第11話 僕たちは世界に一つだけのh…
体調は完全に回復したが、今は気分が少し重たい。
あの戦いの後、僕は毒消し薬で回復してもらい、事なきを得た。毒消し薬は1つしかなかったので、次に誰かが毒に侵されたら大変だ。モンスター討伐はここで打ち切るしかない。と、なりかけたところでグレースが言った。どうやら僕が毒に侵されてる様子と治療の様子を見ていたら、解毒のイメージが浮かんだらしい。たぶん次は自分が魔法で治せる、って。
パーティはこうやって成長していくのか。
先人たちの冒険譚を僕たちは今、なぞっている。自分たち自身が心強く誇らしい。そう言えば、僕も初めてバフが発動できたよね。
体の調子とか、何かいつもと違いは感じた?僕は喜び勇んでみんなに問いかけたんだけど、欲しい答えは返ってこなかった。能力の向上は感じなかったから、気づかないほどの微増があったのかも知れない、ということに落ち着いた。いつもは優しいグレースやエマも、戦いのことになると気休めの嘘をついたりしない。冒険者としての心得だ。
僕は心底がっかりして、自分を守ってくれていたリュウにお礼を言うことも忘れてしまったから、感謝の気持ちはずいぶん遅れて伝えることになった。
グレースの新しい魔法を当てにして、僕たちはその後もスプラッシュホッパーと戦った。ちなみに、グレースは回復魔法を何度か使ったけれど、結局、解毒を使う機会は1度もなかった。2度目以降の戦いは、リュウが常に僕を守るように立ち回り、エマが素早さを生かして多くのカエルを狩っていた。
僕がへこんでいる理由はここからだ。
実は、2回目の戦いでも僕はバフを使った。さっきは肝心の自分がダメージを負ってしまったので、今度は自分にもバフをかけるイメージで。僕の身体から発生した光は4つにわかれて、そのうちの1つはちゃんと自分に戻ってきた。
僕たちは初心者だからね、沼地での戦いに慣れていないんだ。沼地がどれだけ僕たちの動きを阻害し、普段とどれだけ感覚が狂うのか、誰も知らない。それが不幸の元だったんだ。
最初の戦いの後、みんなは言った。
いつもと違いを感じなかった、って。
それってバフの効果のおかげだったんだよ。
最初の戦いで、バフの恩恵を受けなかった僕が、2度目以降の戦いではバフを体感した。その動きやすさは、得も言われぬ快感だった。事実、2度目以降の戦いでは、僕にも相手の攻撃は直撃しなかった。
それで、その。
実は僕だって少しはパーティに貢献できてるって気づいたわけだけど、その事実をみんなにどう伝えたらいいかな。もちろん僕だって、自分の貢献をことさらにアピールしたくなんてない。普段ならね。でも、今のままじゃ、みんなの中で僕はお荷物のままじゃないか。
って、そんな考えが頭をぐるぐるまわってたけど「寡黙は金貨の説得力」って言うし、みんなもきっとそのうち気づいてくれる。って結論に至った。
「後は、アキラがなぁ。」
リュウがパンをほおばりながら、僕を弄ってくる。
「ハハ。いきなり毒にやられてたからね。自分でも笑っちゃうよ。」
バフを悪く言う気分じゃなかったので、そっちのほうをおちゃらけながら謝った。
「今日はやっぱりエマが1番だったな。
俺は自由に立ち回れないってのもあったけど。」
「それも悪かったね。ずっと守ってくれていて本当に助かったよ。」
「いいってことよ。
お前。
あの動きの悪さときたら、カエルにモロに直撃されてたし。」
リュウが笑いをかみ殺す。
「謝ることはない。支援役なんだから当たり前だよ。
私たちはアキラを守るのも役目だからね。
むしろ最初の戦いは、気が回らなくて申し訳ない。」
エマがフォローをしてくれる。
「その肝心の支援がなぁ。」
リュウは厳しい。
「確かに!そこはこれからがんばらないとね。」
グレースが飛び切りの笑顔で励ましてくれた。だけど、今日は正直モヤモヤが残る。僕のバフにもちゃんと効果はあるんだ。
僕はパンの最後の1片を口にほうりこんで、ふと空を見上げた。
「うわぁ!」
その瞬間、眼前に広がっていたのは、まるで宝石を散りばめたかのような美しい星空だった。
漆黒の闇が空一面を包み込み、その中に無数の星々が煌めいている。
「もう、こんなに暗くなっていたんだね。」
この分だと、満月もじきに昇るだろう。
僕たちは休憩の腰を上げて、再び歩き出すことにした。
―道は緩やかに上っている。
その上り坂の先に、いつの間にか満月が輝いていた。
明るい夜である。
僕は成人の儀のことを思い出していた。
あれからまだ2日しか経っていない。
この間、本当にいろんなことがあった。
頼もしくて優しい仲間ができた。
自分の弱さを知った。
自分の弱さから芽生えた、小さな能力が花開いた。
その花はまだ誰にも気づかれていない。
僕はまだ、冒険者の道を歩き始めたばかりだ。
この、満月まで続いてるかのような上り坂。
これが僕の歩いている道だ。
この道を歩き切ったときに僕は、1人前の冒険者になっているのだろうか。
今はそんな自分を夢見て、
無理せず楽せず歩いて行こう。
また力が湧いてきた。
小高い丘を越えた時、僕たちの視界に広がったのは群生するラピスローズだった。目の前に広がるその光景に、思わず息を飲む。無数の青い花が、月明かりを浴びて一面に広がっている。花びらの1つ1つがまるで宝石のようだ。
満月の柔らかな光が、ラピスローズをさらに鮮やかな青へと染め上げている。花の香りが夜風に乗って運ばれてきた。心地よい静寂の中で、僕たちはその美しさに心を奪われた。
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