第20話 いざ旅立ちのとき

「今日はお前たちに、報告が3つある!」


 リュウは藪から棒に、大声をはりあげた。リーダーとして振舞いたい圧が発散されている。僕たちはとりあえず、黙って話を聞くことにした。


「1つは、こいつだ。

 名前はリゼット。

 今年の成人の儀で冒険者になったばっかりの新人だ。」


 「こいつを荷物持ちとしてメンバーに加えるぞ!」

 

 つい先日、今年の成人の儀が執り行われた。僕たちが冒険者になってから、もう1年が経ったんだな。リュウが連れてきた女の子は、つまり僕たちより1期後輩の新成人らしい。見た目から、もっと幼く見えていたが、とりあえず成人しているようで安心した。それにしても、何の相談もなく、いきなり新メンバーとはどういうことだろう。

 

 それに、冒険者になりたての新人が僕たちについてこれるかなと心配したけど、なんと役割は荷物持ちなのか。僕が異次元バッグでパーティの荷物を引き受けることを申し出たら、リュウは断った。そして、新しいメンバーを荷物持ちとして連れてきたんだ。なんとしても僕の新スキルを認めたくないのかな。それにしても、こんな小柄な子が荷物持ちって、それはそれで無理があるんじゃ…?


「初めまして。ボクはただいまご紹介にあずかったリゼットです。」


 少し緊張しているようにみえる。


「職業は…弓術師だよ。」


「ほう。お前、弓術師だったのか?」


 リュウが口を挟んだ。いや、それも知らずに連れてきたのか。それにしたって、クロスボウを抱えてるし、そのくらいはわかるだろう!杜撰といえばいいのか、こちらの力が抜けてしまう。


「うん。その、一応、弓術師なんだ。

 それで、それから、力には…


 自信ないけど、なんとか荷物持ちがんばるね!」


 いや、そこは見た目に反して力持ちとかじゃないの!?「期待通りは裏切りだ」って言うじゃない。期待を裏切ってこそ、期待通りなんだよ。って、そんなこと、この娘にいってもしかたがないけどさ。


 リュウはいったいどういうつもりだろう。僕の異次元バッグの価値を下げるために、荷物持ちを担える力持ちの新メンバーを探していて。そんな折り、たまたま好みの美少女と出会ったから、目的を忘れちゃって。荷物持ちの適正もない相手に、自分の立場を利用して「パーティに入れてやる」ってドヤって仲良くなった。


 なんてことを想像して、誤解しちゃいそうな事態だな。


 もちろん、さすがにそんなことはないだろうけど。


「…んふぁ。雑用でもなんでもやるから、どうかボクをよろしくです。」


 リュウがどう言ったのかわからないが、彼女にとって聞いていた話と様子が違うのだろう。ポカンとしてしまった僕たちに委縮しながら、必死で自分を売り込んでいる。どう見ても悪い娘ではない。


 僕はグレースとエマと顔を見合わせた。


「どうしたんだ、お前たち!

 まさかリーダーの決定に反対する気じゃないだろうな!」


 リュウの怒鳴り声が響く。


 


 わかった。よろしくね!


 

 僕たち3人の笑顔と声が揃った。


「え…?」


 僕たちの物分かりがよくて、逆にリュウが驚いていた。自分でも無理筋だと感じていたのだろうな。でも、僕は新メンバーが欲しいって思っていたし、今は未熟でも、弓術師はうちのパーティにちょうどいい。よく考えると断る理由がないんだよね。




「じゃあ2つ目の提案だ!

 このパーティに名前を付けようと思う!」


 低ランクの冒険者がパーティに名前を付けるのは、通常珍しい。そもそも低ランク帯のパーティというのは、公式なものではないのだ。


 本来は、Cランク以上の冒険者がグループを形成したとき、本人たちが希望すればグループを1つの人格として登録できる。また、そのグループで依頼を受けることもできる。それをパーティと呼び、登録の際に名前が必要となるのだ。


 ちなみに、低ランク冒険者の場合は、パーティ制度はないので、依頼は基本的に個人が受注している。受注した個人が、誰と協力して達成を目指そうが自由というわけだ。依頼達成時には、討伐に貢献したメンバーの名前をギルドが聞き取り、それぞれの冒険者の実績とする。少し曖昧なところがあるので、時々揉め事も起こる。

 

 そんなわけだが、確かに低ランク冒険者のグループのことも含めて、広義でパーティと呼ぶことは一般的になってきている。それでも、実際には高ランク冒険者のそれを模倣しているにすぎない。そしてその場合、パーティ名までは付けないのが一般的だ。


 とはいえ、名前をつけるのも勝手ではある。「いきっている」とか「痛い奴」って思われるリスクはあるけども、まあDランクなら他所に例がないわけではない。リュウらしいなと思う。



「このパーティの名前は…エヴォルブハーツだ!」



「へー!【進化する心】とか、そんな意味かな。

 思ったよりいい名前じゃないか。」


「確かに、成長途中の私たちにしっくりくるわね。」


 エマとグレースは乗り気みたいだ。僕は、この街のはずれにあるフィットネスジムの名前が確かそれだったな、と思い当たったけど、黙っておくことにした。


「思ったよりってなんだよ。

 まあ、そんなに苦労して考えたわけじゃないし、気に入らないなら変えてもよか ったんだけどな。このくらいで気に入ってもらえたんなら嬉しいよ。」


 得意気になっている。


「よし、僕たちは今日から、エヴォルブハーツだ!」


 僕も力いっぱい賛成の意を表明した。




「さーて、じゃあ、最後の発表だな!」


「俺たちのパーティ、エヴォルブハーツはとうとうDランクにまで上り詰めました。

そこで!」


 Dに上り詰める?

 言葉がちょっとおかしい。


「そこで、これから俺たちエヴォルブハーツは、エマの故郷、フィオナ平原を平定するため、旅に出ることにする!」



 おー!



 僕たちは、思わず拳を突き出し気勢をあげた。





 

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