お宝も弾けて積めぬ逸般美少女ダンジョン配信者
「これは枠を撮り直した方がいいぺこだな」
何もないはずの壁を前に宇佐美はそう言い残し、配信枠を閉じた。
//え、なんで?
//突然どしたん
//えっと……おつぺこ?
SNSでの再告知の後、本日二度目となる宇佐美の配信枠が立ち上がる。
リスナーの観ている配信画面は閉じる前に映っていた渓谷系ダンジョンの岩壁となんら変わりは無い。少なくともリスナー達にはそう見えた。
咳払い一つ。
「おはラビ! こんぺこ〜、こんウサー。アイドルダンジョン配信者ギルド『ダンライ』の三期団、宇佐美・ラビットソンだピョン」
お決まりである配信開始の挨拶を決めて宇佐美が配信画面にフレームイン。
前枠から引き続き見ているリスナーも新枠のタイトルに引かれてきたリスナーも壁と宇佐美だけが映る光景に困惑から逃れられないでいた。
//ウサミン……疲れてんなら帰って休んでもええんやで
//ゆっくり寝とき〜
「いや、別に疲れてねーピョン。まぁ、もしかしなくても見えてねー感じだから仕方ないラビ」
//え、まさか本当に?
//入口なんて見えないけど
//ダンジョンの中にでもできるんだ……
宇佐美が新しく枠を取り直した理由。配信枠のタイトルにも記載した通り、特殊なダンジョンの入り口を見つけたからに他ならない。
「ほれ、ココ。ココにあるピョン」
宇佐美が徐に岩壁に手を伸ばすと、伸ばした手は腕ごと岩壁の中へ。
//うわ〜マジだ
//いや、ウサミンのパワーならあんな岩壁くらい簡単にぶち抜けるはずだ
「おい、宇佐美をなんだと思ってるウサ。確かに普通の岩壁ならそれくらいできるラビだけど、この岩壁はダンジョン壁だから音もなくぶち抜いたりはできねーピョン」
//お、おう
//ところで今日の企画だったワイバーンジャーキーは延期ですか?
「ん〜ワイバーンジャーキーのプレゼントはやるぺこよ? 宇佐美が首刈りする代わりにバッファローのラビットソンに轢かせておくウサ」
//ふと思った。ファンネームをラビットソンBとかにしたらワンチャン召喚に混ざれるのでは?
「全、略! ラビットソン召喚」
//あれ、なんか本当に混じってね?
//詠唱破棄……
画角が引いてできた配信画面の余白に現れた黒穴から無数のバッファローの群れが現れる。ただ、その先頭にいるバッファローの様子が普段と違っていた。ナニカが、いや誰かが乗っている。
//ドラキュラ幼女、来てぃあぁぁぁ!!!
//ドラキュラ幼女、来てぃあぁぁぁ!!!
//ドラキュラ幼女、来てぃあぁぁぁ!!!
ラビットソンの元ネタであるかもしれない有名大型二輪のチョッパーハンドルを彷彿とさせる長く湾曲した角を握り、バッファローの背に備え付けられた背もたれ付きの鞍にもたれ掛かるドレスを着た幼女が配信画面いっぱいに映し出される。
「ぶるるんぶるるーん」
大型二輪にしては柔らかく高音なエンジン音をご機嫌に口ずさむ幼女。
//可愛い過ぎるんだが!?
//サングラス顔の半分くらいあるぞ
//ウサミンの威を借る幼女
「ご機嫌ぺこなぁ?」
「ピッ!?」
//逃げるようにワイバーン引いてったぞ
//バッファローのウイリー走行なんて初めてみた
//あの幼女について詳しく!
「勢いよく土下座してくるとは予想できなくて首が狩れなかったウサ」
//幼女相手でも容赦無くて草
//俺らでなくても見逃しちゃうウサミンの恐ろしく速い首狩りをかわすなんて将来有望過ぎでは!?
//テイムしたのか……幼女を
「だってすっげー仲間になりたそうな眼でこっちを見てきたラビよ? 流石の卯佐美も小っちゃい子の涙には引き分けたペコ」
//流石のウサミンでも小っちゃい子の涙には勝てなかっ……引き分けたって何?
