寒さもへっちゃらな美少女ダンジョン配信者
「あ、【
真っ白な銀世界を進む卯佐美が乗っているのは前面に躍動感あふれる鯉が描かれた大楯だったモノ。決して橇ではないが盾は乗るモノなのでおそらく騎乗スキルの一種である【橇】が獲得できても不思議はな……いんだろうか? いや、そもそも卯佐美は盾に触れて【サーフィン】のスキルを獲得しているので今更だ。
//バッファローが引くソリって何ゾリって言うんだろう
//盾は乗ってなんぼですからね
//ま~た意味わかんないスキル生やしてる
「テイムモンスターが牽引する乗り物は
馬車でも牽引するのが
//水棲魔物に引かせる水上スキーもチャリオット
//空を飛べる魔物に引っ張ってもらうエアグライダーもチャリオット
//お、俺はチャリオットじゃねぇ
その卯佐美が座る大楯もとい魔物戦車を牽きながら大量の雪煙を上げて爆走する群体バッファローの鞍に跨る
//防寒着装備のキュナたんも可愛い
//顔の半分くらいあるグラサンがデカいのかキュナたんが小顔なのか
//ここで糸電話がつながっているもよう、それではスタジオのウサミンと繋いでみましょう
キュナが乗る
「ふんふん。あ、配信にも音声のせるからもっかい言うラビ」
撮影用ドローンのカメラを糸が掠め、配信画面が一瞬だけ揺れる。
「『きゅな、【除雪】ってすきるおぼえたからつかってもいい?』」
//ッ!? 糸が向かっ――
//キェェェェェ喋っ……いや元から喋ってたか、声も可愛いな~
//若干舌足らずな感じが良き
「とりあえず試しに使ってみるピョン」
「きゅな~!」
卯佐美とキュナの声以外に音が無かった静寂な配信画面に突如として大地を駆ける群体バッファローの蹄音が轟き、卯佐美達を挟む様に雪の壁が作られた。そして途中から視聴し始めたリスナーでは雪に埋もれて知りえなかった宇佐美が乗る大楯の現在の姿が露わとなる。
//うわ、急に音が
//ツバサガハエテル!?
//……うっすら浮いてるってか飛んでないか?
縦長の楕円型をした大楯の左右に広がる一対の大翼。猛禽類を彷彿とさせるその大翼は一部の……というかよく考えずに先日のプレゼントに応募したリスナーは見覚えが有り余るほどだろう。
配信開始直後に突貫で卯佐美が大楯に縫い付けた大翼は現在もプレゼント応募受付中な数ある鷹型モンスター原寸大模型の一つからもぎ取ったモノなので。
「う、浮いてたのは少しだけでめっちゃ揺れるラビ。キュナ、少し地面に雪を残すようにしてくれウサ」
「は~い」
//糸電話はなんだったんだ
//そか、雪を除ければ声は届くのか
//雪の下って結構荒れ地か……ウサミン、尻は大丈夫?
「なんの心配をしてんの!? 卯佐美は健康体ですけど!」
ちょっと語尾を忘れてしまった卯佐美が魔物戦車(翼の付いた大楯)をバッファローに牽かせて疾走している『静寂の雪原』は異常な吸音性を持つ特殊な雪で連携や会話を阻む配信難度高めのダンジョンであり、声掛けを不要とする練度の連携でなければ成り立たないぼっち……ソロ向けとされるダンジョンである。
「ますたー、まだちょうせーできそうにない」
「は? じゃあ、【除雪】を全開で加速させてみるペコ」
「あ、それならますたーのおしりはだいじょぶそー」
「キュナ!?」
群体バッファローの掻き分ける雪量と共に速度が増すと荒れ地に触れては跳ねていた大楯に縫い付けられていた大翼が揚力を得て浮かび上がった。
//今度こそちゃんと飛んだ
//周りが雪で速度感掴めないけど物理法則守ってる?
//気のせいかな羽ばたいてる……
「【橇】スキルのアーツに『風除け』があったから応用して風を上手く当ててるラビだから、たぶん物理法則は守ってるペコじゃねぇかな。あと、卯佐美が縫い付けたんだから別に羽ばたいてもおかしくねぇピョン」
//そっかー守ってるか……いや守ってるか?
