曲調も威圧感のある感じになる美少女ダンジョン配信者

「卯佐美の歌を聴けぇぇぇ――……ピョン」


 卯佐美の歌とは言い難い叫び声が長い通路型をしたダンジョンの大部屋に響き渡ると動きを止めていたモンスター達の首が落ちる。


//え、歌……声で首が!? おらの首大丈夫だべ?

//恐ろしく速い首狩り、だったらいいな! 見逃しちゃうけどね

//動きが止まった時点で既に? でも光塵化は起きてなかったし


「あ~流石に声で首は狩れねぇウサ。今んとこ」


//今んとこ? 今、今んとことおっしゃったんですの!?

//そんないつかできる様になるみたいな言い方はヤメテもろて

//もしかしてあまりにも綺麗に首を狩れたから声の振動で揺れるまで狩られた事に気付いてなかった?


「お、正解ラビ。立ち止まった相手にこう水平、真横に狩ると首が落ちない事もあるペコ。今回はそれを利用して歌で倒した様に演出してみたピョン」


 叫び声シャウトオンリーが歌かどうかは議論が分かれるところかもしれないがダンジョンは歌と判定したらしい。その証拠に配信画面には特殊ドロップのアイテムが映っていた。


//怒鳴り声よりかは歌のシャウトって感じだった

//あれは……ライブとかで振る光る棒!

//あそっかここ曜日ダンジョンじゃん、だから配信日が少しズレたのか


 今回卯佐美が潜っているダンジョン『歌要塞』は期間限定ダンジョンと呼ばれる冒険できる時期が限定されている分類の中でも比較的縛りが緩い曜日限定ウィークリーダンジョンである。ちなみに今日は火曜日だ。


「これこれ。今日の目的はこの応援棒ライトの元集めペコ。サクラ先輩のソロライブも近いラビだから」


 曜日限定ダンジョンの特徴は特定の曜日にしか冒険できない縛りの他にもう一つ。


//ライトの元が出たって事はダンジョンの判定は通ったのか

//あのライトってウサミンが集めてたの!?

//いつもライブの度に買ってます。ありがとうございます


 そのもう一つは特定の条件下でモンスターを倒すと通常ドロップとは別に特定のアイテムを確定で落とす特殊ドロップが存在する事。このダンジョン『歌要塞』ではライブや応援上映等で振るサイリウムやペンライト……の様なモノとなる『応援棒の元』が歌を聴かせながらモンスターを倒す事で手に入る。


「ダンライのホームページからライブグッズの購入ページに飛べるからチケット当たったヒトも配信チケット買って配信で観るヒトも是非買ってサクラ先輩を応援してほしいピョン」


//はーい

//ライブチケット落ちたので配信チケット買いました……でも楽しみ!

//既に買ってあるが予備のグッズも買っておくか

//お金ないんで応援コメントしてくる


「まぁ無理しない程度の応援で……って、卯佐美の配信は観てけウサ」


 目的のブツを回収し終えた卯佐美は要塞型ダンジョンの通路を進み、隔壁に付いた扉から次の階層へ。


//倒した後に歌っても出るもんなんだね

//どてら……いや法被かモンスターが着てるのは

//モンスターも光る棒持ってる


「ヤられたと気付かせなければ誰でもできるラビだから特殊ドロップ狙いなら試してみるピョン」


//まず前提が無理なんですが

//大人しく吟遊詩人のスキル持ってるヒトとか探します

//ってか歌いながら戦えばよくね?


 先と同じことをしていては配信者として芸がない。


 卯佐美は新たなるドローンをアイテムボックスから取り出して電源を入れた。


 撮影用ドローンとは別の新ドローンが動き出し、撮影用ドローンとは離れる様にダンジョンの天井付近へと移動すると停止して重低音溢れる楽曲を流し始める。


「今日は特別に卯佐美の歌回も兼ねてるペコ。聴き逃すんじゃねぇウサ!」


//幼女が戦争で活躍するアニメのOPきてぃあ

//かっこいい

//迫力ありすぎて圧を感じる


 新ドローン――音響用ドローンは撮影用ドローンと同じく非常に静穏性の高いドローンでありながらその長所をドブに捨てるかの如くスピーカー等の音響機材を搭載しており、一度稼働すれば非常にモンスターのヘイトを買う事間違いなし。主に囮として運用する目的で開発された囮用ドローンとでも呼ぶべき代物である。


