たぶん宇宙空間も短時間ならイケる美少女ダンジョン配信者に自称高性能AI美少女ダンジョン配信者を添えて

「今日は久々のパイロットスーツ衣装ペコ」


 人工感のある自然を背景に挨拶をする卯佐美。その配信画面の端に誰かが見切れるように映っていた。


//巨大ロボのパイロット感あって好き

//フルフェイスにしたら宇宙空間でもいけそう

//待って、誰かいる!?


「『HaAIはぁあい! アイドルダンジョン配信者ギルド『ダンライ』の零期生、高性能AIのメカ子さんだよ~』」


 メカニカルな四肢と耳から生えるアンテナらしき機械パーツを除けばおっとりめな茶髪の美少女にしか見えないメカ子さんが配信画面へフレームイン。


「今日、実はコラボ回ウサ。その気になるコラボ相手は――」


//メカ子さんでしょ?

//もう出てるよ

//なんかメカ子さんのいる位置、変じゃね


「――メカ子さんで……って何で既に知ってるピョン!?」


 卯佐美の横で両手を振っていたメカ子さんが画面右下へとスライドするように移動し、手にはゲームのコントローラーを出現させる。


「『じゃ~ん。それじゃウサミーのコロコロコロニー、やってくよ~』」


//えっとこれ実はメカ子さんのゲーム配信だった事でOK?

//そっか一応メカ子さんって高性能AIだから3Dモデルの身体もあるのか

//ウサミンには声聞こえてなくて茶葉


 メカ子さんはダンジョンではなく文字通り配信画面にいた。3DのCGモデルで。


「は? もしかしてメカ子さん、画面上そっちにいるペコ!? 今、素体ボディ出すからこっちに来るピョン」


 卯佐美が黒い空間アイテムボックスからスマートな宇宙服っぽい機械人形を取り出すと、画面上のメカ子さんが吸い込まれる様にして機械人形の中へ。


//芸が細かい

//ボディが前のと違くない?


 金属光沢のある鈍色をしていた身体に紫を基調とした色が付き、フルフェイスヘルメットの中にメカ子さんの顔が映る。


「こうやって見ると中にメカ子さんがいるみたいに見えるラビな」


 返事がない。


//口は動いてるけど声が聞こえてこない

//あ、戻ってきたけど中にも残ってる

//メカ子さん分身したぞ、ボディと配信画面とで


「『おっかしいな~音声ソフトもちゃんといれたのに喋れない』」


 配信画面の3Dモデルと素体に入ったメカ子さんの動きが連動して二人……二体? 同時に首を傾げた。


//配信に乗ってるメカ子さんの声って現地のウサミンには聞こえないのか

//かわいい

//メカ子さんもコメントすればウサミンに届くのではないでしょうか


「『それだ~』」


/メカ子さん/いぇ~いウサミー、見ってる~


「見ってる~、じゃねぇペコだよ」


/メカ子さん/いや~、音声ソフトとかも搭載したはずなのになんかその素体何故か喋れなくてさ~

//ちゃっかり固定コメントにしてて草


 配信へのコメントは通常撮影用ドローンの上に流れる様に投影されるが固定コメントの場合は流れる事無く投影される。


「スピーカー的なのは積んだウサ?」


/メカ子さん/……あ

/メカ子さん/ああああああああ!

/メカ子さん/音声出力デバイス搭載させるの忘れた……


//なんかメカ子さんの米がメカ子さん音声の字幕になってていいな

//メカ子さんって高性能AIじゃなかったっけ

//自称高性能AIなドジっ娘で僕っ娘……いいね、その調子でどんどん属性盛ってこう


「流石、寝ぼけて種族変更しただけはあるピョン」


 ぶっちゃけた話、メカ子さんはAIではない。元は普通にヒトだった(卯佐美が所属するギルド『ダンライ』に所属できるレベルの冒険者が普通かどうかは議論しないモノとする)のだが、ある日寝ぼけて種族を精霊族の中でも珍しい電子の精霊へと変えてしまったのである。


 種族の変更は条件さえ満たせるのであれば難しい事ではない。美形になれるからとエルフを目指す冒険者が多いくらいだ。しかし基本不可逆な種族変更は何日も熟考を重ねた上でするモノで、生身の身体から電脳世界の住人へと変わるのであれば尚更なのだが……彼女は寝ぼけてやってしまった。


/メカ子さん/起きたらスマホの中にいてビックリだよね~


 卯佐美の動体視力でも追うのが億劫になる速度で加速するコメント欄。その理由であるメカ子さんは意に介さず素体を動かして動作確認を済ませていた。


/メカ子さん/僕ら連携プレーとか普段やらないし声出なくても大丈夫だよね?

