戦場も不参加を願うその日の気分派美少女ダンジョン配信者

「キノコの傘は首って事でいいラビかな」


 少し疑念を含んだ卯佐美の言葉と共にヒトの頭大はあるキノコの傘がダンジョンの宙を舞った。ヒラヒラとした舞茸の特徴的な傘が紙吹雪の様に。


//わ~綺麗~とはならねぇな、色味が無さ過ぎて

//顔が付いてるタイプなら首がどこか分かるの……分かるか?

//キノコの傘は首ってより頭ってか髪型

//ズラじゃね?


 ヒトに近い形と大きさをした舞茸に死亡判定である光の塵化は起きていない。本来であれば菌糸怪生物科の茸怪人マイコニド属に分類される魔物――踊る舞茸は依然として何故か松茸を両手に踊り続けているが、その松茸を掲げながら腰らしき部位を左右に振る踊りはどことなく悲しそうであった。


//ちょっと松茸マツタケまつたけ~

//ハイハイハイ!


「も~上からてきとうに狩ってって動かなくなったとこが首でいいウサ」


 踊る舞茸は 必死に 踊った。


「で?」


 傘が無い踊る舞茸の身が上から拳一つ分狩り飛ばされる。

 卯佐美には効果が無いようだ。


//容赦無し

//そもそもキノコに首は……ううん、俺は何も言ってないぜ?

//あの踊り見ると少し待っちゃうよく分からん状態異常付与してくるんだけど、ウサミンには効かなかったか


 踊る舞茸が踊りながら光の塵となって消えていくのを見て呟く卯佐美。


「よく考えたら下からじゃねえとダメペコか?」


//確かに

//別に何体も狩りながら確かめるなら問題ない


 新たに湧いてくる踊る舞茸も見やすい様にとの理由で傘を狩られズラを飛ばされてから両断されていった。


//もう驚いてカツラ(傘)が飛んだようにしか見えない

//どこを斬っても両断されたら大概は……


「うん。傘の付け根から拳三つ分下辺りが首って事にするピョン」


//ここに新たなる無駄知識『踊る舞茸の首は傘の付け根から拳三つ分下』が生まれた

//へ~

//首が定義されちゃったよ

//あれ、何か違う踊りしてる舞茸いない?


「違う踊り?」


 コメントの指摘をみて卯佐美の手が止まる。


//なんか両手を身体の前でグルグルさせてるな

//あ、あれはグルグルまいたけダンス? 松茸もってるけど

//レアポップじゃない?


 掲げていた松茸を持つ両手を身体の前で上下が入れ替わる様にグルグルと回しているだけの違いだったが、卯佐美に首を狩られてからが大きく異なった。


//大量……大漁? まぁどっちでもいいや、たくさん出た

//マジでレアポップだった

//前回の開催は金色個体がポップして分かりやすかったのに踊りが違うだけって

//でもなんで筍!? 前回も鮭がカズノコをドロップしたし意味わからん


 今回卯佐美が潜っているダンジョン『のこ戦場』は序盤に出てくるモンスターの傾向から子戦場とも呼ばれる期間限定の非致死性ダンジョンである。基本的に無限湧きだが序盤エリア以外は前エリアのドロップアイテムを捧げる必要があり、序盤でのみレアポップ低確率で出現する通常種とは何かが異なるレア個体は同じ強さながらドロップするアイテムの量が多い。


「見分け方は手の位置ラビか……」


//ウサミン、見分ける必要ある?

//ウサミンの討伐速度からしたら誤差だよ誤差

//ダンサー系のスキルで踊り変更させたらドロップ数増えるかも


「別にスキル使わんでも操れんことはないピョン」


 新しく湧いていた踊る舞茸の四肢へ卯佐美の操る糸が巻き付き――千切れた。もちろん千切れたのは糸ではなく踊る舞茸の手足。


//四肢、断! 断!

//相手キノコだし、仕方ないっちゃ仕方ない

//高過ぎたんだ……ウサミンの攻撃力が


「……て、手間を考えたら? 湧いた瞬間に狩った方が効率いいペコだし」


//地面からデカい舞茸生えたと思った瞬間に収穫されてて茶葉

//リスキル……別にモンスター相手ならいいか

//声上ずってる上ずってる


 その後八つ当たりにより加速した踊る舞茸への惨劇はドロップした筍による山を大量に築き上げ、それを回収した卯佐美は次の階層に向かう。


 戦場は山から竹林へ。


//竹林で筍で出てくるてーとなんだろう……パンダ?

