監獄も意味を成さない美少女ダンジョン配信者と黒髪短髪元気系先輩美少女配信者

「入って直ぐ牢屋ってどうピョン?」


 撮影用ドローンが鉄格子を抜けようと隙間を探し、通れず諦めて鉄格子を背景に石造りの部屋に立つ二人の姿を画面に映し出した。


//だよね捕まったウサミン達の絵が欲しかったよね

//牢屋スタートのダンジョンなんてあるんだ

//響だ、不死鳥(アヒル)の二つ名もあるよ


「ねぇ卯佐美、これ配信中になってるんだけど!」

「そりゃ配信してるペコだし」

「何で!? 始めるにしてめ準備の小部屋から進んだ最初の階層に入ってからじゃない?!」

「いやだって牢屋に居る経緯説明するの面倒ラビじゃん?」

「たしかに!!」


 声だけでなくリアクションもうるさ……大きい元気印の少女『ひびき・オーバースカイ』もまた卯佐美が所属するアイドルダンジョン配信者ギルド『ダンライ』に所属する元気系先輩美少女アイドル配信者である。


//いや説明を諦めないでもろて

//納得しちゃったよ

//元気だな~


「それで何で卯佐美は誘われたピョン?」

「脱獄する系の海外ドラマを同時視聴して脱獄したくなった!」

「いやそれ卯佐美を誘った理由になってねぇウサ」

「だってココ響一人だとめっちゃ時間掛かるんだもん」

「響先輩ってココ、その海外ドラマ観る度に来てるラビなのに?」

「武器持ち込めないし、毎回道が変わるからね!」


 卯佐美達のいるダンジョン『不思議な監獄3』は監獄らしく武器の持ち込みができず、脱獄防止の名目でダンジョンに潜る度に構造が変化する自動生成されるローグライク風ダンジョンだ。ちなみに1と2は存在しない。


//みこPONと潜った時は長った……

//ターン制じゃないから気を付けて

//敵に敵を倒されないでね、進化するから


 勝手知ったると言わんばかりに響は牢屋の隅にあるベッドを漁り、卯佐美は牢の外へ。


「まずベッドを調べてスプーンかフォークをゲットすんの! スプーンが当たりね」

「ふ~ん」

「あぁ! フォークぅぅぅ……」

「………………」

「スプーンだと壁掘って出れるんだけど」

「何処にウサ?」

「何処って牢の外に決まってr――何で外にいんのぉ!?」


//やっと気づいた

//鉄格子、ひん曲がってないしどうやって出たんだろう

//武器の持ち込み禁止……武器?


 卯佐美が視線を向けるのに合わせて撮影用ドローンもカメラを向けて卯佐美が牢を出た箇所を配信画面に映し出す。


「え!?」


 鉄格子が無い。


「何で? さっきまで在ったよね鉄格子……」


 否、鉄格子は在る。綺麗に切断され、壁に立てかけられて。


「狩った」


「狩った!? いや、斬ったでしょ!!」


//恐ろしく速い首狩り……首? ま、まぁ俺でなくても見逃しちゃうね

//根元からバッサリだ

//この脱出パターンは初めて見る!


「そこはまぁどっちでもいいペコ」

「よくない! ……いや、いいか。え~でもどうやったの? 卯佐美が手刀で斬ったにしては断面が綺麗すぎるし」

「え、普通に糸ラビだけど」

「そっか~糸ラビかーって糸?! え、えぇ? 武器は持ち込めないはずなんですけどぉ!?」


 普段から卯佐美は糸を用い数多の首を狩っている。だが、よく考えてほしい。


「そもそも糸は武器じゃねぇピョン」


「た し か に !」


 糸は武器ではなくアイテムだ。それも素材系の。


//そういえば糸スキルも分類的には生産スキルだっけ

//よく考えたら鋳鉄程度でしたら素手でイケますわね

//ところで挨拶はしないのかいヒビキーナ?