//そうですわ、ウサミンが縫い付けたんですからおかしくありませんでしたわ
//もう鯉じゃなくて飛び魚だな
「……この感覚、イケる気がするウサ。曲がれラビットソン!」
「ますたーまがるならみぎで~」
「よしきたペコ」
糸を伝う卯佐美からの指示でラビットソンが弧を描いて曲がり始める。遠心力に揺られる卯佐美は器用に大楯を傾け【除雪】スキルによってできた雪壁に大楯の底(前面)で着雪し滑り抜けた。
//あの直進しかできなかったバッファローが……
//ウサミンの腕力任せコーナリングしかできなかったのに
//ハッ!? これならイン側から抜いても首が狩られないのでは?
その後も何故かキュナの方向指示で卯佐美がラビットソンを操縦していると雪壁を突き抜け、一度駆け抜けた場所へ出てると撮影用ドローンが高度を上げる。そして卯佐美達の軌跡を配信画面に映し出した。その軌跡によって描かれたリスナー代わりとして用いられるウサギがモチーフのマスコットキャラの顔を。
//うおぉぉぉ走った跡が俺らになってるぅぅぅ!
//軌跡は輪郭部だけなのに目と口がある? 妙だな……
//うん? 目と口のとこ何か動いてるような
卯佐美達が走ったのは描いた輪郭の場所だけ。眼と口に当たる部分は通るどころか近づいてすらいない。で、あるならば描いたのはダンジョンにおける卯佐美とは別の勢力。すなわち――
「お~ボスが三体とか豊作ウサ」
――モンスター。それも徘徊型の大型ボスである。
//雪の龍だ
//デカ過ぎ……いや長過ぎんだろ
//とぐろ巻いたのが二体と寝そべってたのが一体ってことぉ?
『
『
三体の雪蛇竜は既に動き出しており、卯佐美を追うように三方から迫っていた。雪原を生息地とするだけあってその速度は雪を掻き分けて進むバッファローでは比にならない。
//いつの間に――!?
//左右の雪蛇竜、後門の雪蛇竜
//そっか蛇型じゃ頭から近づくしかないわな……
左右から挟み込み鎌首を持ち上げた雪蛇竜は雪と同じ体色なのも合わさって卯佐美の元へ降りて来ていたドローン越しに観ていたリスナーには瞬間移動でもしてきたかと錯覚するほどにいつ近づいたのかさえ分からなかった。
「狙いやすいようにワザワザ頭から近づいてきて首を上げてくれるんだから親切なボスモンスターぺこだよなぁ?」
//あ……
//恐ろしく速い首狩り、俺でなくても予感できたね
//ウサミンの前で鎌首をもたげたんだ自業自得だ
鎌首から狩られて雪原に沈むかと思えた雪蛇竜だったが、その生命力を見せつけるかの如く首の無い胴体が暴れ回る。無論、悪あがきにも満たない雪蛇竜の反撃は卯佐美には届かない。
だがその巨体が、その質量が生み出すエネルギーは雪原の環境を一変させた。
雪崩の大瀑布。
あるいは雪崩の大噴火。
全てを呑み込む雪の大海嘯。
「【除雪】スキル全開で全速前進ウサ! 雪崩に向かって突っ込むピョン」
「――!?」
//バッファローが「マジで!?」って顔で振り向いてますけど
//なるほど【除雪】スキルで雪崩を除雪する気か……無理では?
命の灯を燃やし尽くす勢いで猛然と加速するラビットソンから肩に
//さらばラビットソン……
//キュナたん!?
飛び降りたキュナを受け止めるべく卯佐美が立ち上がると配信画面にはちゃんとした犬ぞりでサーフィンする卯佐美のカットインが流れた。
『スキルリンク【橇】×【サーフィン】』
「『
//そうか【魔物戦車】のスキルじゃないから盾(乗り物)だけで発動条件満たすのか
//キュナたんを受けて止めるどころか肩車でドッキングしてて茶葉
//と、飛んでる
配信画面上部に浮かぶ技名を卯佐美とキュナが叫ぶ。
「「『
吹き抜ける風に乗り、キュナを肩車した卯佐美は雪崩の届かない大空へ。
「良い眺め……って言うにはほぼ白一色過ぎるラビだけど、ダンジョンクリアしたから配信はここまでウサ。
「おつぺこきゅなー」
//おつペコ~
//おつキュナー
//おつペコきゅな~
――本日の配信は終了しました――
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