遊びも全力な美少女ダンジョン配信者と似たり寄ったりだけど一部控えめな体型の後輩美少女ダンジョン配信者と同期&先輩達

「卯佐美はチョキを出すラビ」


 卯佐美は突き出した拳から二本の指を立てて高らかに宣言した。対面で仁王立ちする同期の砲主マリーネに向けて。


「フッフッフ、心理戦ってワケね。片腹痛いワ!」


 肩掛けのマントを翻し、半身になって拳を構えるマリーネに合わせて卯佐美も構えを取る。


//今日の艦長、マント付きとは気合入ってる

//そういえば主人公の必〇技がじゃんけんモチーフなの艦長好きだったな

//どっかで見たことある構え


「「じゃん! けん!!」」


 振り下ろした拳と突き出された拳に押し出された空気が激突した事による轟音に掛け声の最後が掻き消され、生じた局地的な霧と光で歪んだ配信画面に達筆なタイトルロゴがドン!


『新春! ダンライじゃんけん王決定戦』


//え、まさか空気圧縮によるプラズマ……なワケないよな

//じゃんけんで鳴っていい音じゃなくて茶葉

//すげぇこの惨状で二人は微動だにしてない


「卯佐美、同期の絆を舐めんじゃないわヨ。あんたが裏の裏をかいてくんのはお見通し! この勝負もらったわ」


 発生した霧に浮かぶ二人のシルエットに動く様子は無い。繰り出された手は変わることなく静かに決着が明らかになるその時を待ち構えていた。


「それはどうラビかな?」


「な、なにィィィ!?」


 晴れる霧から浮上するかの如く露わになった卯佐美の拳から立ち上がった二本の指。卯佐美は宣言通りチョキを出していた。


「卯佐美も同期の絆は信じてたピョン。マリーネ、オメェが裏の裏まで読んできてくれるってなぁ!」


 指を限界まで広げた掌を残し、マリーネは膝から崩れ落ちる。


//なんか握手求めたらじゃんけんと勘違いされて落ち込んでるヒトみたい

//ウサミンの勝利だ

//えっと……てぇてぇ?


「勝者、卯佐美!」


 本大会のMCを務める巫女乃サクラが残っていた霧を桜吹雪で散らしながら卯佐美の勝利を告げると卯佐美の配信画面では『勝訴』の字にバッテンをして上から『勝利』と書かれた紙を掲げたもう一人のMCであるメカ子さんが走り回っていた。


「卯佐美ィィィ……三期生の勝利はあんたに託したわ」

「任せるウサ。優勝賞金で焼肉でも行くペコ。もちろん三期生全員で」

「なぁ、てぇてぇ営業してるとこワリぃんだけどよ」

「サクラ先輩」「サクリャ」「「どうかした?」」「ピョン?」


「もう少し会場に気を使ってじゃんけんしろぉ! サクラが会場へのダメージ肩代わりしてなかったら賞金が全部修繕費に飛んでたかもしんにぇ……」


「そ、それはサクラ先輩が何とかしてくれるって信頼したからラビですやん」

「そうそう」

「で?」


「「お手数おかけしました。ありがとうございます」」


「よし!」


//それでいいんだ

//桜の花びらまみれだけど会場に傷一つ無い!? さすがみこPON

//メカ子さん、そろそろ邪魔だから画面上を走り回らないでもろて

/メカ子さん/え~? しょうがないな~


 本大会は時にはライブ会場にもなる大型の多目的施設をアイドルダンジョン配信者ギルド『ダンライ』で貸切って行われている。ルールは対戦相手への直接攻撃禁止だけ。正確には勝敗を決める為の細かな規定はあるが直接攻撃以外は何でもありな為、参加者が全力を出せるようにという建前で安全が全くもって保証できるきがしないので観客は入れていない。


 一回戦の第一試合が終わり舞台を降りる卯佐美と第二試合に出場する群星ナガレがすれ違う。


「卯佐美、決勝で待ってるよ」

「いや勝った方と次当たるペコですけど」


「ガレちゃんは今日も――」


 返事は聞いてないと、すれ違いざまに言いたい事だけ告げたナガレは公式チャンネル用と自身の撮影用ドローンに向けていつもの挨拶しながら勝負の舞台へ。





「――って、負けるんかい! どうする、さっきのは聞こえなかった事にしといた方がいいペコ?」


//ガレちゃんがじゃんけんに勝ったとこ見たことないんだよなぁ

//あ、毎年の事なんで気にしないで大丈夫です

//ダイレクトアタック封じられたらガレちゃんは……


「負けた~……あ、卯佐美ぃ私の敵を取ってくれぇー」


 若干棒読みなあたり悔しさは余り感じられない。勝負に負けて萎れたていのナガレとハイタッチを交わした卯佐美は困惑の表情を浮かべたまま観客席へと降りていく流れを見送った。