「卯佐美は準備の小部屋でやったけど響先輩は挨拶どうするウサ?」

「空を超えて響く元気印! アイドルダンジョン配信者ギルド『ダンライ』の二期生!! ひ――――――――――」

「あ、ノイキャン入ったピョン」


 大気を震わせる大声で自分の名前を叫ぶ響に卯佐美の声は届く事はなく、響は最後まで叫びきり撮影用ドローンのカメラへポーズを決めた。


//ドヤ顔可愛い

//ポーズだけはちゃんとアイドルしてるんだよな~

//非致〇性のダンジョンって異空間にあるから中の音って外に聞こえないはずだよね? 今、ヒビキーナの声が聞こえたような……


「このコメ、たぶん協会職員っぽいペコだけど流石に休憩時間で観てるラビだよね」

「は~やっぱり挨拶やるとスッキリするね、卯佐美!」


「対響先輩仕様に設定変えるの忘れてて響先輩の名前んとこ丸々ノイキャン入ったウサ」

「は~!? ちょ、じゃぁ響は無音で決めポーズしたってこと?!」

「設定変えたし、もっかいしとくウサ?」


「空を超えて響く元気印! アイドルダンジョン配信者ギルド『ダンライ』の二期生!! ひびきぃぃぃ・おぅぶぁぁぁすっかぁぁぁいぃぃぃ!!!」


//躊躇なくいった

//若干照れが入ってるのがいい味出してる

//監獄でそんな大声出して大丈夫?


「「……あ」」


 無数の足音が近づいて来る。


「どうする、どうする卯佐美!」

「扉開けた瞬間に狩る」

「語尾は!? いや、そこじゃない。不意打ちはいいけど響の武器フォークなんですけど」

「それは必然的に首を狩るしかねぇペコ」

「たしかに……フォークでヤるならそれしかねぇ」


 卯佐美達のいる部屋に繋がる扉の取っ手が軋み、扉が開いた瞬間――


「その首貰ったぁぁぁーーー!!」


 ――勢いよく突き出されたフォークは空を切った。


//手応えがない、ただの首狩り被害者のようだ

//無い首は貰えないね~

//誰もヒビキーナがヤれと言ってないような?


「……卯佐美?」

「必然的に卯佐美が首狩るしかねぇラビかなって」

「ならそー言ってよぉぉぉ! 響の見せ場だと思って張り切っちゃったじゃん!!」

「不意打ちが見せ場でよかったピョン?」

「よくないかも」

「そもそも響先輩の見せ場って言ったら卯佐美の首狩り喰らっても即座に回復して立ち向かって来る再生力と根性ウサだから……」

「ウサだから?」


 言葉を溜める卯佐美、固唾を飲む響。そして駆けつけた瞬間に首を狩られて扉に到達することなく光の塵となって消えゆく看守達モンスターが沈黙に鈍い音を添える。


「囮は任せたペコ」

「お、囮!? もっとない? もう少しイイ感じのさ」

「……避けタンクとかどうピョン?」

「それ言い換えただけだよね!? 響、回避はそこまでだから絶対被弾するんですけど」

「被弾したところで回復するペコじゃん」

「ねぇそれタンクじゃなくてサンドバック!」

「んじゃデコイでどうウサ?」


「デコイ? それってアレでしょ発射されるヤツ! ドラマかアニメで見た事あるきがする!!」


//ヒビキーナ? それ一緒の意味だよ

//囮=デコイ

//英語にしただけ


「えぇ! 一緒の意味なの!? 卯~佐~美ぃ~?」

「逆に何で知らねぇラビ」

「そ、それより響の見せ場は?」


//誤魔化した

//誤魔化しましたね

//誤魔化しましたわー!


