第31話 オーガロードかもしれない
圧倒的だった。
僕たちはセペンティアを相手に、まるでバトルワームでもあしらうかのように薙ぎ払い、オーガを一刀に切り伏せながら、岸壁の前を行き交い走り回った。
セペンティアの鋭い牙も怖いと思わなかった。危機管理を司る頭のどこかがぶっ壊れたかのように、僕たちは剣を振るう。オーガの力強い一撃も、それが自分に害をなすものだと気づかないというふうに、すれすれに躱しては、彼らを打ち倒すことができた。オーガの巨体は倒れるたびに、地面をわずかに揺らした。
風が切り裂かれる音と、モンスターたちの断末魔が響き渡る。
彼らに動揺が走る。皆一様に、ある方向に退避行動をし始めた。見ると岩肌が窪んで陰になっている場所に、多くのモンスターが吸い込まれるように走り込んでいく。どうやらあの洞窟は、深い。
先ほどリュウを抱えたオーガが向かった先もそっちの方角だった。
僕たちはためらうことなく飛び込む。
洞窟の中に足を踏み入れると、外の光はほとんど届かず、闇が空間を不気味に支配していた。僕は取り出した照明具にバフをかける。すると洞窟中が見渡せるほど明るくなった。
広い。
もしも誰かが投げた球形を木の棒で打ち返し点を取りあうというような遊びを大人が本気でしようと思ったら、見物人の席まで含めてこのくらいの広さが必要ではないだろうか。と、思うほどの、だだっ広い1つの空間であった。
足元はゴツゴツして固く、そこに大小さまざまな石が転がっていた。ところどころに湿った苔が生えていて、その部分は当然のことながら、滑る。
空気はひんやりと冷たかったが、奥からそよぐ空気の流れに違和感を覚える。
頭の隅でそんなことを思考しながら、身体は猛り狂っている。僕が通った後にはセペンティアとオーガと死骸が転がった。
奥に進んでいくと、明るいはずの空間が薄暗く感じられ始めた。空気が生暖かくなり、どうにも気分がよくない。
洞窟の中のモンスターもあらかた片付いたところで、僕たちは自然と1か所に集まっていた。
「ねえ?気がついてる?」
グレースがみんなに問いかけた。
「これ、すんごい濃い瘴気よ。」
なるほど。
わからなかったことの1つに、モンスターたちの食事の問題があった。餌になるべきモンスターの多くが、すでに森から離れ、人間たちの手によって討伐されてしまっている。彼らは何を食べているのだろう。オーガとセペンティアは、なぜ喰いあいにならないのだろう。
その答えが、瘴気である。
これだけの瘴気を吸い続けていれば、彼らに食事など必要ない。常に身体がエネルギーで満たされていることだろう。
エマは何かを考え固まっている。
「…んふぁ?エマどうしたの?」
「こ、これは…。」
フィオナ平原を侵す【黒の瘴気】と全く同質の瘴気に思えるのだという。地理的に隔てた2地点で、同様に【黒の瘴気】が発生し、モンスターを狂わせている。これはいったいどういうことであろうか。
「ちょっと、ここを見て!」
僧侶などの神聖職は、瘴気のような魔の存在に敏感である。この瘴気も僕たちより明瞭に見えているのだろう。グレースは岩と岩の隙間を指した。ここからすごい勢いで瘴気があふれ出しているという。目を凝らすと、確かに僕たちにもぼんやり視認することができる。
僕たちは【黒の瘴気】の発生箇所を特定することができた。それは岩と岩の間、手を伸ばせば片腕なら何とか入るような隙間穴があり、どこまで続いているのかはわからないが、その先から瘴気が吹き出ているのだ。あるいは瘴気とは、湯泉のように山から湧き出るものなのだろうか。
ともあれ、今はリュウを探さなければならない。瘴気については、一先ず置いておかなければならないだろう。
果たしてこの広い空間のどこかにリュウはいるのだろうか。
僕たちは、このドーム型の洞窟の随分奥のほうに侵入している。僕たちが入ってきた入り口は100mも向こうであろうか。そちらのほうから、なにやら複数の気配がする。
向こうがこちらの動向を気にしているのは間違いないだろうが、それでもできるだけ静かに、そちらのほうへ走っていく。洞窟の半ばまで来ると、もう瘴気の影響はあまりなく視界が開けた。
なんと3体のオーガが、数匹のセペンティアを引き連れて、洞窟から出ようとしていた。オーガの1体が肩に何かを担いでいる。
リュウだ!
僕たちは急いでその一団の後を追いかけた。洞窟の出口付近で、一団は僕たちに気づきこちらを向き直った。
「こんにちは。なかなかの力をお持ちですね。」
不意に話しかけられ驚いたが、3体のオーガの中心に何かがいる。オーガとくらべてあまりにも小さい。
「これが、上位種…?」
言葉を喋るモンスターなんて…
グレースは身構えたが、リゼットにはよくわからない。
「んふぁ?それにしてはチンチクリンじゃない?」
もちろんリゼットよりは大きいのだけれど。
「それ」は、モンスターには珍しく装備で身を固めていた。全身を覆う異様な鎧は黒く光沢がある。ところどころに棘や突起がついており、紫や深紅の模様が薄く浮かび上がる。頭部も似たデザインの兜で覆われており、中の「それ」は一切見えない。マントは漆黒で、暗い緑色で刺繍された古代文字が、不気味なオーラを放っていた。
「あなたたちは、仲間を求めて飛び込んできたのですか?
なかなか勇敢です。
その勇気に免じて返してあげましょう。」
「それ」が合図を出すと、オーガはリュウをぼろ屑のように地面に投げ落とした。
何のつもりだろうか。
警戒してすぐには動けない僕たちを見てあざ笑い、リュウを捨て置いたまま、「それ」らは再び出口を向いて歩き始めた。
僕たちはリュウに駆け寄った。
息はある。
☆☆☆
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