//いかにも納品してくださいって感じの箱がある

//その筍って食えるのかな


「のこ戦場はドロップが食べ物の時は普通に食えるウサだけど筍を料理できるペコか?」


 巨大な葛籠つづらの上にアイテムボックスを開き、滝の様にドロップ品の筍を流し入れながら卯佐美は撮影用ドローンに向かって問い掛ける。


//超新鮮なら刺身でいけるけど

//あく抜きとか時間かかるからな~調理済みなら欲しい

//料理するってなるとハードル高い


「そんなわけだからこの筍はプレゼントにする気は無いラビだから全投入ウサ!」


//入れた分だけ強いの出てくるらしいけど大丈……ウサミンだし大丈夫か

//確か20個入れると一番強いのが出てくるんだっけ

//全投入って何連戦になるんだろう


 暫しの時間を経て筍の投入が終わり、湧き出たモンスターは――


//極太の竹が生えてきた

//かぐや姫的な?

//何が出るかな、何が出るかな

//カーソル合わせたら『踊る舞竹』って鑑定結果が出たんだけど


 ――動く竹だった。こちらも本来であれば怪植物科の動樹物トレント属に分類される動樹物怪竹種バンブートレントとされるのだが、このダンジョンにおいてはドローンに搭載された鑑定スキルの結果はコメントにある通り。


「テメェも首どこだピョン!」


 断。


 上から三節目の下、腕っぽい枝の付け根付近を卯佐美は首と定義したらしい。


//危機一髪な感じで飛んでったwww

//恐ろしい速い首狩り……首狩り? 俺でなくても見逃しちゃうね

//光の塵になってるからマジで首だった!?


 次々と湧く……否、生える踊る舞竹を先と変わらない速度で卯佐美は狩っていく。時折光る個体も生えてきてレアポップしていたが異常な程の出現から死亡判定光の塵化のサイクルがもたらす明るさに紛れて配信中に気付くリスナーは誰一人いなかった。その個体の上から三節目と四節目の間が光っていた事にも。


//またドロップが山積みだ~

//これってビスケット? それともクッキー?

//このエリアの奥に見える茶色の噴水みたいなのってもしかして……


「そう! 奥に見えるのはチョコレートの泉ペコ」

 

//この巨大なビスケットだかクッキーの形状が二種類なのって

//これは確かに戦場だわ

//ウサミンはどっち派ですか?


「禁断の質問してるヤツは誰ピョン!?」


//おいおい陣営が一気に傾くぜ

//俺キノコ派

//ワイはタケノコ派やで

//船の絵が付いたヤツ、いいよね

//切り株のやつ知ってるヒトいる~?

//なまこ……


 コメント欄に第三第四……と勢力が増えたからだろうか、踊る舞竹がドロップする拳大のビスケットかクッキーか外見から判断が難しいお菓子の形状が増えた。


「これ争いの火種になりそうでプレゼントにしていいか迷うラビ」


//いやでっかいビスケットだけ送られても

//チョコたっぷりじゃないと……

//あ、砕いてタルト生地にするんで大丈夫ですよ


「ビスケットのタルトは美味そうペコだな。よしランダム封入でプレゼントにするウサ。欲しいヒトはいつものハッシュタグに自分が何派かを好きな語尾で投稿してくれだピョン。梱包が面倒になってスタッフが困るだろうから形状の希望は受付ねーから了承するラビ。あ、卯佐美が使ってない語尾は無効だから注意ペコ」


//おいおいおい好きな語尾でいいって? どの語尾にするか迷っちまうじゃねーか

//ウサ ペコ ラビ ピョン いったいどれで投稿すれば……

//ああ、語尾の順番をどうするか迷うよな


「そんじゃ今日の配信は、ここまでピョン。本作品この配信を気に入ってくれたなら作品のフォローチャンネル登録レビュー高評価してしてくれると嬉しいウサ。卯佐美はこの後も狩ってくけど、乙ラビでした~」


//ん? 語尾の順番……そうか!

//無理しない程度に頑張ってね~

//おつラビ!


――本日の配信は終了しました――

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