「う~ん……とりあえず出口に向かうピョン」

「いいけど、そっちは壁だよ?」


 斬。


 配信画面越しでは分かり辛いかもしれないが、壁の向こうから扉の方へ駆けつける足音が聞こえていた。つまり壁の向こうには空間があり、壁の厚みが音が伝わる程度でしかない。そんな壁が卯佐美を相手に壁として意味を成すだろうか。


 答えは否である。


 攻略法を見つけたり、と止まることなく壁を抜いて進む卯佐美。


「速くて……自己ベストを大幅に更新するくらい速くていいんだけどね」

「響先輩、なんか言ったウサ?」

「風情が無いな~って」

「脱獄に風情も何もねぇピョン」


//蹴りノックで壁から入室&退室

//看守ってオーガだったんだ

//何事!? って、表情浮かべながら首が飛んでて茶葉


「それで響の見せ場ってなんなの?」

「『ここは俺に任せて先に行け』」

「どしたん、急にイケボ出して。卯佐美が先進んでるし」

「だから響先輩の見せ場ウサ」


「死亡フラグじゃん!」


//見せ場っちゃあ見せ場だけども

//ホアァァァーって叫び声の後何食わぬ顔で戻ってきそう

//でもチャンスが来たらやるんでしょ?


「待って、よく考えたら別に響が足止めする必要なくない?」

「ねぇラビだな」

「響の見せ場は!? 可愛い後輩の前で良いカッコしたいんですけど!」

「それ卯佐美に言うペコ?」


 呆れた表情を浮かべつつも可愛い後輩扱いがまんざらでもない卯佐美は道中で拾った妙に頑丈な紙コップを響へと手渡した。


「なにこれ、糸電話?」

「それは卯佐美と響先輩の合体技をするのに使うピョン」

「合体技! いいね、やろう!! 響は何すればいい?」

「紙コップに向けて思いっ切り歌ってくれればいいウサ」


 響が息を大きく吸うと配信画面の映像が一時停止され、文章が流れた。


 声――音とは振動であり、糸電話は紙コップが受け取った振動が糸を介して相手へと伝わる。


 響の手にある紙コップから伸びる糸が繋がる先は?


 答え、『不思議な監獄3』一帯。


 では『響・オーバースカイ』の声量?


 空間を隔てたダンジョン外まで聞こえます。


//防音室貫通どころじゃねぇ

//この問答不穏過ぎねぇ?

//なるほど、この配信はヒビキーナの歌枠だったと


 配信画面の時が再び動き出し、卯佐美と響が対称なポーズを決めたカットインと共に画面上部へと技名が表示された。



<音量注意>『ヒビキーナ・リサイタル』<音量注意>



 対響仕様に設定を変更された撮影用ドローンは衝撃波と化した響の歌声をヒトの可聴領域まで減衰し、破壊の限りを尽くしているとは思えない綺麗な独唱を配信画面先へ。


//背景と歌声のギャップがやべぇ

//アカペラ!? いや、同じレベルの音を出せる楽器がないか

//耳無いなった……ついでに監獄も


「はぁ~スッキリした!」


 響が紙コップをマイクに気持ちよく歌い終える。


「それは大声で歌ったからペコ? それとも監獄を消し飛ばしたからウサ?」


「はぁ? 何言ってんの卯……佐美……」


 響が細めていた目を開くと遮るモノが何もない青空が広がっていた。


「え?」


 響が視線を下ろすのに追従してドローンが二人の足元へカメラを向けると一部が砂と化した瓦礫の山が映る。


「これって外に出た判定になるラビかな」

「え、待って。え!? これ響がやったの?」


「……あ、これでダンジョンクリアみたいだから今回はここまでピョン。本作品この配信を気に入ってくれたなら作品のフォローチャンネル登録レビュー高評価してしてくれると嬉しいウサ。ではでは乙ヒビペコでした~」

「ねぇーーー!!! ちょっと聞いて……あ、乙ヒビペコ~」



//おつヒビ~

//おつペコ~

//おつヒビペコ~


――本日の配信は終了しました――




















「え……マジで響がやったの、これ」

「まぁ卯佐美は響先輩の声を直接監獄に流しただけだし」

「って、おい卯佐美! 配信切り忘れてる」

「げ、マジだ。響先輩の大声で壊れた?」

「ヒトのせいにすんな! あと、語尾ぃ!!」


――本日の配信は今度こそ終了しました――

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