリディアは
「おめでとうございます。」
と、僕の手を両手で覆って祝福してくれた。1年そこそこで2ランクの昇格は異例中の異例だ。普段は落ち着いた雰囲気のリディアだが、こんなに親身になって喜んでくれたのはすごく嬉しい。けれど、冒険者と受付嬢としては、少し距離感が近いかもしれないな。
事実、リュウを始めとするうちのパーティメンバーはその光景を見て、あまりいい顔をしていなかった。彼女も同期でがんばってる1人だし、彼女の仕事ぶりを心配する気持ちは僕もよくわかる。
ところでこの日、僕は用事があるからと言ってリュウには1人で村に帰ってもらったんだ。用事というのは、グレースとエマに大事な相談があったんだよね。
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