第18話 秘密の相談
「わざわざ出直してきてくれてありがとう。
どうしても乗ってほしい相談があって。」
リュウを仲間外れにしてグリルドハートで美味しい食事をする、なんてのもはばかられたので、広場のベンチを待ち合わせ場所にした。広い場所を選んだ理由は、もう1つあるんだけど。
「相談なんて珍しいな。
どうしたんだ?」
「なんて言ったらいいか…。
まずこれを見てほしいんだ。」
僕が前から使っている小さな肩掛け鞄。古びた布地でできている、ところどころ色褪せた、シンプルな造りのこの鞄を2人の前に差し出した。
「これ、アキラが気に入っている鞄よね。
古くなったから新しいものをプレゼントしてほしいって話?」
「そんなわけないよ。」
僕は笑った。
「実は僕、武器や防具への強化の他に、もう一つスキルが身に着いちゃって…
なんか、鞄に異次元収納を付与できるようになっちゃった。」
ええぇー!!!
2人は同時に驚きの声をあげた。
「じゃ、じゃあ、この鞄が?」
2人は僕が手渡した鞄をまじまじと見つめた。
鞄の中を覗き込むと、確かに真っ暗で、もやもやしていてよく見えない。
「こう見えて、結構たくさん入るよ。
たぶん家一軒くらいは入りそうな感覚なんだよね。
それに収納してる間は中の時間が止まってるみたいで、荷物の鮮度は落ちない。」
い、家一軒??時間停止??
「それが本当なら、そんなの世界に100個もない超貴重なお宝だと思うよ。
この鞄を売ったら大金になるし、上手に使えば売らなくてもお金を稼げるよ!」
「売るつもりはないし、お金儲けは当面は目立たない範囲に止めようかな。
悪い人に目をつけられても嫌だし。」
「あ、それでリュウには秘密だったのか?」
「ハハハハハ。違うよ。なんでリュウが悪い人なんだよ。
実はリュウにはすでに伝えたんだ。」
「そうなの?そしたらなんて?」
「認めてくれなかった。イカサマだろうって。
それで、パーティでその話をすること禁止されちゃったんだよね。
不愉快だ、和を乱すなって、怒られた。」
「ああ、ね。
リュウ…、十分悪い人だ。
アキラの評価がこれ以上に上がるのが嫌だったのね。」
「んー、どうだろう。
それはよくわからないけど、とにかくパーティにとってもメリットが大きい鞄だから、秘密にしておくこともできないと思って。
それに…。」
それに?
「さっきのお金儲けの話なんだけど…とりあえず鞄の中身をここに出すね。」
そういうと、僕は鞄に手を入れて、それをひっぱり出した。広い場所を選んだ理由はこれである。小さな肩掛け鞄から、それがにゅっと出てくる様は、何回見ても不思議だ。
「じゃーん!セペンティア!」
「実はこのスキル、セペンティアを討伐した直後に身に着いちゃって。
何かの役に立つかもしれないし、テストも兼ねて持って帰ってきちゃった。」
目の前でこの光景を見せられたら、2人にはもう疑う余地がない。
「セペンティアの討伐報酬、金貨70枚もらえたでしょ?でもセペンティアで美味しいのは、本当は素材のほうなんだって。この大きさだから普通は討伐しても持って帰るのが大変だし、見かけによらず痛むのが早い素材らしくて、これ貴重品なんだ。
このサイズだと金貨500枚にはなるって言われた。そんな大金、さすがに1人占めできないでしょ?」
…5、500枚!?
「あまりにも唐突な話で何と言っていいか。」
エマは困惑している。
「とにかく、ギルドで売り払っちゃおうよ!明日はパーティの活動は休みだから、リュウにバレる心配もなさそうだし。
でも、そんな大金もらうのは正直怖いし…分け前は特にいらない。今度お酒をおごってくれたらいいよ。」
グレースが具体的に話を進めてくれた。僕もお金はどっちでもいいんだけど、一応はちゃんと等分したいと思う。リュウの分はとっておいて、いつか鞄を認めてくれた時には手渡そう。だけど、そんなことよりも隠しごとをして、ばれたときに2人の信用を失うのが怖かったんだ。
「だから話せてホッとした。
そうだ。この鞄、2人にも作ってあげようか?」
「え?そんなことできるの。
欲しーい!」
「私も欲しいな。
貴重な鞄をもらうのは申し訳ないが、これで冒険の幅がぐっと広がる。」
うんうん。
「そんなの、気にしないで。
2人とも、鞄借りるね。」
そういうと僕は2人の鞄にも異次元収納を付与した。
「え、こんな簡単に??」
「すごいな。本当に付与されてる。」
今思い返すと、僕の能力はこの時くらいからぶっ飛び始めたんだよね。
この能力の急成長は、河童神にもらった情報とも矛盾している。能力初期値が10の僕は、レベルを10こ上げて初めて、能力値が20になる。レベル10で、やっとレベル1のリュウに追いつく計算だった。だから僕は、レベル上げだけは誰にも負けないようにがんばってきた。
パーティの方針でモンスターをいっぱい倒した。休日にはパーティメンバーに隠れて、他パーティの討伐を手伝ったりもした。それでも、どう考えても僕の成長はおかしい。努力で何とかなる範囲を超えている。
冷静に考えたらそうなんだけど、この時の僕は、みんなの役に立てるのが嬉しくて。日々の成長が楽しくて。そんなことを疑問に思うこともなかったんだ。
「本当にありがとう。
相談に乗るだけで、こんなに得しちゃっていいのかしら。」
「あ、実はあと2個…相談があるんだけど…。」
「もちろんいいよ。それでもおつりが出る(笑)。次は何?」
「2つ目は、僕たちもDランクになったし、そろそろ旅立つときかなってこと。」
「エマの実家のある、フィオナ平原を救う旅ね。
Dランクになったら行こうって言ってたの、ちゃんと覚えてるよ。
私もそろそろかなって思っていた。」
グレースは旅立ちに前向きのようだ。
「私にとってはもちろん、願ってもないことだ。
忘れずにいてくれて嬉しいよ。」
エマにとっては、そうだろう。
「これについては、後日改めて話し合うのがいいと思うんだけど、先に2人の意見を聞いておきたかったんだ。」
3人の気持ちが揃っていることがわかって、僕は安心した。
「最後の相談は何?」
グレースが首をかしげながら聞いてきた。
「実は、最後の相談は…旅立ち前にクリアしておきたい問題なんだけど…。
パーティメンバーの構成に関わることなんだ!」
えー!!…それって、もしかして!?
グレースとエマは顔を見合わせた。
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