//そういえばあの幼女は何でバッファローと一緒に出てきたんだ……
テイムモンスターを召喚する際、魔方陣から展開される黒穴には一枠分のモンスターしか格納されていない。複数体同時に召喚するにはそれ用のスキルか特別なアイテムを用いる必要があるのだが、先に展開された黒穴は一つだけだった。
「卯佐美のテイム枠に空きが無かったからバッファローと乗っただけ融合させたペコ」
//ああ、うん。テイムスキル取ってテイム枠を増やすのが癪だったのね
//乗っただけ融合がここまで嬉しい日が来るなんて……
//って事は群体バッファローライダー?
「モンスター名は鑑定したら『群体バッファローを駆る吸血姫お
//キュナたん
//いいセンスだ(ウサミンにしては)
//うーうーとかでなくてよかった
「あ、そうそう。ラビットソンBってファンネームだけどZZから数えるのをやめたんぺこなんだよね。だからBは既にいるから申し訳ないけど却下ウサ。もし召喚に混ざって来られてもキュナより可愛くないラビだし」
//既にいた!?
//まさかの26進法
//キュナたんがいるのに俺らみたいなのが出てきたら確かに嫌だ
ラビットソンとキュナが順調にワイバーンを轢いてドロップアイテムを回収しているのを確認した卯佐美は撮影用ドローンを小脇に抱え、先程腕を突っ込んでいた見えない入り口へと向かう。
//この画角おかしいぞ、山が見えてもおかしくないはずなのに
//キュナたん映して
//壁にぶつか――らないね
「ん? なんか今、失礼なコメントが……まぁこの新ダンジョンの景色に免じて許してやるピョン」
岩壁をすり抜けた先。
そこは海の上だった。
//い、命拾いしたぜ
//海だぁぁぁ――……え、うみ?
//この揺れてる感じは船の上か……投石器が謎だけど
ドローンを抱えた卯佐美がいる場所をより正確に表すと海に揺られる帆船の上。その甲板には皿を叩いて梃子の原理で反対側の皿に乗った投擲物を飛ばす
卯佐美が投石器へと近づくと投擲物をのせる皿に巨大な饅頭に顔が付いた様なモンスターが現れる。
「なんか二匹揃うと解説を始めそうなモンスターぺこだな。なんかどことなくギルメンに顔が似てねぇかピョン?」
//なんか投石器の向こうの空に絵が描いてあるよ
//同じのをくっつけると一回り大きい別のになるっぽいな
//いいなこんな感じ推しのクッション欲しい
「なんかお盆みたいな島があるラビな。顔饅頭をこの投石器で飛ばすラビだけど……」
卯佐美が射出用の皿を叩く。
顔饅頭(卯佐美命名)が上空の見えない壁で爆散。
「へっ、汚ぇ花火ウサ」
//次弾のモンスターめっちゃプルプルに震えてて茶葉
//顔饅頭って
//た~ま~や~
「いま何故か甲板にあった石碑の説明文解読したラビだけどあの島に顔饅頭を崩れるまで積んだ分だけ報酬が増えるみたいウサ。一番でっかいの同士はくっつくと消えるぺこなんだけど……まいった、それ以前の問題ピョン」
後に『山盛れ宝島』と命名された、投石器の利用を諦めて素手で投げ始めた宇佐美が配信しているダンジョンはボーナス系と呼ばれる特殊なダンジョンである。
敵性モンスターが存在せず、遊ぶだけで報酬が貰える夢のような場所。善行を積んだモノの前にのみ入り口が現れるとされるその場所は一般冒険者には楽しい場所だが、逸般冒険者にはそうとは限らないない。
「あー!? また力加減間違えたピョン!」
//見えない壁でバウンドして戻ってきたwww
//汚い花火にならないだけ加減は上手くなってる
//顔饅頭、泣いてない?
繊細な力加減を要求されるので。
「あ、顔饅頭落ちちゃった……」
//ウサミン語尾、語尾
//めっちゃ落ち込んでる
//元気出して
「今日の配信はここまでにする……ぺこ。ワイバーンジャーキーの応募はいつものハッシュタグに今日の配信で一番多かった語尾以外で投稿してくれウサペコ。
//おつピョン
//おつペコ
//おつラビウサ
――本日の配信は終了しました――
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