 その後一回戦は着々と進み、二回戦に出場する卯佐美は再び勝負の舞台へと上がる。


「ギュギュっと握った拳にダイアモンド! ダンライの四期生、永久音とわねはるか!!」


 白を基調としたブレザー風装備の背に空いた穴から突き出た純白の翼をはためかせ、頭上に浮かぶ星形の天輪ヘイローを興奮気味に回転させた銀髪の美少女が卯佐美の真上から舞い降りた。


「なにやってるピョン? パンツ見えてるラビだけど」

「へ……うそぉ!?」


//カメラ! もうちょっと寄って

//画角上げろぉぉぉ

//絶妙に見えない……だが、それが良い


「はぁ~よかった、配信画面には映ってない――ってどうしたの卯佐美先輩?」


 直上に浮かぶ後輩と目が合った卯佐美は一度視線を真下に降ろし、再び視線を真上に向ける。その顔には何とも言えない表情が浮かんでいた。


「はるか、お互い頑張ろうな」

「なにが!?」

「この角度で目が合うってのはそーいうことウサ」

「待ってぇ?! なんのことか分かんない」

「卯佐美達には見えねー世界があるペコ……」

「いや、遠い目をされてもなんのこっちゃなんですけどぉ!」


//見えないってか見えるっていうか

//こう、気付かない方が幸せなこともあるのかもしれないな

//足元不注意で転んだりしないから別にいいんです!


「それで何でいきなり挨拶かましてきたピョン?」

「いやだって卯佐美先輩のリスナーに僕の事知らないヒトがいるかもしれないじゃん」

「メカ子さんが配信画面で対戦相手の名前を書いた看板もってラウンドガールごっこしてるラビだから大丈夫じゃね?」

「だとしても初めましてのヒトには自分で挨拶しときたいじゃん!」

「確かに。あ、どぉ~もどぉ~も~ダンライ三期生の卯佐美・ラビットソンだペコ」

「え……なに? いきなりどうしたの卯佐美先輩」


「オメェが挨拶しときたいって言ったラビだろぉ!?」

「いや、僕は卯佐美先輩のこと知ってるし」

「オメェじゃねぇよ! リスナーの方に決まってるウサペコ!」

「卯佐美先輩、語尾が渋滞してますって」

「誰のせいだ!」「今度は忘れてますよ?」


//ラウガ? 最後尾はこちらのヒトか甲子園とかの入場の真似かと思ってた

//生で観るのは初見です(永久音はるかの方)

//生で観るのは初見かも(卯佐美・ラビットソンの方)


「「配信初見のヒト、いらっしゃい! 楽しんで行ってね」」


 原因がよく分からなくなっていた言い争……漫才も配信初見のリスナーに仲良く反応して終わり、勝負の舞台に降り立った二人がようやく対峙する。


「よし、じゃあ二回戦開始するにぇ」


 サクラの合図にはるかが両手を広げ美声で讃美歌らしき曲を歌い始め、対する卯佐美は歌声に耳を澄ませるだけで大した動きはみられない。


//最後のロングブレスなっがぁ

//この配信終わったら歌ってるアーカイブか動画探そ

//【歌魔法】でバフを盛りまくる気か! ……じゃんけんにバフ?


「これで去年みたいに『傀儡糸マリオネット』に抵抗するだけで手一杯でパーしか出せなくて負けるなんて事にはならないからね! バフもりもりのパワーで卯佐美先輩の糸を引き千切ってあげます」

「なるほど。対策はバッチリってことペコか」

「そういうこ――」「最初は――」


「「グー!」」


 返事に対して卯佐美が食い気味に掛け声を放ったことで勝負が始まる。


「えぇぇぇなんでぇぇぇ!? グーにした手が開かないんですけどぉぉぉ!!」


 否、既に勝敗は決していた。


「去年の対策をして勝てるのは去年の卯佐美にだけピョン」

「ふぇ? あぁ!? 僕の手だけ糸で雁字搦めにされてる!」


 卯佐美は天に翳した掌をゆっくりと降ろし、はるかの握られた拳を優しく包む。


「卯佐美の勝ちぃ!」


/メカ子さん/ウサミーの勝ち~


 サクラが勝者を告げると同時に再び『勝利』と書かれた紙を掲げて卯佐美の配信画面を走り回るメカ子さん。


「これで卯佐美は予選突破ウサ! 準決勝は全二回戦終了後に休憩を挟んでからはじまるピョン。本作品この配信を気に入ってくれたなら作品のフォローチャンネル登録レビュー高評価してして待っててくれると嬉しいラビ」


//予選突破おめでとう

//準決は誰が上がって来るやら

//がんばれー


――配信の再開まで暫しお待ち下さい――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る