転校生としても通用しないこともない美少女ダンジョン配信者
「今日はダンジョンの日ラビ」
ダンジョンの日――各国で独自に制定されている初めてダンジョンに打ち勝った記念すべき日。つまりは祝日である。ただし、それは一般人にとっての話。ダンジョンに潜る冒険者や冒険者科に通う学生にとっては平日と変わらなかった。
平日か休日、祝日かどうかなど配信する時間帯が変わる程度にしか意識しないダンジョン配信(かなり特異な部類)な卯佐美からすると配信の時間帯に迷うほんの少し面倒な日でしかない。
「そんな
故に配信を許可された講義依頼は渡りに船……いや、卯佐美の性格を突いた妙手だった。この日以外だと講義依頼を受ける可能性は皆無なので。
//いやどんな理由よ
/学生/ダメ元で校長先生に頼んで良かったです
/教員/キャーウサミンこっち向いてー
「あ、ここにいるヒトがコメントすると分かるようにしてあるから気を付けるピョン。まぁ学生か教員って付くだけで匿名性は一応確保してあるから安心してコメントしてくれウサ」
/教員/……そういえば職員会議で言ってたような
/学生/生ウサミンに会えて感激ですわー!
//先生さんよぉ、顔背けたらコメントしたの自分だって言ってるようなもんだぜぇ
配信画面に映る、体育館ステージ端にある教壇に立つ卯佐美とパイプ椅子に座り受講する学生達及び教職員達。なお、個人情報保護の観点から卯佐美以外の顔はウサギがモチーフのマスコットキャラの顔に置き換えられている。
//あの横向いたウサギ頭か
/学生/[見せられないよ]先生、ウサミンのリスナーだったんか……
//汗だらだらで焦った表情までウサギ頭で再現してんの茶葉
更に個人名等がコメントされても
「それで気になる講義内容は……卯佐美も知らないラビなんだよね~」
//なんで講師が講義内容を知らない……
/教員/卯佐美さんの要望により議題はこちらで用意させていただきました
/メカ子さん/何か資料がいるときは僕が用意するよ~
体育館ステージに降ろされたスクリーンに議題が映る。
「『強くなるための条件』ペコ? そんなもんねぇピョン」
//…………
/学生/……
/教員/……
静まり返る体育館に卯佐美は語り掛ける。
「逆に言えば強くなれない理由もねぇって事ウサ。攻撃系アーツを覚えられなくても卯佐美は――」
溜めて、溜めて……力強く卯佐美は言い切った。
「――強い!!」
己こそがその証明だと言わんばかりに。
/学生/強くなれない理由は無い……
/教員/ホッ
//ガチで攻撃系アーツ覚えられないんだ
「じゃ、続いてのお題は『ダンジョン探索で特に気を付ける事』ラビか……全部」
//それはそう
//これはたぶんお題が悪い
/教員/お題変更『ダンジョン探索で特に気を付けている事』でお願いします
体育館中央の天井付近に浮かんでいた撮影用ドローンの上に浮かぶ固定コメントとなったお題変更のコメントを見た卯佐美が腕を組み、首を傾げる。
「………………取れ高?」
//一応気にはしてたのか、いやたぶん本気では気にしてないな
//それは気にする事であって気を付けている事ではないのでは……
/教員/いえ、あのそういうのではなくて
「むしろ特定の何かだけを気にし過ぎない事の方が大事ウサ。罠を気にしてモンスターの不意打ち喰らったって話を聞いた事あるペコだし」
//お題全否定!?
/教員/うっ
//あるある、俺は逆にモンスター警戒して落とし穴に落ちた
「ちらほら失敗談をコメントしてくれてるヒトもいるラビだな。メカ子さん、コメント適当に拾って映すピョン」
/メカ子さん/まっかせて~
//ちょっ待――
/学生/え、あの距離でドローンに浮かんでるコメント見えてんの!?