/メカ子さん/最悪、アレもあるし~


「いや声掛けって連携の基本ってか、初歩じゃねぇかピョン? 分かんねぇけど」


/メカ子さん/声が出せないんだから仕方ないよ~


「んじゃ役割分担しとくラビ。卯佐美がキルをとるペコだから」


/メカ子さん/僕が塗ってくね~


 機械の身体で意味があるのか分からない準備運動を済ませたメカ子さんは右手に大型水鉄砲、左手にモップを構えて走り出す。


「せめて足並みくらいわ合わせろウサ!」


 モップから染み出す紫の液体染料で大地を染めながら二人が進むダンジョン『コロココロニー』において色塗りは重要な役割だ。事前準備の小部屋にて設定した色の上では移動速度上昇などのバフが乗り、それ以外の色に染まった場所では真逆のデバフが掛かる。


//紫にしたんだ

//おかしいなイカの姿無い

//もしかしてウサミン、リスキルしてる?


「あんだけ分かりやすく出現してくれてるペコだからな」


 宙に浮かぶツボから飛び出す触手に水鉄砲やらローラーやらを持つ人間大のイカはこれ以上ない程に目立っていた。彼らは地面に着地することなく空中で真っ二つになって爆散し、地面を卯佐美達の色で染めていく。


//あのイカって液体染料しか効果なかったような?

//へ、きたねぇ花火だ

//恐ろしく速い首狩り……イカの首ってどこだ


「頭と胴があるならその間は首でいいと思うピョン」


/メカ子さん/液体染料さえ付いてれば普通の武器でも倒せるよ~


 メカ子さんの新しいコメントが固定されるのに合わせて飛翔するメカ子さんの腕がツボごとイカ型モンスターを撃ち抜いた。


//ロケットパンチだー!!

//メカ子さん、さっきまで持ってたモップは?


「あ、地面が回るペコだからメカ子さん気を付けて。ぜってー転ぶか――」


 時、既に遅し。


 筒形のスペースコロニーを模したダンジョンが回転し、天地が逆転。


 配信画面に紫色となった天井へ頭を突っ込んで藻掻いているメカ子さんが映る。


「なんで?」


//なんで?

//なんで?

//なんで?


/メカ子さん/抜け、抜けな――抜けた! あああぁぁぁ……着地


 なんとか頭を抜いて落っこちてくるメカ子さんが卯佐美の隣へと着地すると穴の空いた天井から亀裂が放射状に広がっていた。


//穴の向こうって設定的に宇宙なんじゃ……

//イカの入ったツボが穴に吸い込まれてってる

//やっちゃったね~メカ子さん


「とりあえず念のために持ってきた酸素ボンベ出しとくピョン」


/メカ子さん/あ、じゃあアレやっとくね~


「え、別に必要な――」


 卯佐美の半身とメカ子さんの半身が合わさって一人になった存在が胸の前で腕を交差させ、大きく広げるカットインが配信画面に流れる。


//カットインきてぃあ

//変! 形! 合! 体!――ってマジ!?


/メカ子さん/アーマードウサミー宇宙戦仕様、爆誕!


「これ、次のコラボした時用にとっとけばよかったと思うラビだけど」


/メカ子さん/あ……


「こりゃメカ子さんソロでのダンジョン配信デビューはまだまだ先になりそうウサ。敵も全滅したし今回の配信はここまでにするピョン。本作品この配信を気に入ってくれたなら作品のフォローチャンネル登録レビュー高評価してしてくれると嬉しいラビ。そんじゃ乙メカぺこでした~」

「お、おつメカぺこ~」


//おつペコ

//おつメカぺこ

//おつメカ


――本日の配信は終了しました――


 

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