成長率がやばすぎてS級付与術師の枠に収まらない〜幼馴染をざまあするのは気が引けるので追放は拒否する〜

杉田モン太🍺

第1話 で、お前は何をしてたんだ?

 霧が立ち込める暗い森の中、僕は木陰に身を潜め仲間たちを見守った。全身を覆う鎧からも力強さが伝わる重戦士のリュウ。その横に、剣先を細かく揺らし構える魔法剣士のエマ。2人は巨大なオーラを背中に燻らせ、躍動の瞬間を待ちわびているようである。


 対峙しているのは、鋭い牙をむき出しにした巨大な蛇のモンスターだ。その身体は鱗に覆われ、不気味に鈍く光る。


「僕にできることは何もないな。」


 僕が小さくつぶやいたのとほぼ同時に


「リュウ、右よ!」


 エマのハリのある声が響いた。リュウはすぐさま指示に従い、盾を構えて蛇の一撃を受け止めた。その衝撃に地面が揺れ、リュウの足元がわずかに滑る。しかし彼は踏ん張り、再びバランスを取り戻した。


 その隙に、エマが魔法を撃つ。彼女の剣先から放たれる光の刃が空気を切り裂き、蛇の身体に深く突き刺さった。エマの動きは美しく、そして正確だ。


 リュウとエマは見事な連携を見せ、そのまま息もつかせぬ連続攻撃をしかけた。やがてリュウの剣が大蛇の頭部に致命的な一撃を与える。


 蛇の断末魔は森中に響き渡り、あたりの空気を震わせた。大きくのたうち回った蛇は、最後の抵抗であろう毒の血を口から吐き出した。その血は緑色に輝き、粘つく液体があたりに飛び散る。その一滴が、エマの腕にかかってしまった。一滴といっても、コップ一杯はあろうかという大粒の滴だ。


「エマ!」


 僕と一緒に木陰で戦況を見守っていたグレースが声を張り上げ、エマのもとに駆け寄った。エマは冷静に自らの腕を見つめ、ゆっくりと深呼吸をする。


「大丈夫だ、グレース。解毒をお願いできるか?」

「もちろん。すぐに治すから、ほんの少しだけ我慢してね。」


 そういうとグレースは、魔力を高め解毒を始めた。青白い光がエマの腕を包み込み、毒は少しずつ浄化されていく。グレースは続けて、前衛2人の体力を魔法で回復した。



―戦闘は終わった。



 僕たちは夕暮れの空の下、焚火を囲んで食事をとっていた。炎の揺らめきの向こう側で、リュウが得意げに振り返る。


「やべーよ俺たち!Bランクのセペンティアに勝っちまった。」


「信じられない気分。あんな大きなモンスターと遭遇しちゃって、絶対に死んだと思ったわ。」


 グレースの表情はまだ少しこわばっている。

エマは戦いを振り返った。


「リュウのクソ力をこんなに頼もしく思ったのは初めてだよ。」


「誰がクソ力だ。誰が。」


「ふふ。それにアキラのバフにも、グレースの回復魔法にも本当に感謝だ。」


「…いや、嘘でも嬉しいよ。ありがとう。」


 僕が謙虚ぶって感謝の言葉を辞退したのは、リュウの目に怒りの感情が宿ったことを見逃さなかったからだ。だけど少し遅かった。


「ちょっと待てよ!グレースの回復魔法は解るが、アキラのバフは気休めみたいなもんだろ?実力不足はアキラ自身も認めている。変に持ち上げるのは逆に可哀想だから慎むべきだ。」


「ああ。その通りだ。でも今の言葉は僕に対するエマの優しさなんだから、そんなに怒らなくてもいいじゃないか。」


 慌てて僕が口を挟む。


「怒ってなんかない。だけど俺は、エマのその優しさは本当のやさしさじゃない。残酷なだけだって言ってるんだ。」

 

 なんだかよくわからないな。リュウのかっこつけのために正当化された理屈は、いつもこうなんだ。なんとなく深そうで中身は、特にない。


「リュウのわかりにくい優しさも僕には伝わっているよ。いつもありがとう。実力不足の僕がこのパーティの一員でいられることに、いつも感謝している。」


 こんなもんでどうだろう。


 僕は本心を隠して、穏やかに笑った。いや、僕に実力が足りてないのは事実だったんだ。そしてそれは、パーティの共通認識でもあった。リュウは優しい奴だ。足をひっぱる僕を庇い、仲間だと言い続けてくれた。


 だけど最近の僕はずいぶんと自信をつけた。僕の成長はいつのまにかリュウを追い抜かしちゃったかもしれない。そう思うほど調子がいい。Eランク中盤の僕たちが、セペンティアに勝てたのだって本当ならあり得ない。今日の勝利もまた、僕に密かな自信を与えてくれている。「足手まといアキラ」の急激な成長。その事実に3人は薄々気がついている。だけどリュウだけは、それを受け止めきれずにいるんだ。


「なんか最近のお前の言動、一見謙虚だけど、余裕こいてる感じがして癪にさわるんだよな。うん。確かに昔よりはマシになったけどよ、俺達にはまだまだ届いてないんだ。調子に乗ったらパーティから追い出しちゃうぜ。」


リュウはやっと冗談みたいな口調に戻ったが、マウンティングは崩さない。


「そ、そんな。それだけは勘弁してよぉ。」


「わかればいいんだ。わかれば。ハハハ。」


 リュウは本当は本当に僕を追い出したいと望んでいる。その事実にリュウ自身も無自覚で、僕だけが気付いているのだろう。僕は彼の望みが顕在化することを恐れ、言動には細心の注意を図るようになった。しかしそれは、来るべき日を先延ばしにしているだけなのかもしれない。


 だけどリュウよ。僕を追い出しても、もう昔には戻れない。お前はいつからか自信と余裕、判断力をなくしてしまったね。今、僕がいなくなって困るのはお前なんだよ。僕は、困るお前を遠くから眺めて「ざまあみろ」と舌を出したいわけじゃない。ただ楽しく、今日と同じ明日に力を尽くしたいだけだ。


― 実力の逆転。


その事実はこれから僕たちに、何をもたらすのだろうか。






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