「バッチリ見えてるウサ」
講義に使われるとは思っていなかったが故の失敗談コメントが赤裸々に体育館スクリーンへと映し出されていった。
『地面を警戒してたら天井が降って来た』
『音が出ないよう歩いてたら思いっ切り目視で見つかった事ある』
『念入りに食料持ち込んで飲み物忘れたけど、逆に飲み物たくさん用意して弁当忘れた仲間がいて助かったのいい思い出』
「失敗談って中々聞く……今回は見るだけど、機会が少ないからバカにしないで反面教師にするといいラビ」
『揺れる乳に気を取られてクリティカルヒッツ!』
『タンクの引き締まった尻を見ていた俺は背後から近づくモンスターに――』
『気になるあのコにいい所を見せようとして大技使い過ぎてガス欠で撤退する羽目になり振られた』
「ギルティ。色ボケはダンジョン外でやれウサ」
//ぐぅ……こ、後輩たちの糧になるなら安い代償だぜ
/学生/身に覚えがあり過ぎてバカにできねぇ
/教員/おかしいな私コメントしてないよね
学生たちも既に授業の一環でダンジョンに潜る最中で経験があるのか卯佐美を除く体育館内の誰しもが薄っすらと苦い笑顔を浮かべている。
「なんかダメージ受けてるヒトがちらほらいるペコだから次のお題に行くピョン。って『質疑応答』? それは今までと今後の配信への応援コメントでされた卯佐美への質問がある程度貯まった時に枠を作ってやるラビ。なので却下」
//却下されちゃったよ
//え~素人質問で恐縮なのですが……え、質問そのものを受け付けてない? じゃぁいいですぅ
/学生/えっと質問自体は受け付けているんですわよね?
「質問はしてくれて問題はねぇピョン。ただ、直ぐに応える気がねぇだけペコ」
//なんて質問しよう……次の配信までに考えてきてもいい?
//ちょっとアーカイブ見直して質問コメしてくる!
//どこまで聞いていいんだろうか
「一つ言っておくウサ。聞くのは自由ラビ、だから応えるかも卯佐美の自由ペコ。あと誰がどんな質問したかは控えとくラビだから考えて質問するピョン。それに次回が質問に答える雑談回とは限らないペコ」
/学生/一つ?
//ウサミンなら一ターンに三回行動してきても不思議は無い、むしろ三回で助かった気さえする
/教員/雑談回か……以前あったのいつだっけ
体育館全体が質問の内容を考える為に雑談を交わす流れになる中、一人の学生が勢いよく手を挙げた。
「はい、そこの金髪縦ロール。質問だったら答える気はねぇウサよ」
個人情報保護の観点により学生の発言はダンライの謎技術によって
/金髪縦ロールの学生/是非! ステゴロにて手合わせをお願いしますわ!!
その発言を聞いて立ち上がる学生がまた一人。
「そっちの黒髪ポニテもピョン?」
/黒髪ポニテの学生/すみません、可能であれば私もお願いします!
「え、嫌ペコだけど」
/学生/あれ? 逃げるんですか~
/学生/もしかしてビビってる?
/学生/まさか負けるのが怖いのかな
煽るコメントを意に介さず卯佐美は自分の首を見てみろと軽く首を叩いて学生たちを促す。無論、自分で自分の首を見るなど不可能な話なので撮影用ドローンが学生たちをスクリーンに映し出して彼ら彼女らに自身の首を見せる。
//赤い……二重線?
//立ってる二人には線の間に髪型が書いてある
//恐ろしく速い首狩り……ではないけど、俺でなくても見逃しちゃうね
「冒険者の基本は常に自分が有利になるよう立ち回る事ウサ。対価も無しに自分が不利になる条件を受け入れるのがバカのやること」
卯佐美はゆっくりと教壇のあるステージ端から中央へ。
「卯佐美は力加減が得意じゃない。だから首狩りを避けるか耐えられないと――」
ステージ中央へと立った卯佐美は両手を広げ、静かに一言告げた。
「――相手にもなれない」
抑えていた力を解き放ち、敵意を込めて。
「やっべぇ……やり過ぎたピョン」
卯佐美へ手合わせを願い出ていた二人の学生と卯佐美を除いた体育館内にいた全員が泡を吹いて気を失っていた。二人の学生も顔面蒼白で膝をつき、息も絶え絶えとさせている。
//失礼、敵船につき少々じゃねぇ……学生が生意気につき少々威嚇した
//ウサミンを煽るから
/黒髪ポニテの学生/これが生のウサミン……
/金髪縦ロールの学生/とりあえずスレで自慢できますわね
四つん這いになりながらも拳を突き合わせて笑い合う二人の学生は将来有望なのかもしれない。
「あれ? 案外平気そうペコな」
/黒髪ポニテの学生/んえ?
/金髪縦ロールの学生/え?
「もう一発いっとくウサ?」
//やめて差し上げて
//もうやめて、他の学生及び教員たちの精神力はもうゼロよ! そんな状態でウサミンの圧を浴びたらどうなっちゃうの?! 試しにやってみるのもありかもしれない
/黒髪ポニテの学生/ま、まいりましたー!
/金髪縦ロールの学生/まいったですわー!
「講義を続けられる状態じゃなくなっちまったラビだし配信はここまでにしとくウサ。受講者に同意書を書かせといて正解だったペコ。それじゃ
//おつペコ~後処理頑張って
//おつピョン~学生諸君、強く生きろ
//おつウサー……同意書?
――本日の配信は終了しました――
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