 それが更に数台。


//おとり用ドローンってコスパ最悪で誰も買わないって聞いたような……

//音が立体的になって大迫力だ

//ちょっと親父からヘッドフォン借りてくる


 卯佐美が気持ちよく歌いながら進む。


 要塞内を警備する法被を着て光る棒を持った小鬼舞踏種ダンシング・ゴブリン悪鬼舞踏種ダンシング・オーガは大音量で楽曲を垂れ流す音響用ドローンと迫りくる死歌うウサミンに諦めた表情を浮かべて天井を見上げ………………踊り出した。


//異常にキレのあるヲタ芸で茶葉

//法被を着てたからそんな気はしてた

//あいつらとライブ会場で会えてたなら俺達と気が合ったかもしれねぇ


 その舞踏種達の一糸乱れぬ踊りは彼らの寿命を生き長らえさせる事となる。普段見ない動きで、綺麗に首を狩る為に少しだけ観察を要したという理由で。


 無論、卯佐美が一曲歌い終わるまでの間に現階層にいるモンスター達が全滅したのは言うまでもない。


「これっくらいの、お弁当箱に!」


 次の階層では一転して明るい曲調だが、卯佐美が光魔法で描いたお弁当箱の形状が既に不穏。


//わ~童話だ~(目反らし)

//お弁当楽しみだな~(絶対に食べたくない)

//棺……桶……(大っきなおベント箱だ~)


「生首♪ 生首♪ 狩って詰っめて」


 既に踊りを見切られた舞踏種達に生き長らえる術など無い。


//ヒッ!? 生首が弁当箱に吸い込まれる

//やっぱりだー

//う~ん夢に見そう……今夜は徹夜か


食道とか気管のあるあっなの空いた~♪ く~び!」


//首(筒の部分)だけだとまぁ、平気いや無理!

//モザイクあってもブツ切りワームみたいでキモイ

//なにが怖いってこの歌詞を無邪気な笑顔で歌ってるウサミンが……いや、なんでもない


 卯佐美はコメントこちらを見ている。


//う、うわ~お弁当楽しみだな

//でででできらばもう少し彩どりがあると嬉しいかな

//あ……え……う……


「いや、この動揺の歌詞の続きが分かんなくて教えてほしかっただけペコなんだけど」


//あ、ああそういう事か続きの歌詞は……え? 続きってあるん

//続き以前に結構歌詞とんでるよウサミン

//地味に一番までしか分かんねぇ、いや一番なのかも定かじゃないが


「つっても卯佐美もおにぎり詰めるとこまでしか覚えてねぇラビな。あとは雰囲気でしか分からんウサ。ごま油?」


//たぶんごま塩じゃねえかな

//ふと思ったんですけどウサミンって料理できるんですか?

//あんまり美味しそうな歌詞じゃなかったな~ってイメージはある


「は? 料理? それなら今までに何回かやったペコだろ」


 配信画面にはいつぞやの罰ゲーム企画でのお料理回やドラゴンの肉を集めた【いつまで自分が狩る側だと思ってるピョン? ここはドラゴンの食卓】回のサムネイルが浮かぶ。


「ほら今年だけでも二回はやってるピョン」


//そうだよな……うん? 料理、料理か

//果たして解体は料理と言っていいモノか

//すみません訂正します。ウサミンは手の込んだ料理ってできますか?


「なぁこれ卯佐美を舐めてるペコだよな」


//あの、すいません。ただウサミンが作ったちゃんとした料理が見てみたいだけなんです

//サラダ以外の料理は確かに見てみたいかも

//さっきの悲惨な弁当箱を払拭できるなら正直サラダでもいい


「ちゃんとした料理って世のお母さん達を敵に回す気ラビか? その言い方だけはヤメテおくピョン」


//ごめんなさいママー

//おっとそれだけは敵にしちゃらんねぇ、気を付けるぜ

//気付けばまた敵全滅してら


「そんじゃ後数曲歌って終わりにするピョン。本作品この配信を気に入ってくれたなら作品のフォローチャンネル登録レビュー高評価してしてくれると嬉しいペコ。そんじゃ次の曲いくペコ~」



//歌の数だけ階層が進むんですね? あ、アニキの曲をお願いします

//ラブソング聴いてみたい

//ダンライメンバーの曲って何が歌える?




「空にそびえる~」


「はにゃ~ん!」


「ビビデ――」




――本日の配信は終了しました――

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