レースも力技で突き進む猛進美少女ダンジョン配信者

「今宵、卯佐美は風になるペコ」


//ウサミン、今昼

//ポーズと言葉があって無いwww

//そもそもウサミンの方が風より速い気がする


 幾つもの銀糸に地面へと繋ぎ止められたバッファローの背に跨る幼女吸血姫キュナの後ろ。大の大人には手狭だが小柄な少女には十分なスペースへ腰掛ける様にして卯佐美は配信画面に映っていた。


「は~やれやれラビ。夜だと見辛いウサだからダンジョン内時間を昼にしてやってる卯佐美の気遣いが分からんとは」


//そうだったのか……いや、待てウサミンの耳(ヒトの方)が少し赤いぞ

//ウサミンが気遣ったことをわざわざ口にした? 妙だな……

//あ、これ素で間違えたヤツだ


 照れ隠しか撮影用ドローンからそっぽを向いた卯佐美。その視線の先で卯佐美とキュナ同様にモンスターの背に乗った人型モンスターの首が落ちた。無論、卯佐美による八つ当たりである。


//恐ろしく速い首狩り、俺でなくても見逃しちゃうね

//あの電子掲示板みたいなの雲から垂らしてるヤツもモンスターだったのか

//ドッペル・アバターとの接続が切れた……


 卯佐美がテイムモンスターである『群体バッファローを駆る吸血姫おぜう』に騎乗……騎乗? して、出走開始を今か今かと待ちわびているダンジョン『テイマーDEライダー レーシングGP』はレース開始を目前にしてルール改定を余儀なくされた。


「テイマーによる直接的な攻撃の無効化ラビ? あ、レース中って文言が消去されてるピョン」


//ウサミン、それよりペナルティ喰らってるよ

//レース復帰時の再走地点が通常より前になるって、ウサミンだけ

//落ちなきゃ問題無いな


 このダンジョンは戦闘ではなくレースでモンスターと戦う特殊な非致死性ダンジョンである。コースから外れ奈落の底へ落ちようとも、騎乗モンスターから落下して後続に轢かれようとも問題は無い。今、電子掲示板らしき物体を吊り下げてルールを告知している雲に隠れたモンスターが回復してくれた上でレースに戻してくれるので。


「えっとテイムモンスターが攻撃する分にはOKラビ?」


//〇だって

//あの雲のヤツ質問OKなんだ

//ただ、それでテイムモンスターから落下したら戻されるみたいだな


 〇と表示された後、注意事項としてテイムモンスターからの落下についての項目が表示された。テイムモンスターと直に触れている及び装備品等で間接的に触れていれば落下扱いにはならないとの事。


//腰ひもが引っ掛かって引き摺られてるのは落ちた事にはならんのか

//ってことは実質ウサミンにはテイムモンスターからの落下は無いな

//再接続できた、勝負だ! ウサミン


「フッ、このダンジョン初挑戦の卯佐美に負けても凹むんじゃねぇペコよ?」


 馬に乗る悪鬼オーガや魔猪に跨る人型豚オーク等の騎乗種ライダーモンスターの他に冒険者らしき装備を纏う顔が黒い影で分からないヒト型モンスターを乗せた様々なモンスター達が配信画面に映る。


//やった俺、いた

//頑張ってクリアした甲斐があるってもんだぜ

//戦闘では勝てる気はしないけどレースなら!


 意思無き無謀の影ドッペル・アバター。専用の端末から操作が可能な極一部のダンジョンに現れる特殊なモンスターであり、非致死性ダンジョンの制約を超えて疑似的なPVPを可能とするモンスターでありながらモンスターではない存在。ダンジョン配信では主に視聴者参加企画で使われる便利なモンスターである。


「しまった、リスナーもいるんだった。首狩ったけど大丈夫だったウサ?」


//ここはシンクロ率低いから平気平気

//ゲーム感覚だから大丈夫

//なぁ安易に平気とか大丈夫ってコメすると……


「なら、思いっ切りやっていいペコだな」


//やっぱり

//テイマーは攻撃できないから大丈夫大丈夫……だよな?

//おい、始まるぞ!


 雲から吊るされた信号機の色が赤から青へ。


 『群体バッファローを駆る吸血姫お嬢』を抑えつけていた銀糸が緩み、大地を踏み均しながら進む卯佐美達を乗せた一匹のバッファローがトップへと躍り出た。


//ところで何でバッファローは一匹だけなん?

//踏み均されてウサミンの後ろ走りやすそう

//モンスターの性質によって制限が付く代わりに特殊なバフが付くって聞くけど


「群体モンスターは一匹しか走れない代わりに群れのモンスターがダメージを肩代わりする仕様になってるから攻撃系の妨害には強いピョン」


 卯佐美を先頭に一団は緩やかな大カーブへ差し掛かる。


「よしキュナ、おめーのドラテクを見せてやるウサ!」

「キュナ?」


 バファローの角に引っ掛けた手綱を手にはしゃいでいた幼女吸血姫は後ろを振り返り、首を傾げた。ドラテク? なにそれ、とでも言う様に。


//キュナたん可愛いー

//おっと、これは怪しくなってきましたぞ

//群体バッファローの時はこのRのカーブでも曲がれてなかったけど


 卯佐美の誤算。否、勘違い。キュナと乗っただけ融合を果たしたことで群体バッファローのラビットソンがキュナを介して操縦できるかと思っていた。


 ラビットソンは曲がらない、曲がれない。


 卯佐美とキュナを乗せたバッファローはコーナーを猛進していく。あわやコーナーの壁を粉砕するかとキュナが眼を覆った瞬間、バッファローは不自然な軌道を描いてコーナーの大外をギリギリで曲がっていった。


//いったい何が!?

//なんか後続の首飛んでね?

//見えました! コーナーの内壁を糸で掴んでます

//コンパスの代わりに糸使って円を描いたの思い出した


 卯佐美達がコーナーを走り抜けると同時に支点として銀糸が結ばれていたダンジョン壁が崩れる。


「よし! 抜けたラビ」

「キュナ!」

「いやおめーは何もしてねぇペコだろ」


 力技過ぎるコーナリングの影響でイン側を抜こうとした後続はことごとく雲に吊られて少し手前からの再走を余儀なくされていた。卯佐美が曲がる為に張った糸に自ら首を狩られに行った事によって。



 卯佐美、独走。



 決して速いワケではない。最高速であればラビットソンを上回るモンスターはいても直線で追い抜くには空けられた距離が大き過ぎて足りず、コーナーで抜くには大外を攻める卯佐美よりも外で抜くことを強いられる。


//まさかレースで力技

//ウサミンから攻撃してないから無効化されないのか……

//お助けアイテムの魔方陣バブルも糸を繋いだキュナたんぶん投げて全回収して容赦なし


 説明しよう! 魔方陣バブルとは魔方陣が表面に浮かぶシャボン玉で――要するにレースゲームのサポートアイテムだ。火の魔方陣を集めれば甲羅型の火炎弾が前方走者を攻撃し、加速の魔方陣を集めれば一気に最高速まで加速ができる。


「一位だとバブルの中身もしけてるピョン」

「きゅな~? キュナ!」

「え、もっかい投げろ? おめー気に入ったペコか投げられんの」


//キュナたんが親戚の大人に遊んでもらってる子供のはしゃぎようで草

//キュナたんが楽しそうでなにより

//路面が氷のバナナだらけ……


「最後にとんでもねぇ急カーブが来たラビな」

「キュナ?」

「おめー、それ以外の言葉も喋れたペコだよな?」

「「秘儀、溝アンカー! ウサ」キュナ」


//そうか糸でつながってるから落下扱いされないんだ

//豆腐屋ですか

//ラビットソン泣いてない? たぶん残機ゴリゴリ減ってそう

//キュナたんとウサミンがアンカーになっててラビットソンに誰も乗ってないの茶葉


 ダンジョンが苦し紛れに追加したほぼUターンな急カーブも走り抜け、一位でゴールを駆け抜ける卯佐美とキュナを乗せたラビットソン。その表情は力技の急旋回から解放されるからか安堵の表情を浮かべていた。


//なんでかなバッファローの表情が分かる

//ラビットソン、お前はよく耐えたよ

//おめでとう


「一位も取れたし今回の配信はここまでウサ。本作品この配信を気に入ってくれたなら作品のフォローチャンネル登録レビュー高評価してしてくれると嬉しいペコ。そんじゃ乙ラビでした~」

「乙ラビきゅな~」


//おつキュナ~

//おつラビきゅな~

//おつラビ~


――本日の配信は終了しました――

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